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7.コフィン・エクスプレス(coffin express)

※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※

※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※

※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※


七 コフィン・エクスプレス(coffin express)




 入校式の翌日から、実際の授業が始まった。

 魔のコフィン・エクスプレス(coffin express)の開始である。


 最初の授業は連邦政府の概要。続いてアカデミーの歴史。

 これで午前の授業は終わり。

 グレイス達と食堂で合流すると、既に顔色が悪いのがちらほらと出始めている。

「大丈夫かな、こりゃ」

 ミヤケはというと、比較的顔色は安定していて、午前の授業はのりきったようである。

 午後は宇宙進出の歴史とアカデミー創設になった経緯の授業だったようである。

 そして、コフィン・エクスプレスの期間中は、授業が終わった後一時間のテストがある。

 一日の授業内容の振り返りの内容であるが、設問が細かい。

 テスト内容を見て気分を悪くする者も出ていた。

 すいすいと答えを書く者と手を止めて唸っているもの。

 大講義室はそれぞれの者に試練をあたえて存在していた。

 本日の設問は全てマークシート方式。

 中には答えが分からず、鉛筆を倒して回答を書くという古典的な方法を取る者も出ていた。

 回答を集計し、成績を出す。

 ――第一日目、落第者『0』

 『おー』という声を聞いて、それぞれ自室に向かった。


 二日目から専門分野が絡んだ講義が入って来る。

 昨日よりも更に顔色が悪い生徒が続出した。

「今日はどうかね、新入生」

 フレッドが言った。

「人の事心配している暇あるの? 自分の事は?」

 これはグレイスの言葉。

「俺たちはコツを掴んでいるから大丈夫でしょ!」

 これはカイル。

「幾何学で小テストあるって聞いたぜ」

 ウォンがぼそっと言う。

「げっ、おれ取ってるじゃん!」

 フレッドが悲鳴を上げた。

「だから他人の心配している暇あるのか聞いたのよ」

 グレイスは落ち着いていた。

「ちなみにお前は?」

「法廷実習」

「相手をまた胃潰瘍にするなよ〜」

「それは相手次第でしょ」

 そんな会話をしながら、流れ作業で昼食のおかずを取って行く面々。

 今日はきんぴらごぼうと麻婆春雨か……。

 おかずを見てご飯・みそ汁を各自盛る。残さないように盛るが暗黙のルールだった。

 さて、席について食事をするが……

『甘い』の声が聞こえて来た。

 ウォンである。

 どれどれと麻婆春雨を口にする面々。程々に辛いのであるが……。

「ほれ、特製調味料」

 フレッドがひょいと投げたのは、ラー油。それもただのラー油ではない。市販されているラー油に更に手を加え辛みを増した『特製調味料』なのである。

「サンクス!」 

 キャッチしたラー油をドバドバと振りかけるウォン。

 見慣れているチーム員達は素知らぬ振りをして食事しているが、初めて見る光景の新入生達は気持ちが悪くなって、青くなっていた顔をさらに青くした者も居た。

 この時間、全学生が食堂に集まる。

 車椅子のミヤケはというと……車椅子を押してくれる友人を作れたようで笑いながらおかずを取っていた。

 その光景を見て、グレイスが一言。

「あれ、本心からの行動に見える? 点数稼ぎ?」

「やだよ〜。法律家は、何でも疑っちゃって」

「だって見てよ、あれ」

 そう言われて他の面々がミヤケ達を見る。

「ミヤケの車椅子を押してる男、必ずと言っていい程話相手に目を合わせず左下に反らせているのよ」

 確かに今も目を向けている。

「あのさ、犯罪心理学で、何か習わなかった?」 

「……あっ!」

 確かに習った。犯罪心理学の授業で。

「嘘吐く時は約七割の人間が左下に目を向けるんだったわよね。あれ、照れているのか偶々かと思って見ていたけど、照れじゃなさそう。私からすれば、どう見ても点数稼ぎにミヤケを利用しているようにしか見えないわ」

「親切心を表に出してってか? 評価の足しにしようと? 何かそれって邪道だなぁ。アカデミーにそんな奴が入学出来るとは思わなかったけど。……この事ミヤケに直接言う訳にもいかんしなぁ」

「私達が気付くくらいだから、教官達も気付いているでしょう?」

 ぱくっとご飯を飲み込んでグレイスは食事を終わらせた。

「ごちそうさま」


「午後の法廷実習、隣の連邦大学と合同だから、先行くわ!」

 そう言って授業の準備を早めにするグレイス。

「連邦大と合同という事は地下の高速モノレールを使うのか」

 連邦大学、士官学校、アカデミーでは合同の授業もあるため地下に高速モノレールを走らせている。

 グレイスはそれを使って連邦大学に行こうとしているのである。

「おれは操縦士課程と火器管制課程だから、連邦大学と合同授業、無いんだよなぁ」

 ジーンがぼやいた。

 他の四人は連邦大学と重なる内容の授業があり、連邦大学に出向くことがある。

「お前の場合、士官学校と繋がりがあるだろうが」

「士官学校はアカデミーと同じくらい女子が少ないんだよ〜。しかも取ってる科目が科目だから……花が無いんだよ花が!」

「女性に何を求めてるんだよ」

「恋愛の花を咲かせようと……」

「ムリ!」

 間髪入れずに否定の言葉を言われたジーン。

「お前ら、もう少し優しさというものは無いのか?」

「無い!」

 これも瞬殺と言っていいタイミングで答えられた。

「おれって、わびしい」

 そう言ったジーンであった。


 高速モノレールに乗って連邦大学についたグレイスは、真っすぐ授業が行われる第二小講義室へ向かう。

 大学の敷地内に居る学生の注目を集めていたが、我関せずで、ずかずかと進んで行った。

 私服通学の連邦大学では、アカデミーの制服が目立つのである。

 その事を知っているグレイスは視線を無視して講義室へと向かった。

 グレイスが講義室に入ると、一瞬ザワリとした音が聞こえた。

 毎回の事で慣れてしまい黙っているが、グレイスはこの講義では注目の的なのである。

 何故かというと、コフィン・エクスプレス終了後、一ヶ月経った頃の法廷実習で、たかだかアカデミー一回生であったグレイスが、法律用語で並び立て、似たような事案を持ち出し、相手役の教授をやり込めて胃潰瘍で入院させてしまったのである。

 ちなみにこの授業は、連邦大学では三回生以上が受ける講義である。

 この事件以降、授業でグレイスが模擬法廷に立つ事は無い。超難関校である連邦大学の教授達が皆避けるのだ。

 それを分かっていて、グレイスはいつも教授の前の席、一番前の中央の席に座るのである。嫌みなくらい堂々と足を組んで講義を聴くグレイス。男子生徒の中には、この凛々しい姿のグレイスに憧れる者も出ていた。

「あの、おれと付き合って……」

 途中まで言いかけるが

「ムリ!」

 グレイスは瞬殺で言葉を切る。

「最後まで話を聞いてくれても……」

「聞くだけ無駄だもの」

「じゃあ、みんなで合コンなら?」

「私は今恋愛に興味はないの。それに連邦法に於ける成人年齢に達していませんので、恋人の先に進むと連邦法の淫行条例に引っかかりますよ? 私はご免だわ。では、次の授業はアカデミーなので、さようなら」

 言われた男は呆然としていた。頭の中を法令がぐるぐる回る。

 ――淫行条例?

「彼女、十八歳未満かー!」

 悲鳴にも似た声が響き渡った。


 アカデミーに戻って来たグレイスは、ジーンとともに操縦課程の授業を受ける。

 いろんな事案を元に、その後の対策を話し合い、それを教官に報告して結果が正しいのか学んで行くのである。

 今回はすんなりと行ったが……。

 さて、アカデミーの新入生は本日の締めのテストに取りかかっていた。

 予想では今日からぼちぼち落第者が出るところだが……。

 予想通り、本日五人落第者が出た。

 あの、点数稼ぎに見えた男も含まれていた。

「やっぱり教官、しっかり見てるわ」

 ジーンが言った。

「ミヤケの世話、誰がするんだよ」

「それは、あれじゃない?」

 グレイスが指差した。

 同じ新入生の女性が車椅子を押している。楽しそうに会話しながら。

「おれには春が来ないのに、なんであいつには来るんだ〜!」

「ただの友人かも知れないのに、大袈裟な奴」

「いや、あれは恋愛に発展する」

「なら、賭ける?」

「のった!」

 ミヤケの知らないところで、ミヤケの今後が賭けの対象にされていた。

 この事実を知らない事が良い事なのか悪い事なのか……。



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