4 赤井栄助
赤井栄助、二十七歳。
今回の連続殺人事件の最初の被害者。
ミルグイーヌカンパニーという会社の営業マンで、
賃貸のワンルームのアパートで一人暮らしをしていたが、
四日前の夜、職場からの帰り道に何者かに襲われ、首を切断されて殺される。
勤務態度はあまりほめられたものではなく、遅刻や、仮病を使っての欠勤は当たり前。
上司に叱られても反省の色すら見せず、勤務態度を一向に改めようとしない。
それでも営業の才能はあるようで、仕事は人並以上にこなすので、会社も渋々雇っていたようだ。
浮気性で女癖が悪く、数多の女性と関係を持つが長続きはせず、付き合っては別れるの繰り返し。
結婚歴はなし。
現在二人の女性と付き合っているが、最近手持ちの金が少なくなっているせいで、
どちらとも疎遠になっているらしい。
高藤さんが開いたページの被害者の内容は、大体こんな感じだった。
この赤井っていう人と高藤さんには、何らかのつながりがあるんだろうか?
と思っていると、高藤さんは重い口調で話を切り出した。
「彼は、高校時代にクラスメイトだった人で、実はその頃に、交際を申し込まれた事があるんです。
だけど彼はいわゆるチャラ男で、
その頃も何人もの女子と付き合ったり別れたりを繰り返していたので、私はお断りしました。
そのまま高校を卒業して、お互い違う大学に進んで、それから会う事もなかったのですが、
半月ほど前、高校の同窓会があって、そこで彼と再会したんです。
その時彼は、また私に交際を申し込んで来ました。
私は付き合っている彼も居なかったのですが、彼の事は生理的に受け付けられなかったので、
その申し出はお断りしました。
ですが彼があまりにしつこく迫って来るので、メールアドレスだけは交換したんです。
メールが来ても無視し続けていれば、そのうちあきらめるだろうと思って。
それで、同窓会の後に何回かメールが来て、食事に誘われたりしていたのですが、
私はずっとそのメールには返事をしませんでした。
そして赤井君が殺される前の日に、こんな内容のメールが届いたんです」
高藤さんはそう言うと、携帯電話を机の上に置き、私達に見せた。
况乃さんがそれを覗きこみ、その背後から綾芽と私も画面に目を凝らす。
そこにはこう書かれていた。
『やべぇよ!オレ、今勤めている会社の重大な秘密を知っちまったんだよ!
これをネタに社長を脅迫すれば、いい小遣い稼ぎになりそうだ!
そしたら恵子に欲しい物を何でも買ってやるよ!
だから今度一緒にメシ食いに行こうぜ!
うまくいったらまた連絡するわ!』
「勤めている会社の、重大な秘密?」
私が眉を潜めてそうつぶやくと、高藤さんはうなずいて続けた。
「はい、そしてこのメールが届いた次の日、彼、赤井君は殺されたんです」
「という事は、この人はこのメールをよこした後、
その重大な秘密とやらで本当に自分の会社の社長を脅迫したんでしょうね。
それで口封じに殺された」
綾芽の言葉に、高藤さんは再びうなずく。
すると况乃さんもうなずきながら神妙な口調で言った。
「なるほど、つまり高藤様は生理的に受け付けないゴミくず同然、
いや、それ未満のチャラ男に言い寄られてほとほとうんざりしていたけど、
都合よく何者かに殺され、心の底から溜飲が下がった。
なのでそのチャラ男を殺してくれた犯人にお礼がしたいので、
犯人を見つけ出して欲しいと、そういうご依頼ですね?」
「え、あ、いえ・・・・・・」
况乃さんの、身も蓋も無さ過ぎる物言いに言葉を詰まらせる高藤さん。
なので私は思わず口を挟んだ。
「况乃さん、高藤様が依頼したい事は、恐らくそういう事じゃあないと思いますよ?」
それに対して况乃さんは、本気で意外そうな顔をしてこう返す。
「あら、そうなの?私ならそんな男、一秒たりとて生きていて欲しくないわよ?
彼が死ぬ事以外に彼に感謝する事は、千年生きてもないでしょうね」
この人、本当に容赦ないな。
これ以上况乃さんに何を言っても話が進まなさそうなので、
私は咳払いをし、高藤さんに向かって言った。
「そ、それはともかく、高藤様の本当の依頼を聞かせていただけますか?
まさか本当に彼を殺した犯人にお礼が言いたい訳じゃあ、ないですよね?」
すると高藤さんは気を取り直した様に
「も、もちろんです!」
と言い、神妙な口調でこう続けた。
「私は、彼が勤めている会社のどんな秘密を知ってしまったのか、それを調べて欲しいんです。
もし彼がその事で殺されたのなら、もしかしたら犯人は、彼がメールを送った相手である私をも、
口封じに殺そうとするかもしれない。そう思うと、もう夜も眠れないんです・・・・・・」
高藤さんはそう言い、両手で顔をおおった。
そんな高藤さんの様子を眺めながら、綾芽は両腕を組んで口を開く。
「もし、高藤さんの言うように、赤井という男が会社の秘密を知った為に殺されたのだとしたら、
他の被害者も、同じ理由で殺されたんでしょうか?」
それに対して况乃さんは、ファイルのページをぱらぱらとめくりながらこう返す。
「それは違うわ。他の被害者は、彼が勤めていたミルグイーヌカンパニーとは何のつながりもないし、
彼の知り合いという訳でもない。
おそらくこの会社の社長が、殺し屋でも雇って無差別に殺させて、
この事件を無差別殺人に見せかけ、最初の殺人の動機を隠そうとしているのよ」
「ええっ⁉じゃあ他の人達は、ただのカモフラージュで殺されたっていうんですか⁉」
衝撃の言葉に私は思わず驚きの声を上げたが、况乃さんは事もなげに言葉を続ける。
「そうよ。私がミルグイーヌカンパニーの社長ならそうするわ。
会社の中でそれくらい危ない事をやっているのならね」
「・・・・・・」
况乃さんにそう言われ、私はそれ以上言葉を返す事ができなかった。
もし、况乃さんが言うように、赤井さん以外の被害者が、
ただのカモフラージュで殺されたのだとしたら、高藤さんの命が狙われる事も十分ありえる。
内容こそ書いていないが、赤井さんは自分がミルグイーヌカンパニーの重大な秘密を知ったと、
メールで高藤さんに送っているのだ。
その送信履歴は彼の携帯に残っているはずだし、
それを犯人が確認して、今も高藤さんの居所を探していると考えても何ら不思議じゃあない。
そしてもし犯人が高藤さんを見つけたら、彼女が会社の秘密を知っているかどうかに関係なく、
犯人は高藤さんを殺そうとするだろう。
高藤さん自身もその事を察知して、况乃さんに依頼をしてきた。
さて、况乃さんはどう動くんだろうか?
そう思いながら况乃さんの後姿を眺めていると、况乃さんはファイルから顔を上げ、
高藤さんをまっすぐに見据えて言った。




