8.退学者続出
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
八 退学者続出
コフィン・エクスプレスが進むに連れて、どんどん落第者が増えて行く。
一応、ミヤケはまだ落第せず残っていた。
怪我をして幸運? だったのが、体育の授業を見学出来る点であった。
ランニングとか、反復横跳びとか、足を使った訓練が出来ないのである。
そのかわり足を使わない訓練、握力計測等腕を使う科目で普通より厳しく訓練・採点されていた。
「足使わなくていいなんて最高だ」
ジーンが言った。
「ほら、見ろよ。こんなに体力訓練免除があるんだぜ」
ビラーッと体力測定の一覧を見せる。
「ジーン、知ってるの?」
「何が?」
「そのやらなくていい項目、彼の足が治ってリハビリが済んだらまとめてやるって話よ」
「げーっ、鬼だなぁ、おれらの教官は」
「その時退学扱いになったら泣くな、俺なら」
「容赦ないのは今までも同じでしょ。ところでジーン、法務課程生として言わせてもらうけど、その記載、ほら、二番のところ、連邦法第十一条抵触じゃなくて、第十一条補足三項抵触よ」
慌てて見直すジーン。連邦法の六法全書片手に勉強中である。
「あ〜、……ほんとだ」
「早めに直す!」
勉強は、チーム員が先生となってお互いの勉強を見直す。
男子のみ、女子のみのチームだと、男子寮、女子寮の勉強スペースが使えるが、男女混合チームだと使えないので、男女共有スペースが勉強場所となる。
今日は、午前中に行われた二回生一般教養の法学レポート作成中で、このチームでは監督官が法務課程のグレイスなのである。
「フレッド、十五番の引っかけ問題にそのまま素直に答えないで、間違ってるわよ」
「ウォン、貴方も同じところ引っかかってる」
「カイルは〜、引っかけ問題にはかからなかったのね、さすがひねくれてる。でもストレートに答えていい十番、考えすぎよ、普通の答えで良いから」
「私が監督している法務で失点したら容赦しないわよ」
グレイスに半脅迫的に言われ、黙々と課題をこなす彼ら達。一つ離れたテーブルでは別のチームが同じように課題にあたっていた。
さて、コフィン・エクスプレス中盤にも差し掛かろうとする時。新入生には第一関門が待ちかまえていた。中間考査である。今までに習った事全てが対象になるこの試験。
一気に退学者が出るのもこの試験だった。
何人が生き残れるのか?
本格的なサバイバルゲーム開始である。
午前中は自主学習、午後が三時間に渡るテストである。
新入生はそれこそ消灯ギリギリまで勉強に勤しんだ。
それがよくわかる光景——朝、皆顔が真っ青で隈ができていたのである。
「俺たち、あそこまで酷かったっけ?」
「順位はいいから、とにかく乗り越えればいいやで楽観視してたな、おれは」
上級生の同情をかっている新入生達。
「理解度判定だから、順位は関係ないテストなんだけどね」
グレイスが半分呆れたような感じで言った。
「まぁ、テストに対しての考え方の違いもあるんだろうけどさ、ちょっとあれはないな」
フレッドも同じ感想のようだ。
入寮初日からトラブル続きのミヤケ君はというと……。
「あらま、顔色良いじゃない」
という評価がついた。今は松葉杖で生活している。
「あいつ、ちょっと鈍感かもよ。新入生代表の時も顔色変えたり緊張したりってのが、ま〜ったく無かったからな」
これは入校時べったり引っ付いていたカイルの談。
鈍感か胆力か。
理解が別れるところだが、とりあえず見た目合格のミヤケであった。
朝のランニングを終えて戻ってみると、青い顔をして倒れ込んでいる新入生が数多く居た。
この光景を見て――ぶちっ!
誰かの感情の糸が切れる音を聞いたような……
「てめえら、このくらいでへたばってんじゃねぇ! 試験なんてなぁ、やってみなきゃわかんねーだろ。今から怖がってどうする! そんなんじゃ、受かる者も受かりゃしねぇ! 情けねー下級生もったもんだぜ、俺たちは!」
切れたのは、いつもはストッパー役になるカイルだった。
このため、止めるストッパーがいない。
「青くなるのはテストに合格しなかった時にすべきでしょう。今は前向きにいきましょうか」
今回はウォンが冷静に淡々と言ったためストッパーらしくなり、大事にはならなかった。
「何人がカイルとウォンの言葉で復活するかしら」
グレイスは楽しげに言った。
「復活するとしたら、気持ちの切り替えが早い奴だな。そいつは見込み有りだぜ」
ジーンも言う。
こんな楽天的なところがあるからこそ、プランキッシュ・ゲリラは今まで落第者を出さず、トップでいられるのかも知れない。
下級生にも早く気付いてほしいと思う面々だった。
さて、二回生にも大変な時期というものがあり、来月行われる救助訓練がそれにあたる。
十キロ離れた場所にある山小屋に居る要救助者をいかに早く救助するかが問われる実地試験である。
朝早くから山に入り、要救助者の手当をして夕刻十六時まで戻れば合格。
登山ルートから救出手順、下山までのルートを各チームで決め、執り行わなければならない。
空からの救助は不可という設定の元で行われる救助訓練。時間内に下山すれば問題はないが、遅れた場合は、その理由とそれに対しての対処方法をレポートにし教官達に提出する必要が出て来る。
内容が悪い場合、これも退学理由になる。災害救助が出来ない人間は不要と判断されるためだ。
「泣きたいのは、俺たちの方だぜ」
どの山に救助に入るのか全く分からない。毎年違う山をランダムに選択されるためである。
こっちの方がコフィン・エクスプレスより難しい。
そう思うメンバーだった。
午前が過ぎ、昼食時――
新入生はやはり青い顔の者が多かったが、カイルは完全無視。黙々と昼食の天ぷら蕎麦を腹に詰め込んでいる。
他のメンバーはというと……。
人物観察しながら食事をとっていた。
少しではあるが、カイルの朝の言葉が聞いたのか顔色が戻っている者も居た。
「受かる人数、少し増えたかな?」
「だと良いが……カイルが切れた意味もあったという事だろう」
ずるずると天ぷら蕎麦を食べる面々。
「薬味が足りない」
と言い出したのは、前回と同じウォン。
「七味唐辛子があるだろう」
「辛さが足りなくて……」
この言葉を聞いて蕎麦をふきだしそうになった者数名。
「ほれ、特製調味料」
といって粉末の唐辛子を取り出したのは、またもやフレッド。
「理科学研究室で唐辛子を粉砕ミキサーにかけた。辛さは特に増してる筈だが、味は保証しない。味見はご免だったからな。」
「わかった」
そう言ってまた今度は七味唐辛子をドバーッとかけたウォン。麺が全く見えない状態である。
食べた時の味を想像して、今回はウォンを除いたメンバー全員がどんぶりを持って後ろを向いて食事した。
問題の午後――
二回生、三回生も抜き打ちの本テストがあり、話す者も無く静かに時間が推移した。
この日は新入生だけでなく、在校生までもがサバイバル状態になってしまったのである。
すいすい問題を解く者も入れば、考え込む者。いろんな状態の学生がテスト用紙に向かっていた。
二回生、三回生は前触れの無いテストに死にものぐるいである。
この本テストを落としたら、問答無用、退学! である。
小テストであればレポート提出という道もあったのだが……
結果は講堂前の電光掲示板に表示される。
二回生、三回生はチームごとの発表であるため、チーム員全員がクリアした場合は『赤』、一人でもクリア出来なかった者が居れば『青』で表示される。
まずは二回生、三回生から。
二回生は、赤が十五、青が六。つまり最低でも六人が退学になる。
中には構成要員が足りなくなり、チーム存続のためチームを組み直さなければならないところも出た。
三回生は、赤が十五、青が三。こちらも二回生と同様の対応となる。
三回生まで上り詰めて、抜きうちテストに不合格では泣くに泣けない状態である。が、これがこのアカデミーの決まりであった。
特にある分野に於いて優れた成績を持つ者は、特殊訓練学校への編入という場合もあるが極稀である。
さて、二回生のプランキッシュ・ゲリラは、赤表示。すぐ後を追いかけているライトニング・ブルーも赤表示。チーム員全員合格だった。
他のチームでは成績表を見て自分が不合格と知ると『ごめんなさい』や『今までありがとう』と言った声が聞かれた。三回生も同様である。
新入生はまだチームが無いので個人名で表示される。
表示されなかった者が落第。
中間テストでは三十二名脱落。
この日はアカデミーにとって大きな一日となった。