32.授業再開
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
三十二 授業再開
さて、学校祭という祭りが終わった後、いつも通りの強烈な授業の山が待っていた。
それぞれが授業を黙々と消化して行く。
宇宙物理学は、生徒全員が卒業まで取らなければならない単位科目である。
一日の授業終了後、夕食後の自由時間、いうなれば自習時間、グレイスがどうしても納得出来ないという顔で、今日の宇宙物理学についてフレッドに質問していた。
なぜ、この解答になるのか。
そこに至る過程について問い質したのだった。
「グレイスが質問って珍しいな」
そう言いながらも、解答までの流れを教えるフレッド。
「ああ、成る程」
理解出来たようである。
「途中の過程すっ飛ばされたから、焦ったわ」
とのこと。
周りを見ると、ちらほら宇宙物理学のテキストを開いている者がいる。
やはり同じところで引っかかった者が多かったということらしい。
「これから、こういう授業多くなるぜ〜。肝に銘じておかなければな。暗記してどうこう出来る問題でもないし、試験もキツくなってくだろうし。この間の放射線学も所々すっ飛ばしで授業だったもんな。あれはまだ飛ばした部分が少なかったけど、今回の物理学はホント飛ばしていたからな。要点しか黒板に書かなかったからな」
「そこでチームワークの出番でしょ。それについては安心しているから。よろしく」
今フレッドに習ったところを、赤線を引き目立つようにノートを取ってゆく。
「そう言えば、三回生第一期十月入学組の卒業試験がもう少しで始まるな」
「それにあわせて俺らも定期テストが始まるな」
「ヤマを張らせてくれないからな、うちの教官達は。なんじゃこりゃ〜って騒ぎたくなる問題平気で出題してくれるし、泣きたくなるぜ。あまりにも簡単すぎて逆に答えを疑った事は一度や二度じゃないし」
「それはこっちも同じ。引っかけかと思えば素直な解答で良かった事もあるし、逆に簡単解答でいいかと思えば深読みの解答が正解とか。この学校に来て、物事の裏を疑う事覚えたもんな、俺たち」
「素直に物事捉えなくなったのは事実ね。深読みする癖がついて来たというべきかしら」
「言えてるな〜、俺も深読みしてるわ」
「場合によっては世の中の政治家相手に会話する事もあるから、深読みはそれはそれでよしというところなのかな?」
「でも、性格は悪くなって行っているよな、間違いなく」
「確かに!」
「全部が全部じゃないが、人を見たら疑えってところ出て来てるよな」
「本当」
「……納得」
しゃべりながらも黙々と勉強をして行くプランキッシュ・ゲリラの面々。
「グレイス、質問いいか? 一般法学概論なんだが……」
「あっ、俺も聞きたい」
今日のグレイスはハリセンもなく静かである。
「概論の何処?」
「今日の授業でやった三問目。何で十九条適用で通用するんだ? 俺には十三条適用に思えるんだが」
「俺も同じ場所だ。俺も十三条適用に思えたんだが」
「それはね……」
と問題を見て講義の解説をして行くグレイス。法学に関してはグレイスの専門分野、歩く六法全書は伊達ではない。するすると考え方を解きほぐして行った。
「それで十九条適用か、成る程な」
「でも、嫌らしい問題だな。解釈の違いから来る問題って」
「法学はいろいろ解釈が出来るから、前例を持って来て解釈する必要があるの。今回のこの問題がそう。でも前例解釈が必要な問題は私たち専門分野の領域で、一般概論から外れてる気もするわね。その点は教官に訴えてもいいかも。まあ、それやられたら、私たち専攻している生徒のテスト範囲が増えるだけだけど。このくらいなら許容範囲だし」
「お前にとっては許容範囲でも、他の奴らには重荷かも。見ろよ、あの死んだ魚のような目をしてる奴。多分お祭り気分が抜けずに授業に入ったんだな、気の毒に。それで今日の授業なら、頭の中が混乱してるところにスパルタ教育のジョブが効いてふらふらだろうよ」
指摘された男は、確かにそんな顔をしていた。
頭の切り替えが早く出来ない奴は、この学校では生き残れない。
それを証明している光景だった。
「確かにスパルタ教育が加速して来ているわね。今日の宇宙物理学しかり、一般法学概論しかり。所々飛ばして解説されて行くと付いて行けないところが出て来たし、教官達、授業のペースが今まで少し遅くてペースアップしたんじゃないの? こっちにはキツいけど、ちんたら士官学校のように授業されるよりはやりがいはあるわね」
「士官学校の奴、こっちでやる合同授業ついて来れるかね?」
「そんな授業あったっけ?」
「『連邦法の宇宙航行時における適用について』。概論で確か明日やるだろ?」
「そう言えばそんな科目あったわね。あの教科、確か評価が少し甘くなる筈よ、士官学校の生徒のために」
「そんな贔屓あっていいのか?」
「だって、去年私が教科取ったときトリプルAだったし、授業がスルーで眠くなったもの。間違いないわ」
「じゃあ、俺、その教科取る。迷っていたんだよ、空き時間にしようかどうか」
「不眠剤やカフェイン摂取してから行く事をお勧めするわ。いつものハイペースを期待すると超スローに感じる筈だから、単位数獲得目的ならお勧めよ」
「了解、あんがとな、アドバイス」
結局、既に単位を取得しているグレイス以外の四人が、この授業の単位を取得するため授業に参加するようである。
「ホントに眠気覚まし必要か?」
「授業ペースが通常の三分の二程度と思ってくれたら分かりやすいかしら?」
「……分かった。カフェイン補充にコーヒー飲んどくわ」
「その方がよさそうね」
その時間、グレイスは別教科の法学を連邦大学で受講するようである。
「じゃあ、明日逢いましょう」
そう言って五人は別れた。




