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29.校内探検

※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※

※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※

※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※


二十九 校内探検




 約一年半ぶりに合う家族プラス一名。お互いを観察して、揃ったように溜め息をついた。

「智成さんは身長伸びたのね。超されちゃったわ」

「グレイスさん、あなたは綺麗になったけど、とても逞しくなったところもあるわね」

「それは言える」

 高杉が笑った。

「まずは健康で何よりといったところか」

 普段寡黙な重成もそう言った。

「何処をどんな風に廻りたい?」

「地図とかないのか?」

「ないわ」

「何で?」

「ここは連邦施設。地図を作るとテロの標的にされるでしょう? だからないの」

「そんなもんなのか」

「そんなもんなの。だから普通の学校祭とは違って、ホスト役が必ずつくの。これは連邦大学や士官学校も同じ事よ」

 そんな会話が続いた時……

「私、貴女が生活している場所を見てみたいわ」

 と叔母の真紀子が言い出した。

「生活場所? じゃあ、寮、見に行ってみる?」

「是非!」

 力強く言われ、グレイスは戸惑いながらも寮へ足を向けた。


 学校内でも一番奥にある寮は、公開場所にはなっていたが、閑散としていた。

 やはり人気は授業を受ける場所に集中しているらしい。

「はい、ここが学生寮」

 ドアを開けて中へと誘うグレイス。

「寮は土足禁止なの。そこに設置してあるスリッパに履き替えてもらえる?」

 スリッパに履き替え、ぺたぺた後を着いて歩く養父母達。

「ここが食堂、朝と夕はここで食事になるの」

「昼はどうしているの?」

「昼は敷地の中央にある中央棟の食堂で食事する事になっているの。で、隣が共有スペース。お茶飲んだり、合同で勉強したりするの。私もほぼ毎日利用しているわ。

そして部屋は、っと」

 共有スペースから続く透明な扉を開けてグレイスは中に声をかけた。

「これから男性が入ります」

 グレイスは時計を見て秒数を数えている。

「ここからは女子専用のスペースだから、男性が入室する際は声かけが必要なの。……三十秒、よし、入室します」

 そう言って中を進むグレイスに慌てて着いて行く者達。

「ここが私の部屋」

 開けた部屋には二段ベットが置いてあったが使用しているのは下の段だけだった。

「入校したときは同室者が居たんだけど、退校処分になって今は私一人。多分卒業までそうなんでしょうね」

 ちょっと寂しそうに笑うグレイスだった。


 意欲的に何でも見ようとする叔母に比べ、他の三人は、少し疲れぎみだった。

「叔母さま? 後ろの男性三人、少し疲れているみたいですが……お茶にでもします?」

「そんな場所があるの?」

「中央棟の特設コーナーにあります」

「じゃあ、お願いしようかしら!」

 その言葉で、五人は特設コーナーのある中央棟へ向かった。

「中央棟ってここ?」

「ええ、一般課程の授業や、専攻の法務課程の授業はここで行っているの。今日は天気がいいから、外でお茶出来る、最高だわ」

 空いている席に陣取る五人。

「はい、メニュー。緑茶から抹茶にコーヒー、紅茶、フレッシュジュース、中国茶まで、様々あるわよ。何にする?」

「中国茶まであるの?」

「そちらの出身者も居ますからね、本格的に入れてくれますよ。」

「高杉さんは?」

「俺コーヒー」

「叔父さまは?」

「抹茶を貰おうか」

「智成君は?」

「僕は紅茶でいいです」

「叔母さまは?」

「中国茶がいいわ」

 皆様々な注文をしたが、グレイスは一度で覚え、注文しに行く。

 その先には、当番にあたっていたフレッドとウォンが居た。

「当番ご苦労様」

「いいよなー、お前もう自由か?」

「まさか」

 そう言って髪で隠していたイヤホンを見せる。

「ホスト兼警備よ」 

「……使えるものは何でも使っているよな、『親父』の奴」

「人数が少ないし、仕方ないわ、今回は大人しく使われてやる事にしたのよ。で、注文! コーヒー、紅茶、抹茶、中国茶に、そうだな〜、私はフレッシュジュース」

「みんな注文が別かよ」

「しゃーないでしょ、手伝うわよ。フレッシュジュースは自分で作るから、他のはよろしく。あっ、紅茶はアールグレイ、コーヒーはストレートのキリマンジャロあったわよね、それでよろしく!」

「……了解」

 ゲソッとした声で返答するフレッドだった。


「はい、お待ちどうさま」

 グレイスが注文したお茶を手にフレッドとウォンを引き連れてやって来た。

「コーヒーは彼、紅茶はこっち」

 グレイスが指示を出していく。

「紅茶、もう少し蒸らした方がいいので、この砂時計の砂が落ちた時、葉を取り出して飲んで下さい」

 フレッドが細かい説明をしていく。

 中国茶については、ウォンが実演してみせた。

「凄いわ」

 叔母は興奮状態である。

「抹茶は私が立てたから大丈夫だと思うけど……腕が落ちてたらごめんなさい」

 そう言って叔父の席に抹茶を置くグレイス。

「ちょうどいいから紹介するわ」

 そう言って、自分のジュースをテーブルにおいて説明をはじめた。

「背の高い方がフレッド、中国茶の実演をしたのがウォン、ともに私のチームメイト」

 二人は軽く会釈した。

「フレッド、ウォン、私と一緒に居るのが養父母と義弟、知人の高杉さんよ」

「初めまして、フレッド・ノイシュタインと言います。グレイスとは一回生のときからチームを組ませて頂いています」

「同じく、ウォン・リーといいます」

 軽めの挨拶をした。

「それでは戻りますので……」

 二人は飲料コーナーに戻った。

「チームって何だ?」

 高杉が聞いて来た。

「チームはチームよ。学年ごとにそれぞれチームを組んで勉強に当たるの。いわゆる連帯責任ね。自分の成績がチームの成績になる。キツいわよー。自分が成績落としたら周りのチームメイトの足引っ張る事になるし、自分の専門分野の教え方が悪いと相手に影響与えるし、緊張するわ。他にも二人居て私のチームは全部で五人なんだけどね」

「人数の決まりはあるのか?」

「特にないけど、少なくて四人、多くて七人、てところかしら」

「お前のところのチームは実のところどうなんだ?」

「一応二回生トップで居るけど、すぐ下にいつもぴったり付いているチームがあるから、気が抜けないのよね」

 グレイスは飄々と言ってのけた。

「二回生トップ? お前が?」

「ちょっと、『私が』ではなく『私たちが』よ。今のところ順調に講義の実技演習もこなしているからね。トップ譲る気はさらさらないし、このまま三回生まで行くつもり。他のメンバーもそうだと思うけど?」

 フレッシュジュースを飲みながら、何でもないように言うグレイスに周りは呆れた。難関校でトップキープ? 冗談だろう? というのがこの周りの反応だ。

「さすがに一年以上居れば慣れるわ。私はこんな感じでやっている、だから心配しないで。叔母さま達」

 お茶を飲んでいる五人の側を団体が通って行く。

「あの連中、どこへ行くんだ?」

「方向から見て、多分、操縦課程訓練施設に行くんでしょう? あそこでは今無重力体験出来るから」

「へ? 無重力?」

「私も訓練で使っているわ。宇宙は無重力。操縦士課程で無重力に慣れてないといざという時役に立たないからね」

「それ、体験出来るのか? おい?」

「やだ、高杉さん、子供みたい。興味あるの?」

「勿論! 何でそれを早く言わないんだ!」

「無重力には適性があるからね、三半規管鍛えてないとキツい部分あるのよ。泣き言言わない? 絶対?」

「言う訳ないだろう、やってみたい」

「じゃあ、状況聞いてみるからちょっと待って」

 そう言って、袖口につけている無線に語りかけた。

「プランキッシュ・ゲリラのグレイスから無重力体験コーナーの担当者へ」

「コーナー担当のジーンよりグレイスへ」

 無線が返って来た。

「何よ、ジーン、そっちの担当だった訳? 混み具合教えて」

「今だと丁度一時間待ちかな? 並んでるぞ。完全無重力二分間の体験のために」

「ファステストチケットの発行は?」

「やってるんだが、ホスト役が存在忘れているケースが多くて……誘導してはいるんだが」

「今からだと、早くて何分のチケット発行?」

「そうだな、十三時三十分から十四時の間が空いてるぞ」

「そこに一般四名可能?」

「ああ、大丈夫だ、入れとくよ。忘れずに来いよ」

「了解」

 そこで無線を切った。

「十三時三十分から十四時の間なら、並ばずにスムーズに体験出来るわ。そういう手配したから。それまでは学校を見て回りましょ」

 ここは滅多に来れる場所ではない。

 そう思い直したのか、男性陣も積極的に校内を見て回るようになった。

「グレイスが一番多く利用している施設は?」

 そう智成が聞いて来たので、グレイスは案内した。

「ここ、大講堂よ。一般教養では、まずここを利用するわ。三学年の間で必ず取らなければならない授業もあるし、使用頻度は高いかな? あと多いのは、私の場合南棟の操縦技術課程の訓練棟。実際のシャトル模擬訓練も出来るし、今日も見学の人気、高いでしょ? 他の部屋としては法務課程では模擬法廷の体験も出来るよう小法廷を真似た部屋があるし、連邦大学にも共通授業で行く事があるわ」

「へぇ、何か凄いな。改めて特別行政区の教育区画だと思うよ」

「私も入校した時思った。学校の地下には高速モノレール通っているから学校間の連携授業も可能だしね」

「高速モノレール? 今日乗れるのか?」

「残念、今日はアカデミーのモノレール停止しているんだ、一般客が間違って乗ってしまわないようにしているの」

「ふ〜ん」

 グレイスの説明を聞きながら、きょろきょろ見て歩く四人。

 大小様々な教室を見て、食堂に着いた。

「ここが昼食事する食堂。今日も営業しているから、体験してみる? アカデミーの食事。残念ながら宇宙食じゃないけどね」

 軽い冗談を交えながら食堂に入る五人。そこには、早めの昼食に入っていたウォンがいた。

「ウォン、シフト?」

「ああ、今は丁度休憩だ」

 見ると、麻婆豆腐を丼にして注文したらしい。勿論辛さ抜群の特製調味料のラー油をたんまりかけた後だ。

 今日は特別メニューらしい。

 いつもは決まったメニューなのに、今日は選択方式だ。

「麻婆豆腐、春雨、焼肉炒め、サンドイッチ、チャーハン、ご飯、サラダ、杏仁豆腐、果物、飲み物。いつもなら決まっているのに、今日は数が多いから迷うわ」

 そう言いながら、グレイスはサンドイッチと紅茶、杏仁豆腐をチョイス。

「ご飯と飲み物は食べられる量だけ各自盛ってね。残すのは厳禁だから」

 叔母はチャーハンと春雨、杏仁豆腐と中華スープを選んだ。

 重成は、ご飯と麻婆豆腐、春雨に中華スープを選んだ

 成長期の智成はご飯と焼肉炒め、杏仁豆腐に春雨に中華スープ

 興味津々の高杉は、調理のおばさんに頼んで全種類を少しずつ盛っていた。

「へぇ、これがいつもグレイスが味わっている味か」

 高杉が言うと、

「あら、美味しい」

「上手いな」

「ほんとだ、美味しい」

 他の三人にも好評なようである。

 グレイスは調理室のおばちゃんと目が合い、サムズアップしてみせ、おばちゃんはそれを仲間に伝え拍手していた。

「腹八分目にしておいてね、午後は無重力体験、するでしょ? 叔父さまはピースメーカーがあるから、直前に検診と問診してOKでてからの体験になると思うけれど」

 食べながら説明をするグレイス。

 今日は家族と一緒のため、ゆっくり食事するグレイス。学校内でのんびり食べるのは久々だった。

「いつもゆっくり食べれればいいのにね……」

 つい言葉としてぽろっと出てしまった。

 その言葉を聞いて疑問に思う四人。

「いつもは違うの?」

 そう聞いてくる叔母に

「いつもは早食い。一応ここは軍隊系列だから……ゆっくりは厳禁」

 と答えるグレイスだった。

 ゆっくり時間をかけサンドイッチとジュース、杏仁豆腐を食べたグレイスは、他の面々の状況を見る。

 やはり一番に食べ終わったのが自分だった。

 ジュースを飲みながら叔母達の話を聞くグレイス。どこか一歩引いて話を聞いている自分が居た。たった一年半程度の期間が、自分を通常の世界から隔離してしまったかのように感じていた。




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