25.リコール
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
二十五 リコール
二回生の間で、『副校長』への不満が広がって行った。
一つ間違えば自分達の命が危うい状況であった事が今回の訓練で明るみになったためだ。
それを『副校長』が、己の栄達のために横やりをいれて強行に行った事への不信感から不満に変わり、その不満は徐々に二回生から一回生、三回生へと広がり、学校全体が異様な雰囲気を醸し出しつつあった。
授業にも影響が出始めようとしていた時、グレイスはぽつりと言った。
「……やるか」
それは『副校長』およびその『腰巾着』へ対しての、リコールであった。
これは前代未聞のことで、アカデミーが発足してから一度も行われた事がない。
いわば、学校の不祥事に匹敵する程の事だった。
二回生の中で署名運動が起こり始め、それは、一回生、三回生にも広まり、収拾がつかなくなって来た。
一回生からすれば、これからの学生生活に不安を持ち始め、三回生からすれば、卒業試験で何をされるか分かったものではないと言う危機感があり、二回生のリコールに便乗したと言うのが本当のところであろう。
それをグレイス達プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーが取り纏め、校長室に提出しに行った。
「何かね、それは」
校長は無表情で言った。
「これは『副校長』およびその『腰巾着』に対してのリコールの要望です」
どさっと署名書を校長のデスクに置いた。
「そんな事をしてどうなるか分かっているのかね、君たちは。場合によっては放校ものだぞ」
「そうでしょうか。これだけの生徒が不満を申し出ているのです。むしろ学校側が何か対策をとらないと校長の責任問題にも発展しますよ。少なくとも二回生の学生達は、豪雨の中での救出訓練強行策で死にかけた訳ですから。その辺りを汲み取って判断して頂きたい。併せて、教官達の今回の訓練に対する評価も考慮して貰いたいものです。同行した教官が『副校長』とその『取り巻き』を除き全て後日訓練を行うべしと判断していた事を。……我々の命は副校長のおもちゃですか? そう問いかけたくなるような訓練でしたよ、今回の登山訓練は。校長はどうお考えですか?」
「私は……」
「直ぐに答えを頂けるものとは思っておりません。ですが、これだけはご理解頂きたい。これだけの生徒が今の『副校長』およびその『腰巾着』に不満を持っていて、学校の教育そのものに疑問をもち始めている、危うい期間だという事を」
「グレイス・九条候補生、君は私を脅迫するつもりかね?」
「脅迫? まさか、そんなつもりはありません」
「ではなんだというのだ」
「事実を申したまでの事です。それでは、失礼します」
校長室に大量の署名を置き、校長室を後にした面々達。
他のメンバーは冷や汗ものだったらしい。
「お前、校長にまで喧嘩売るなよ」
「本当の事を言ったまでの事よ。あの署名もあるし、学校も動かざるを得ないでしょう。サエキ教官が集めてくれた今回の実習についての教官達の意見もあるし」
「つまり、校長としては、副校長と腰巾着を排除しない限り自分の首も危ないってことか」
「そう言う事」
「やっぱ怖いな、グレイスは。そこまで考えているとは」
「そう? 普通にさせてくれる分には害はないと思うけれどね」
共有スペースにつき、お茶を飲む面々。
「今回の件、一般客も巻き込まれたからニュースにもなっちゃったでしょう。校長としても動かざるを得ない状況でしょうし、署名が後押しすると思うのよね。違う?」
「そりゃそうだが……」
「自分が動かなければ、上の方が動いて自分の首も危うい。その事は理解している筈だけどね、あの校長は。『副校長』のおねえ言葉での反論には青筋立てるかも知れないけど」
「たぶん『何で私が責任を取らなければなりませんの? 全て天候のせいではありませんか。これくらいの試練を乗り越えるのがアカデミー生でしょう?』位は言いそうだな、副校長は」
ジーンの物まねに腹を抱えて笑うメンバー達。
「まだ、俺たち学生だぜ。卒業して正職員で殉職ならまだ納得がいくが、その前に学生の予備段階で殉職なんて冗談じゃない」
「その冗談がホントになるところだったんだから。私たちは校長の英断を期待しましょうか」
のほほんとお茶を飲むグレイス。
グレイスに毒気を抜かれ、『はあ〜』と、同じくお茶をするプランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバー。
「いずれ、副校長については何とかしてもらわないと、授業内容ではなく教員に対しての不満で退校する学生が出てくるわよ。それじゃ、校長は困るわねぇ」
「そりゃそうだ」
「自分の首と学生が大事なら動くでしょ」
そう言ってグレイスが会話を締めくくった。
そしてそれは、事実その通りになった。
後日、大量の学生を死傷させる危機に追いやったとして、副校長とその副官が更迭された。




