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2.バスの中の愉快な仲間達

※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※

※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※

※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※

二 バスの中の愉快な仲間達




 バスジャック――

 このような事態に巻き込まれた場合、通常はパニックや絶望に襲われるはずであるが、フレッドはこの時、妙に落ちついていた。

 落ち着いていたというのは語弊があるかも知れない。

 正確には、バスジャックが事実なのかいまいち実感が湧かず、犯人の思考回路は大丈夫か? 乗務員や乗客はパニックを起こしていないか? などと、第三者的立場で物事を客観的に見ていたからである。


 第三ターミナルから出発するアカデミー行きシャトルバス、嫌味なほど長い路線名「第三ターミナル発特別行政区教育区画連邦総合大学経由連邦航宙士中央養成学校行き」は、他の路線と比べてかなり乗客が少ない。加えて平日のお昼を過ぎたばかりと言う事もあり、更に乗客は少なかった。

 停留所には、自分の他に二人。

 一人は何度か顔を合わせた事がある、第一理科学研究室に所属する研究事務員。もう一人は初めて見る顔だった。

 その男は、ブルゾンのポケットに手を入れ、苛ついたように足を鳴らしている。青白い顔をして、様々な場所に眼を配っていた。持ち物はボストンバック。どことなく落ち着きの無い、そんな感じだった。

 定刻通りバスが到着し、乗客が順に乗り込んで行く。

 もう少しで出発といった時……

「間に合ったぁ、すみません。お騒がせしました」

 バスに飛び込んで来た乗客がいた。

 こちらも、初めて見る顔だった。

 大きなバックを抱えていた。

 どことなく幼い顔をしており、少年と言っても過言ではない。そんな彼と向かう方向は一緒となると……。

 フレッドは、今日が何の日なのか思い出した。

 ――ああ、今日は入寮日か。

 自分は朝から実地調査のため入寮受付を手伝う事が出来なかったが、他のチームメイト達は今頃さぞかし忙しい事だろう。

 入寮受付の担当に指名した教官に毒づきながら仕事を進めるメンバーを思い浮かべては、密かに笑いをこらえていた。

「それでは発車します」

 バスの運転手の声でバスが移動をはじめる。

 フレッドは今日集めたデータの解析を頭の中ではじめる。

 バスの最後尾の座席でゆったりと座り、目を瞑っていた。寮に戻ったら論文の作成がある。そして新入生歓迎パーティーもある。できるだけ体を休めようと、少し眠りに入った。

 そこへこのバスジャック騒ぎである。

バスは緊急停止した。

 後続の車にクラクションを鳴らされるが、それどころではない。

 運転士は、犯人の隙を見て、会社に繋がる緊急通報装置のボタンを押した。

 これで、事件が公になったのである。


「んで、今後はどうなるのでしょうかねぇ」

「俺が知るか、惑星政府に聞いてくれ」

 サエキ教官の言葉に、プランキッシュ・ゲリラのチーム員全員が心配そうに報道を見守る。

 何でもチームメンバー五人で解決して来た仲間だ、心配にもなる。

「惑星連邦政府の対応なんて、下手に時間長引かせて悪循環になるじゃありませんか〜。何とかならないんですか」

「ならん」

 サエキ教官が間髪入れずに答えた。

「フレッドが何とかバスを特別行政府内に誘導出来れば俺たちが動けるが……」

「期待してはいけませんかね」

「ムリだろう」

 サエキの言った口調に首を傾げる四人。

「どうやって特別行政府敷地内に入るというんだ? 犯人はおそらく入所パスを持っていない人間だろう」

「あ〜っ!」

 一般区画から特別区画に入る際、入所確認として、バスには検問が入る。

 全員のパスを確認して初めてバスは特別行政府敷地内に入る事が出来るのである。

 当然、担当のバス運転手も常備している。

「では、やっぱり一般区画内で対処してもらう事になるのか」

「手助け出来ませんね」

「いや、ちょっと待てよ。入所検問所は特別区の管轄だ、ここなら俺たちも介入出来る」

「フレッドの機転に期待しようか」

 特別中継と名付けて報道される映像を黙って見ている四人だった。


 さて、その頃のバスはというと……

 犯人は乗客に両手を頭の上で組むよう指示していた。

 一応人質であるフレッドもその指示に従っていた。

 一番後ろの席から前の方へ移動させられて。

 運転手の席以外、全てのカーテンが引かれ、バス内部の状況が分からないようにされていた。が、犯人が知らない事実がいくつかあった。

 このバスは特別行政府敷地内を走るものとして初めから設計されており、テロリスト等からの安全のため見えない場所からバスの内部を映像として捉えているという事。

 そして、フレッドの腕時計はアカデミーからの支給品であり、場合によっては音声を外部の集音機に出力可能であるという事だ。

 犯人は、内部を隠していると安心していたが、実はバスの内部は映像・音声共に外部に出力されていたのであった。

「えっと、貴女は確か第一理科学研究室に所属する研究事務員でしたよね。すみません、お名前を忘れてしまって」

「エリザベス・ウィンストンですわ」

「おい、そこ何を話してる、やめろ!」

 犯人が言った。

「どうせ乗客はあんたを含めて四人だ。会話はあんたに筒受け。別に話をしても問題は無いだろう?」

「勝手にしろ」

 犯人は二人が話をするのを許した。

 フレッドは会話を出来るだけ増やし、情報を関連機関に送りたいという魂胆がある。

「そこの若いの、名前は?」

「貴方に若いと言われる筋合いはありません。僕は十八です」

 ふてくされたように言われた。

 そんな彼に、フレッドは思わずあやまった。

「なんだ、俺と同じ年だったか、すまん。俺はフレッド・ノイシュタイン。アカデミーの二回生。君は?」

 同じ年と言われ、逆に驚いた少年。

 どう見ても自分より二〜三歳年上だと思っていたからだ。

「僕は、カズヤ・ミヤケです」

「新入生……だろ? よろしくな、年は同じの新米坊主。今日の入寮日、災難だったな」

「僕は不運続きで……聞いて貰えます? 笑えちゃう程災難続きなんですけど。僕、こんな場面だと、なんか話さないと緊張して気分悪いというか何と言うか……」

「一応ここの責任者に確認取るわ。おい、銃を構えているあんた、こいつの長〜くなる話、聞いてやっても支障はないか?」

 男は苛ついたように言った。

「何故お前は何も無かったように平然としていられる?」

「俺? さあ、何でだろ? 神経が図太いのかも? でも男が泣きべそ掻いてわめきまくるよりは建設的だろ? 話、聞いてやってもいいか?」

「好きにしろ」

犯人の男は突き放したように言った。

「だってさ、聞いてやるぜ、お前さんの苦労話」

そう言われてミヤケは話しだした。

 だんだんと聞いているうち……フレッドとエリザベスは爆笑したくても出来ない状態に陥った。

 ……そしてついに、堪えていた笑いの堰が決壊し、バスジャックではあり得ない程の笑い声がバスの中から聞こえた。

 げらげらと笑い転げるフレッド、くすくすと笑うエリザベス。

 さすがにこれでは「静かにしろ」と銃を向けて犯人は言わざるを得なかった。

「お前、強運と悪運の持ち主なんだな、きっと」

 フレッドがミヤケに言った。

「ところで犯人さん、あんた名前は?」

「何故言う必要がある?」

「いつまで犯人さんと呼べば良いのか分からなくてな、なんて呼べばよい?」

「では、フィルと呼べ」

「わかった。ではフィル、何でこんな犯行を? 話を聞いてほしいんだったらきくぜ。俺は元修道士見習いだったしな」

「元修道士見習い? お前がか? 有り難い話だが人質であるお前達が知る必要は無い」

「いや、是非聞きたいねぇ。人質になってしまったんだから」

「特別行政府に恨みがある、とでも言っておこうか」

「よくわからない理由だが、特別行政府関連者だけ狙った点はほめても良いな」

 その後、犯人が激高した。

「お前、おれを馬鹿にしているのか」 

「いや? 他に被害を与えていない……バスの運転手は別だが……その点はほめているつもりだ」

「ほめる? お前達を拘束している俺を?」

「発言の自由は認めているだろ。きつい拘束でもない。その点は認めているつもりだ。……ところでビリーズブリッジにいつまで居るつもりだ? 目的地はあるんだろう?」

「連邦大学だ。そこまでは同行してもらう」

 フレッドの頭の中では『検問』がかすったが素知らぬ振りをしてこう言った。

「分かった。ところで、確認だが、車の前方には車止めがないか?」

 運転手からの返事であるとの事だった。

「どうやって目的地へ行くよ? 車止めあるぜ」

「申し訳ないが、君たちの命を盾に使わせてもらう」

 そう言うと、犯人は運転手からマイクをもぎ取り、外部スピーカーにしてこう言った。

「車止めを寄せろ! そうしなければ乗客の命は保証しない」

 ――どんな場合でも聞く台詞は一緒か

 フレッドは頭の後ろで手を組みながらそんなことを思っていた。




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