41.初詣
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
四十一 初詣
グレイスの叔母の家から三十分程歩いたところに、神社がある。ここは歴史的にも古い神社で、多くの参拝者が訪れる。
そこにシルバーグレーのコートを着た九人が順番待ちの列に加わった。
目立つ事この上ない。肩幅ガッチリ、長身のシルバーグレーの集団。グレイスを先頭に、順番待ちをしていたアカデミー生達である。
そこをすれ違った一団が声をかけて来た。
「……グレイスじゃないか」
彼らは、グレイスと同じジュニアハイスクールでテニス部に所属していた連中だった。
「帰って来ているなら、連絡くれれば良かったのに、皆会いたがっていたんだよ」
それを聞いて素直に謝る。
「ご免ね。だけど今回の帰省、私個人だけじゃないから」
そう言って後ろを見る。
そこには一緒に来たアカデミー生達が居る。
「友達?」
「仲間よ」
グレイスの後ろに控えていた連中が軽く会釈をする。
「へぇー、じゃあ皆アカデミーの学生?」
「そう」
その言葉に、周囲にいた人々がざわつく。
更に目立ってしまったアカデミー生達。最もプランキッシュ・ゲリラの面々は開き直っていたが。
周囲の人々が聞き耳立てている事をそれとなく感じていた。
「アカデミー生でもご利益期待するの?」
「何馬鹿な事言っているのよ。ご利益なんて期待するぐらいなら、地道に知識の取得をした方がよっぽど現実的よ」
「神社に来てそれを言う?」
「初詣は地域の行事に親しむために来ただけ。後ろの連中も同じ事言うと思うけどね」
「随分厳しいんだな」
「未知なる力を求めるより、現実を直視した方が私達的にはいいんでね」
「いつまでこっちにいるんだい?」
「ゆっくりしていられるのは三日の午前中まで。三日の夕方に航空機で発って、アカデミーに戻るわ」
その言葉を聞いて、テニス部の連中が、グレイスの後ろに居るメンバーに声をかけた。
「彼女、今日半日ほど拉致しても支障有りませんか?」
それを聞いてジーンが答える。
「ああ、彼女の了解さえ有れば、レンタルするよ」
「ちょっと、レンタルってどういう事よ!」
「半日くらいなら、俺らだけでもどうにかなるし」
これはフレッドの言葉。
「じゃあ、借りますね」
テニス部員がほくほく言う。
グレイス本人の意思と関係なく話がどんどん進んでいく。
「ここまでの道は覚えているから帰りは何とかなるし、グレイス、お前も半日程度なら勉強抜きでも支障ないだろ。最も『支障ある』と抜かしたらチームから追い出すけどな。そんなチームメイト持った覚えないし」
カイルが爆弾発言をかます。
ここまで言われてしまえば、断る事が出来ない。
「お宮参りが終わったら、合流するわよ、それまで待ってて」
「了解。楽しみにしてるよ」
テニス部の連中はそう言って境内を降りていった。
「神社のお参りの決まりは有るのか?」
そう言って来たのはロバート。
「二礼二拍一礼」
「へっ?」
「つまりあの前の人がやってるようにお賽銭入れた後、ガラガラ鳴らして、神前に二礼した後手を二回叩く。その後お祈りしてまた神前に今度は一回礼をする。これが決まり。これが二礼二拍一礼」
フレッドが『了解』と答える。
他の者達も『成る程』と頷いている。
順番が徐々に近づいて来た。
よりにもよってどうも緊張しているらしいジーンに声をかける。
「ジーン、もしかして緊張してる?」
「もしかしなくても緊張してる。周りの人たち俺らがアカデミー生って知ってるわけだろ? これでミスしたら大恥じゃん」
「人をレンタルするって言っといて、緊張してるって……どう言う訳よ? 何なら、私の横で見ながら真似してお参りしたらどう? そうしたらミスなしでしょう?」
「……そうするよ」
順番が回ってきて、九人一緒にお参りする事に。
お賽銭をそれぞれ入れ、代表としてジーンがガラガラ鳴らし、二礼二拍する。
お祈りをして……のところでジーンが異様に長い。終わったのを確認して一礼する。
お堂の脇を通りながら、グレイスはジーンに質問した。
「ジーン、何さっきお祈りしてた訳? 異様に長いし、真剣だし」
「俺はやっぱ『女性運』これだろ」
「堂々と言う事でもないでしょうに……でも納得」
さて、お参りが終わった後はお守りやおみくじを引きにいく。
物珍しそうに見るアカデミー生達。
「来たついでだ、記念に何か買おう」
フレッドにつられて、メンバー各々が、自分に合ったお守りを購入する。
ジーンは勿論『恋愛成就守』だった。
さて、ついでにとおみくじを引く。
大方が吉以上のおみくじを引く中、ジーンが『凶』を引いた。
げ〜っ、の言葉の後、おみくじの内容をよく見ると……
『恋人――待ち人来ず』
とあった。
ズーンと沈むジーン。
「ああ、うっとおしい!」
とは誰の言葉だったのか。
それぞれおみくじをポケットにしまうか境内の木に結びつけて神社をあとにした。
――ジーンの春は、まだ遠いらしい。




