3 今回の依頼人
「どうぞ」
事務所の客間のソファーに座った高藤さんの前の机に、私はお茶を差し出した。
そんな高藤さんの正面のソファーに况乃さんが座り、
その背後に、綾芽が両手を頭の後ろで組みながら立っている。
そんな况乃さん達を前に、高藤さんは少し戸惑いながら口を開いた。
「あの、あなたが園真さんでいらっしゃいますか?その、思っていたより随分お若いんですね」
確かに、年齢的に言えば况乃さんと高藤さんでは、十歳以上歳が離れているだろう。
だけど物腰というか、雰囲気で言うと、歳の差はあまり感じない。
これは高藤さんが若く見えるせいだろうか?
それとも况乃さんが大分と年増・・・・・・
いや、大人びて見えるせいだろうか?
それはともかく、そんな高藤さんの言葉に、况乃さんは事もなげに答えた。
「確かに、私は年齢で言えばまだ年端もいかない小娘ですが、
探偵としての能力と経験は、どこにも負けない自信と自負がございます。
なのであなた様の依頼にも、ご満足いただける結果を提供してご覧にいれます」
な、何という凄い自信。
私と歳はひとつしか変わらないはずなのに、
どうしてこの人はこんなにも自信に満ちあふれているんだろう?
やっぱりそれだけの容姿と才能に恵まれているから?
そしてそれを活かして順風満帆の人生を歩んできたから?
おそらくこの人の人生には、挫折や敗北という文字は存在しないんだろう。
数えきれないほどの成功と勝利を収めて来たその自信が、全身からにじみ出ているようだ。
平平凡凡な私には、到底行きつく事のできない領域だわ。
この人の背中を見ていると、つくづくそう感じた。
それはさておき、况乃さんは机の上に沢山の書類をとじたファイルを置き、淡々とした口調で切り出した。
「それではさっそく、ご依頼についてのお話しを始めさせていただきます。
先日いただいたご依頼のメールに、
今起こっている連続首切り殺人について詳しく調査して欲しいとありましたので、
被害者についてできる限り詳しく調査いたしました。それがこちらです」
そう言って况乃さんは机のファイルを開き、そのファイルを高藤さんが身を乗り出して覗きこむ。
そこには今回の連続殺人事件の被害者と思われる人達の経歴が、事細かに書きこまれていた。
どれもニュースで見た名前で、そこに今までの経歴や、
最近の人間関係、職場やバイト先での評判等が書かれている。
况乃さんや綾芽は最近ずっとこれを調べていたのか。
それにしてもよくこれだけの情報を集めたものだ。
况乃さんって、本当にちゃんとした探偵なんだわ。
と、今更ながらに感心していると、それらの書類に一通り目を通した高藤さんに、况乃さんは言った。
「これが今回の連続首切り殺人事件に関する現時点での調査結果です。
今日殺された被害者については現在調査中ですが、これらの情報をまとめると、次の様になります。
まずこの一連の事件の被害者達は、成人の男性で首を切断されて殺された事以外、
職業も、人間関係も、何ら共通点がない事。
そして誰かに殺されるような理由も特に見当たらないという事。
これを踏まえて警察は、
人の首を切断することに快感を覚える快楽殺人者による犯行と見て捜査を進めています。
まあありてい(・・・・)に言えば、
今の時点ではニュースで報道されている事に毛の生えた程度の情報しか分かっていないのですが、
引き続き調査を続け、新しい情報が分かり次第、またお知らせいたします。
とりあえずここまではよろしいでしょうか?」
况乃さんの言葉に、高藤さんはファイルから顔を上げて頷いた。
その高藤さんをまっすぐに見据え、况乃さんは淡々とした口調で尋ねる。
「では、今回の依頼に関して質問させていただきたいのですが、
高藤様は、この被害者のうちの誰かの関係者なのですか?
戸籍上ではあなたの名前は出てこなかったので、
この被害者のうちの誰かの恋人か、愛人か、はたまたもっといかがわしい関係なのか・・・・・・」
「ちょっと况乃さん!そんな事言ったら失礼じゃないですか!」
况乃さんの言葉に思わず口をはさむ私。
すると高藤さんは苦笑いしながら
「いいえ、構いません」
と言い、ファイルの中の、ある被害者のページを開いた。




