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26.再訓練

※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※

※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※

※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※

二十六 再訓練




 おねえ言葉の副校長とその副官が更迭された後、暫くは平穏な日々が続いた。

 さて、前回大量の脱落者を出した登山救助訓練は、改めて別の日に別の山で行われる事となった。

 プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーについては、実際に救助活動を行っていたため、今回の登山救助訓練は免除される事となったが、そのかわり教官達の連絡役としてこき使われるようである。

「出発前の無線確認! それぞれこの起点本部の無線機に無線送ってくれ」

 ジーンの言葉に各チームから無線入電して来る。

「無線正常確認」

 ジーンが教官に報告する。

「出発前に命綱の確認しろ」

 サエキ教官の声に、試験を受ける生徒はそれぞれチームごとに確認をしていく。

「確認完了」

「こちらも確認完了」

 次々と報告が入って来る。

「では、時間だ。全員の健闘を祈る。では出発!」

 プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバー以外の生徒が山小屋を目指す。

 今回は前回の『ロマノク山』よりも登山道は緩やかなため、要救助者の怪我のレベルが上がっている。

 山小屋にはマネキンとくじが置かれている。

 マネキンを人に見立て、手当を施し、下山するのが本来の訓練である。

 マネキンはそれぞれ違う部分が負傷している事になっており、早く山小屋に着いたチームから順にくじを引いて負傷箇所を記入しているマネキンを選ぶ。今回は捻挫から骨折、低酸素症まで幅広く用意がある。

 帰参した順に手当は正しかったのか、ルートの危険箇所を正しく把握していたのか教官によるチェックが行われる。

 今日の天候は晴れ。ここ二週間雨降りも無し。前回とは打って変わった状況である。

「今日試験受ける奴は、いいな。俺たちは土砂降り……」

「それは今回試験受けるみんなも経験済み。違うのは山小屋に無事に到達したかどうかよ。私たち二チームは運がよかっただけ」

「まあ、一言で言うならそうなんだろうが……」

「でも、こっちの方がやりやすいとは思うよ。天気はいいし、ピクニック気分? が味わえるし」

「起点本部に缶詰にされている私たちの方が不幸じゃない。ピクニック気分じゃなくて鬼の小間使いになっているもの。もう最悪」

 そこに教官の鉄拳が入る。

「誰が鬼だって? グレイスしっかり聞いたぞ」

「私だけ生け贄ですか? 他の連中も頷いていましたが……」

「お前ら全員の評価落としてくからな」

「そんな〜、お大臣様〜」

「今頃おだてても遅いわ!」

 そう言いながらも教官も楽しんでいる。本気で拳骨を落とさなかったのが何よりの証拠だ。

 さて、試験中の連中は順調にチェックポイントを超えて目標の山小屋に向かっているようである。

「起点本部が登山道の入り口にあるせいか、空気が美味しいわね」

「確かに、普段の街とは違い澄んでいるよな」

「教官の使い走りだけど、ついて来てよかったわね」

「どうせ学校に残っていたとしても自習だったろうしな」

「勉強もせず、寛いでいる俺たちって、もしかしてラッキー?」

「もしかしなくてもラッキー。他の学生達はへいこら山登りしているのに私たちは使い走り兼ねた見学だもん。空気味わってればいいだけだしね」

 無線で次々とチェックポイント通過の連絡が入って来る。

 山の地図を見ながら、無線で入って来た状況を書き込んで行く。

「今のところ、早めに山小屋に着きそうなのが『グリーンフォレスタ』ね」

「でもどの負傷者に当たるか分からないから、山小屋内で順位の入れ替わりはありそう」

「それは私も思っていたわ。手足の骨折だと割とスムーズにいきそうだけど、頭を打っていたり低酸素症だと手こずるかもね」

 プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーは時間を弄びはじめた。

 空いている時間を利用し、どのチームがトップ通過するか賭けを始めたのである。

 さすがに、教官の目の前ではやらなかったが、大きな図体をした男が影でこそこそしているのである。目立たない筈がない。

「おい、お前ら何してる!」

 サエキ教官の言葉に

「はいぃ!」

 と半ば声がひっくり返ったような返事をする男達。

「また、何か悪さ考えていただろう」

「いえ。滅相もない……」

 視線が宙をさまよっている。これでは『何かしていました』と言っているようなものである。

 はぁ、と溜め息をついてサエキ教官が言った。

「グレイスみたいに我関せずでにっこり笑えとは言わん。だが、もう少しごまかし方考えないとアカデミーを卒業した後通用しないぞ」

 それを聞いてグレイスが問い質した。

「教官、それって誉めてます?」

「誉めているように聞こえるようじゃ、お前もまだまだだな。嫌みだよ!」

「やはりそうでしたか。まさか教官が嫌味を言うとは思えませんでしたので、確かめてみただけです」

 これでは嫌味の応酬である。

「お前、口は達者だな。法務課程とって正解だったと、今俺はつくづくそう思ったぞ」

「お褒めに預かり光栄」

「誉めてない!」

 他のメンバーは苦笑いである。

 漫才になりかけているサエキ教官とグレイスの言葉の応酬を聞いていた。

 そこへ通信が入った。『グリーンフォレスタ』の山小屋到着の報告だった。

「山小屋到着、今頭部負傷の登山者の手当中。手当終了後登山者を連れて下山します。」

「起点本部了解」

 ジーンが本部からの無線を送った。

 確かに遊んでいる場合じゃない。これから次々と無線が入って来るだろう。

 他のメンバーも臨戦態勢に入った。


「ここからが本番だな」

「担架に乗せた負傷者をいかに早く山から降ろすか」

 次々と無線連絡が入るようになった。

 無線担当のジーンは対応で精一杯になって来ている。

 そこへ助太刀のチームメイトが参戦する。

 地図に次々と無線の内容を書き取って行く。

「十四時五分、グリーンフォレスタ第二ルート第七チェックポイント通過」

「十四時七分、ファイアストーン第一ルート第六チェックポイント通過」

 メモ書きしてピンで地図に差し込んで行く。

「今山小屋に居るのが三チーム、急がないと日が暮れるわよ」

 グレイスが空を見ながら言った。

 今は雲がかかっていない晴天である。

 しかし現場は山。

 いつ天気が急変してもおかしくない状態である。

「雨にならなきゃいいけど」

 ぽつりと言ったグレイスの言葉が妙に響いた。

「雨じゃないが、小さな滝の側を通るポイントがある」

 そう言いだしたのはサエキ教官である。

「第一ルートのここ」

 そう言って地図を指差す

「滝の脇を通るんだ、地面は濡れてる筈だ、気をつけないと転んで滝壺の柵にぶつかるぞ。まあ、柵は予防としてあるだけで見方によっては危険地域だな。往路の時通っているんだ、気をつけているとは思うがな」

 そんな事を言っていた矢先、無線が入った。

「こちら、ファイアストーン。滝横の通路で足を滑らせ、担架が横転、負傷者役のマネキンが滝壺に落ちました」

 これを聞いて、サエキ教官をはじめ他の教官も呆然。

 プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーも同様だった。

「柵をくぐり抜けて落ちたぁ? 器用に落ちたもんだなぁ」

「なあ、滝壺に落ちたマネキンって、どうなるんだ?」

「そりゃ、上から落ちて来る水に打たれるから、浮き沈み繰り返しの状態?」

「一般登山者が見たらさぞ驚くだろうなあ」

「黒いマネキンが浮き沈みして出没する滝壺……ミステリースポットだ……」

 ジーンが教官に指示を求める。

「教官、教官ってば、どういう指示を送ればいいのか教えて下さい」

 教官達は教官達で意見の擦り合わせである。

 そのまま帰還するが多数の意見だったため、サエキ教官はジーンに指示を出す。

「そのまま帰還するように伝えろ」 

「了解」

 チーム、ファイアストーンは人形なしの帰還が決定した。

「人形の回収は、後日責任を持ってやってもらうとしようか」 

 これで、チーム『ファイアストーン』は人形回収の名目で研修が追加される事が決まった。

 どのような評価になるかについては、後日の判定を待つ事になるだろう。

 他のチームは、遅いか早いかの違いはあっても、人形を持って無事に下山した。

 ほっとするグレイス達だった。




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