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28.学校祭当日受付

※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※

※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※

※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※

二十八 学校祭当日受付




 快晴と言って良い天候に恵まれ、学校祭は開催された。

 入校ゲートは二重になっており、まずは、特別区の入所検問所で特別入所パスを発行してもらい、更に学校校門前で学校入校パスを発行する事になっている。

 つまり、二つのパスを体の見える位置につけていない限り、入所出来ないようになっている。

 パスの発行も厳重である。

 誰からの招待で、ホストは誰が行うのか、この部分がはっきりしない限りパスは発行されない。

 連邦政府直轄校であるため、情報管理も徹底されていた。

 そのため、友人や両親を招いた学生達で、特別区の入所検問所は混雑していた。

 その頃のグレイスはというと……

 校門前の入校パス発行の担当をしていた。

 養父母と義弟からは、既に学校見学に向かうと連絡を受けていた。

 エアシャトルの時間から見て、そろそろ特別区の入所検問所に到着している頃である。だが、次の担当者がまだ来ない。入所検問所に迎えに行けないでいた。

「ちょっと、ロバートはどうしたのよ!」

 正規招待状にはブラックライトを当てると文字が浮き上がるような特殊な加工がしてある。そのため招待状にブラックライトを当てて文字が浮くか確認しながら、金属探知機で危険物がないか人物と持ち物をチェックする。

 そして招待したホストが到着しているかを確認して入校パスの発行をして行く。

「ロバートを探しているのか? さっき警護にまわされていたぜ」

 同じく入校パス発行の担当している学生が言った。

「冗談! こっちの先約が先よ!」

 といってグレイスは無線に手を伸ばした。

「プランキッシュ・ゲリラのグレイスからライトニング・ブルーのロバートへ、聞こえますか?」

「よく聞こえます、どーぞ」

「いつまで油売ってんの! 交代時間間際よ! さっさと校門前に来る!」

 気合いの入った声に驚く周囲の人たち。一般客は一瞬引いた。

「いや〜、サエキ教官に頼まれて……」

「じゃあ、サエキ教官に直接掛け合うわ」

 そう言って無線を切り替えるグレイス。

「プランキッシュ・ゲリラのグレイスからサエキ教官、応答して下さい」

「こちらサエキ、聞いてたよ。ロバートそっちの当番に当たってたのか、悪かった、すぐ向かわせる」

 そこで、また無線を切り替える。

「プランキッシュ・ゲリラのグレイスからライトニング・ブルーのロバートへ、教官の許可が下りたわ。教官からも指示が入ると思うけど……」 

「今、理化学研究施設の前なんだ、行くまで五分はかかる」

「じゃあ、五分後に」

 といって無線を切った。

 そして携帯電話を取り出す。招待した養父母達に連絡を取るためだ。

「叔母さま? ごめんなさい、入所検問所には迎えに行けそうにないの。招待チケットを見せれば入所検問所は通過できる筈だから。何かあったら、この携帯電話に連絡を頂戴」

 片方で無線や電話連絡しながら事務手続きをすいすいこなすグレイスに、一般客は驚きを隠せないでいた。

 そこへ入所検問所から連絡が入った。ライトニング・ブルーのケンからだった。

「こちら入所検問所のケンから校門前検問所のグレイスへ」

「こちらグレイス、どうぞ」

「グレイスの知人だって言う人が招待状なしで来ているんだけど、どうすりゃいい?」

「どんな感じの人?」

「眼鏡かけてて、見た目強面だな、グレイスの招待状持っている人たちと一緒に来てて……」

「ちょっと本人と話させてくれる?」

 そこでケンは相手に無線を渡した。

 グレイスが言葉をかけようとすると……

「この俺に招待状を送らないとはどういう了見だ? え? グレイス!」

 その言葉を聞いてグレイスは吹き出した。叔父のいとこの見た目三十代、中身二十七歳の男だった。

「やだ、高杉さん、来ちゃったの?」

「来ちゃったのじゃねーぞ、こら! 俺はお前の身内を送って来ただけで門前払いか〜?」

「わかった、分かりましたってば。無線さっきの人に渡してくれる?」

 高杉と呼ばれた男は、ケンに無線を返した。

「ケン、知人に間違いない、通してくれる?」

「了解。だけど、グレイスの周りにいる人ってなかなか個性があるよね」

「それ、自分が含まれてるって分かって言ってる? でも、まあ、よろしく頼むわ」

 グレイスの養父母と義弟、高杉はパスを貰い無事入所検問所を通過した。


 校門前の検問所は少し混雑しており、グレイスの養父母と義弟、高杉はその後列に並んだ。

 その場所からグレイスが見える。

 その頃のグレイスは、あまりの無線連絡の多さに無線機を電話機に繋ぎ、無線ヘッドセットで対応していた。

「こちら校門前入所検問所、グレイス。……は? 痴漢が出た? 今この学校で? で被疑者は? 校門前に向かっている?」

 無線をそれとなく聞いていたその場の受付達にも緊張が走る。

「特徴は? 青のジャケットに白のシャツ、青のジーンスに黒のスニーカー? ああ、来た、目視したわ。どうする? 緊逮(緊急逮捕)する? 分かったそうするわ」

 グレイスの手振りで状況を察知した仲間達が静かに逮捕の場所の確保をはじめる。

 受付を他の者に任せ、そこへグレイスが静かに向かった。

「どけよ!」

 人の波を割るようにして男が出た場所には、ぽっかりと空間が空いていた。

「へ?」

 と男が声をあげた瞬間、男の体は宙を舞っていた。

『どすん』と言う音とともに男を羽交い締めにし、グレイスは手錠で男の手を拘束した。

「逃げるときは、間違ってもSP訓練受けた奴の前には出ない事だな」

 わっと歓声が上がったが、グレイスは冷静に言った。

「容疑者確保、引き取りに来てくれる?」

 とヘッドセットに声をかけ、男の首根を掴み引き摺って、逃げられないよう校門の鉄格子に結びつけた。

 それを見ていたグレイスの養父母と義弟、高杉は……。

「グレイスさん、あんな事が出来るようになったのね」

「見事な一本背負い」

「すご……」

「やるじゃねーか」

 それぞれ感嘆しながら、検問前の行列を進んで行った。


 心臓に持病のあるグレイスの叔父、重成はピースメーカーを使用しているため金属探知機を使用する事ができず、手動によるチェックが行われていた。

 他の三人は金属探知機を通過して行く。

 問題なく通過出来たが、グレイスの方に問題が生じた。交代員のロバートがまだ到着しないのである。

「叔母さま達、ご免なさい。もう少し待って」

 手を合わせて頼むと、無線ヘッドセットに向かって怒鳴った。

「ロバート! 今何処にいるの! 五分経過しているわよ! 後一分以内に来れるの!?」

 腹の底から染み出たような声で呼ばれたロバートは、肝が冷えた。

「あ、あと四十秒程で着く」

「期待して待ってるわ」

 無線に話しかけながら、グレイスはホスト役の準備をして行く。

 腰に電話機から外した個人の無線を装着し片耳にイヤホンを装着する。そして襟にクリップをかけ無線を固定し、左腕のワイシャツ袖にマイク部分をクリップで繋ぐ。そして、警棒や手錠ケース、銃を腰に装着し、その上にジャケットを羽織った。

 そこへロバートが到着した。

「悪い!」

「ホントに悪いわよ! 遅刻!」

 そう言いながら、無線ヘッドセットの説明をしていく。

「一番が本部無線、二番が警備無線、三番が一般無線、四番が自分の携帯無線を結ぶ線、五番が自分の携帯電話を結べる線。OK?」

「わかった」

 そう言って早速無線の扱いをはじめた。

 それを確認してホスト役になるグレイス。

「行きましょうか」

 後ろに四人を引き連れて校内に入る。

 途中、警備担当者とすれ違い、痴漢被疑者を校門に縛り付けている事を忘れずに伝えたグレイスだった。




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