38.今年の年の瀬は
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
三十八 今年の年の瀬は
アカデミーでは、今年、寮の改修工事が行われる。そのため、年の瀬は例年にない程長期の休暇が組まれている。クリスマス休暇から年の瀬を超して一月三日まで。
約十日間のこの期間を利用して、遠方から就学している学生は帰省するようであるが、中には帰省出来ず、時間を持て余す学生もいた。プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーの面々がそれに該当していた。
自宅には帰省しない。かといって他に行く場所もない。
ホテル暮らしにしようか。しかし、このシーズンはホテル代が高く設定されている、云々。
グレイスも迷った。出来れば、メンバーと同じく帰省せずに過ごしたいと考えていたからだ。
グレイスの叔母達の暮らす地域は、アカデミーと同じ北半球にあるが、場所は約百八十度回転した場所に存在する。よって季節は同じだが、時差が約十二時間ある。
アカデミー生は、この休みをどう使うか、検討に余念がないようだ。プランキッシュ・ゲリラも勿論その話題になっていた。
「おい、この長期休暇どうするよ」
「昨年と同じように寮で過ごすことを考えていたからな、寮を追い出されるのは予定外だ」
「それは俺も同じだよ。どこに行く?」
「みんな、実家は論外なんだろう? とすれば、ホテルしかないな。貯めた給料すっ飛ぶが」
「山奥のバンガローなんてどうだ? 皆で一棟借りれば安く済むんじゃないのか?」
「莫迦、冬山なら燃料代がかなりかかるだろ? 山奥ならスキー客も居るだろうし、それほど安くならないと思うぞ」
「南半球ならどうだ?」
「そっちは登山客や森林浴の客が多いだろうよ。サンタクロースがサーフィンしてくるような場所だしな」
「学校側も、補填先考えてから改修工事決めてほしいものだよな」
「全く!」
皆、行く場所がなく途方に暮れていた。
ビジネスホテルを探しても、既に満室だったり、部屋代の高騰に諦めざるを得ないところがザラである。
「グレイスはどうするんだ? あの叔母さん達のところに帰るのか?」
「そのつもりはなかったのよね、クリスマス休暇と年越し、アカデミーで過ごすつもりだったし、去年はずっと授業だったじゃない、この期間。十二月三十一日と一月一日だけ休みで」
「全くその通り。さて、どうするか」
うんうん唸っている時、叔母の真紀子からグレイス宛に連絡が入った。
何処で聞いたのか、グレイスの長期休暇情報をしっかりキャッチしていた。
「グレイスさん、貴女、今年クリスマス休暇からお正月までと休みが長いそうじゃない。いっぱいごちそう作って待っているから、帰っていらっしゃいな」
こう言われてしまえば帰らないとは言い辛い。
「……そうします」
これでグレイスの逗留先は決定した。
問題は、その他の男子学生八名。
これも叔母の一言で決定してしまった。
「もし、他のチームメイトの行き先が決まってないんだったら、うちの離れを使ったら? たいしたおもてなしは出来ないけど」
願ったりかなったりの誘い言葉であったが、勿論はじめはメンバー総出で遠慮した。が、実際には行き場所がない。グレイスの叔母の家なら、安心だし宿泊費はかからず助かるのも事実だ。そこで相談し検討した上で、グレイスの叔母の家へ逗留を決めた。
手ぶらでお邪魔するわけにも行かない。
そこで、クリスマスにはケーキ二ホールとターキー二本をまるごと準備し、年越しではオードブルを注文する事で折り合いを付けることとなった。
順調に勉学に励み、クリスマス休暇を迎えた時、グレイスはプランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーの面々を率いて帰省した。
アカデミー側の指示で、今回の帰省の際、制服と制服コート着用、指定のキャリーバック使用が義務づけられていた。要は、帰省でもアカデミー生の自覚を持てと言う事だ。
九人、同じそろいのシルバーグレーのコートを着て同じキャリーバックを持った集団。
このメンバー、目立つ事この上ない。
プランキッシュ・ゲリラの連中はもとより、ライトニング・ブルーの連中も背が高く、ルックスも本人達は自覚がないが並以上。揃いのコートを着て、これが集団で行動している。注目される事にあまりなれていないライトニング・ブルーのメンバーは、表情が少し硬めだ。
今回の休暇、言ってみれば約十日間の旅行をするのと変わりがない。
大きな荷物を片手に、男性陣はケーキ二ホールとターキー二本を分担して持ち、フレッドはグレイスの叔母宛にサプライズのアレンジフラワーを持って、ロバートはワインとチーズ、日本酒を準備し、グレイスは空港で空弁ならぬ空マンを手にし、突撃、お宅訪問のような状況でグレイスの家へやって来た。
叔母は来客を好む方であり、フレッドから手渡されたアレンジフラワーに乙女気分を味わったようである。アレンジフラワーは、さすが色男のフレッドの見立てで、前回叔母と会ったときのイメージの通りにアレンジフラワーを注文し手に入れていた。
差し出されたケーキにも、叔母は感激。
美味しいと噂のケーキ店のもので、限定販売であり、配送サービスはしていないもの。住んでいる地域が違うため、普通なら手に入らない一品である。
丸ごとターキーにも驚いたようで、叔母は切り分けを試した事がない。これは経験のある料理上手なカイルが取り分ける事になった。
ワインもこれはまた人気の商品で入手困難なところを、ロバートの顔パスで手に入れた。チーズは勿論ワインに合わせたもの。希少価値になっている日本酒も同様である。
グレイスが土産にしたのは空弁ならぬ空マン。肉まんの中にタピオカが入っているちょっとどんな味か分からない、ある意味冒険な一品である。
オードブルは全員で検討し、後日、配送により届くよう手配してあった。
なんやかんや言って、メンバー達もお世話になる人のことを考えて、あれこれ準備するのを楽しんでいた。
「グレイス、離れってどっち?」
叔母のこの家は広い。案内が必要だった。
自分の部屋にキャリーバックを置いて、シルバーグレーのコートを着た集団を案内する。
縁側にそって歩くと丁度奥に離れが見えて来る。
「はい、ここが離れ。一応小さいけど玄関と台所と冷蔵庫、エアコン、洗濯機、洗面所、風呂、トイレがついているから生活には困らないでしょ。どうせ休暇中はレポート作成地獄なんだろうけど」
「はは、言えてるな、レポート地獄は確かだ。しっかり出されたからな」
「その時間、私もお邪魔しようかな。皆さん恐怖の『ハリセン』も準備して来た事だし」
「げっ、お前持って来たのかよ」
「キャリーバックに少し空きがあったから持って来た」
「ははっ、スパルタだなぁ」
「じゃないと、追いつかない量の課題出てない? 他に帰省した連中の中には、長距離シャトルで課題こなすって言っていた奴も居たけど」
「そうじゃなきゃ間に合わないもんな」
「今日は楽しんで、明日から地獄の課題、やりましょ。荷物整理したら、こっちの居間に戻って来てね、準備するから」
そう言って、離れを去ったグレイスだった。
「しかし、凄い家だな、離れが有るなんて。グレイスってお嬢様?」
「それ本人に向かって言うなよ、不機嫌になるから。本人自覚なしだし、ここは自分の家ではなく叔母の家って言うから」
「分かってるよ。下手に言うと噛み付かれるな」
「今回は助かった、そう思う事にしよう」
「OK!」
各自納得して、荷物の解き方をはじめた。
それはグレイスも同じ事で、自分の部屋に荷物を広げて片付けていた。
持って来た課題と衣服を分ける。
そして一年以上触れていなかった自分の机に触れる。ここで、アカデミー入学に関して勉強をしていた。
懐かしさ半分、まだ銀河連邦宇宙航空局に正規採用でないため複雑さ半分であった。
荷物を片付け、台所に手伝いに来たグレイスは、料理下手なため、専ら盛りつけに回っていた。
「俺たちも何かしましょうか?」
フレッドが問いかけて来た。
すでに居間は片付いており、手を出す部分がない。
「じゃあ、盛りつけたもの、テーブルに運ぶの手伝って」
グレイスが暇そうな面々を呼びつけて言った。
「ここJP地区だから、天井低いから気をつけて……って遅かったわね」
フレッドが欄間に頭をゴン! とぶつけた後だった。
「いてて」
「怪我はない?」
そこはカイルである。素早く処置。結果はこぶが出来る程度、異常なしとの事だった。
普段三人で暮らしているところに九人人数が増え、いきなりにぎやかな家庭になった。
ピザも二枚取ろうと言う事になり、ピザ屋に連絡をするジーン達。お代は勿論自分達払いだ。
テーブルには、叔母が作った料理の他に、ケーキ二個、ターキー二個が並び、その後にピザ二枚が到着する。これで足りるだろうか? 成長期の面々が勢揃いである。
「足りなかったら、また追加注文しますから」
そう言って、パーティーは始まった。




