5.入校日スタート
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
五 入校日スタート
次の日、『起床』の放送を元に、一斉に寮生が起き上がる。
上級生にもなると洗面所の空き具合をみて先に顔を洗うか歯磨きを先にするか、体操着に着替えをするか決めて行動する。
慣れていない新入生はもたついている間に全てこなしグラウンドに出ていた。
新入生がグラウンドに出た時、既に上級生は整列をしていた。
そこで愕然とした事がある。
人数があまりにも少ないのである。
ミヤケも呆然としていた。
入学生二百人あまりに対し、昨年度入学生は半分にも満たないのである。更に上級生になると数が少なくなっていた。
「これが昨日言ってた覚悟?」
これがまだ序の口である事を、ミヤケは分からなかった。
何か始まるようである。ミヤケは前を向いた。
「連邦旗掲揚、敬礼」
上級生が連邦旗に向かって一斉に敬礼をした。旗が揚がり終わるまで続き、旗が揚がり終わると敬礼を解除した。
「次、体操をはじめる、用意!」
上級生達は素早く左手を上げ、立ち位置を確認して行く。
ミヤケ達は見よう見まねで後に続く。
「新入生。我々は手取り足取り教える事はしない。見て覚えろ、行動を盗め」
そう言われ、体操が進んで行く。
体がミシミシいう体形もあって、自分達の体の固さを実感する新入生達。
体操が終わるとすぐに五キロのランニングである。
正直、体が思うように動かなくなっていた。
在校生はすいすい駆けて行く。
新入生はばたばたと倒れて行く。
後ろから最後尾を確認していたグレイスが容赦ない言葉をかけて行く。
「ここでへこたれたら即退学ものだぞ」
行きを切らしていた新入生がグレイスの顔を見て引きつり慌てて走って行く。
「私は鬼か?」
でも、自分達も同じように特訓を受けて来た。それを次の世代に受け継いで行く。
新入生に活を入れながら、最後尾を走って行くグレイスだった。
グレイスがランニングコースを走って行くと、足を押さえて蹲っている人が居た。
ミヤケだった。
「足が……ごきっといって……」
痛みで上手く話せないようであった。
グレイスは腕時計に向かって言う。時計にある機能の双方向通信をオンにする。
「司令室、こちらグレイス・九条候補生。現在マラソン二キロ付近、怪我人発生、左足骨折の可能性あり、至急応援請う」
司令室から『了解』の回答がきた。
救助が来るまで待っていた二人だった。
アカデミーから救急の担架が運ばれミヤケを乗せてアカデミーの医務室へ直行した。
「おい、グレイス、俺たちも走らないと……」
一緒に最後尾を走っていたジーンが言った。
「そうね」
他に脱落者が居ないか確認しながらランニングコースを走り、無事完走した頃には、アカデミーのグラウンドに多数の新入生が息を切らし、転がっていた。
グレイスとジーンがミヤケを見舞うと、丁度医務課程のカイルが居た。
「単純骨折、一ヶ月もすれば普通に動かせる程度のものだ」
カイルはランニングを早めに終わらせ、ミヤケの診断にあたっていた。
「石に躓いて転けたところに大きい石があってごっきりだと」
「よかったな〜。複雑骨折や粉砕骨折だと治るのに時間がかかるし、飛行士生命に影響が出たかもな。不幸中の幸い。単純骨折でよかったな」
昨日に引き続き今日も災難にあったミヤケ。
「ところでお前、もしかして疫病神着いてないか?」
「やだな、先輩、シャレにもならないですよ」
「もしかしてアカデミーで一番ついてない男?」
「――考えないようにしておきます」
入校式には車椅子で参加だな、これは。
開校以来初めての出来事だった。
銀河連邦関連機関とのことで、バリアフリー対策もされているアカデミーであるが、実際使用したのはミヤケが初めてであろう。
今日は入校式。
グレイスが考えていた通り、ミヤケは安全のため松葉杖ではなく車椅子での参加となった。
入校式前の新入校生代表挨拶の選考でも、また珍事があった。
アカデミーでは、成績上位者が代表を務めるのではなく、平等精神からくじによって誰が何を担当するのか決める。
平等に選考ということでくじ引きを引いたが、何とここで、ミヤケが新入校生代表挨拶のくじを引きあててしまったのである。
車椅子で式場の壇上に上がるのも……という話も出たが、引いてしまったものは仕方ない。ミヤケが新入生を代表して挨拶する事になった。
新入生の対応は、前年度の学生があたる事になっている。
今回はカイルが医務課程生としてミヤケに補助として就く事となった。
――さて入校式はというと……
「さて、諸君。君たちは入学試験突破という一次試験は通過した訳だ。だが、本番はここからである。一ヶ月の間、連邦職員としての一般教養と通常の大学で一般教養となる科目をみっちり行ってもらう。情け容赦なし。『コフィン・エクスプレス(coffin express)』と呼ばれる期間でもある。これは名前どおり棺桶特急という意味だ。Dマイナスを一つでも取った場合は棺桶特急乗車、即退学となる。毎回約半数は脱落する事を肝に銘じておくように。諸君らの後ろに居る先輩達はその試練を超えた者達である。分からない事があれば何でもきくがいい。答えてくれる筈だ。上級生諸君は新入生の質問には答えてやるように」
校長の脅しとも取れる入学祝いの挨拶に、新入生は引きつり沈黙する。
この後、新入生代表の挨拶である。
「おい、大丈夫か?」
カイルがミヤケに聞いた。
『はい』といつもと同じような返事が返って来る。
――もしかしてこいつ、鈍感?
他の新入生が青くなっているのに対し、我関せずのミヤケ。
――まぁ、驚きすぎて声がひっくり返るよりはマシか
以前、本当に声がひっくり返り、満足に代表挨拶が出来なかった生徒が居る。
カイルはミヤケの車椅子を押して、会場の壇上に上がって行った。
壇上に車椅子が上がり、校長の正面に固定したあと、カイルが十分な距離に離れたのを見計らってミヤケは新入生の挨拶文を読み上げる。
「ミヤケってもしかして見た目より肝が据わっている?」
「そうらしいな、おい、黙って聞いてないとまた反省文行きだぜ」
「大人しくしているか」
新入生の入校式を後ろの在校生席から見守っている上級生達であった。
無事、入校式が終わり、お昼の食事となったが、ここでも教官のチェックが入りまくった。
「ここは喫茶店ではない、会話は要らない。さっさと食べて片付ける!」
「好き嫌いしている場合か、食べ物がそれしか無い場合はどうする、全部食べろ!」
ここでも軍隊の流れをくむ指示が出される。新入生にとっては初めて聞く指示。食べ物が喉を通らない状態になったものもいる。
「俺たちもやられたな、あれ」
「そうそう、なつかしい」
そう言いながら、黙々と食事する『プランキッシュ・ゲリラ』の面々だった。