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19.上級生は、走る、走る

※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※

※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※

※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※

十九 上級生は、走る、走る




 一回生がテスト対策に明け暮れている頃、二回生はテスト前の授業に走り回っていた。

 今日は午前中・午後とも、士官学校と合同で、宇宙海賊に関しての授業がある。

 これはアカデミー二回生第二期入学組全員と士官学校三回生全員の合同授業である。

 年齢は点でバラバラ。

 士官学校は十八歳から入学可能で上限は二十二歳まで、在学期間四年間で、アカデミーは十五歳から三二歳まで、在学は三年間と、在校生の年齢幅が違うためである。

「ジーン、良かったじゃない。士官学校の三回生全員出席だから、女子も居るでしょ。数少ない花をゲット出来るかも知れないわよ」

「でも俺より年上だ〜」 

「姉さん女房になるかもね、相手がいればの話だけど」

「グレイス、妙に冷たくない?」

「そう? いつも通りの対応だけど。計算上、最低でも四歳離れているわね。これでトライするならしてみても良いんじゃない?」

「四歳か、う〜ん」

「そこで迷うくらいなら止めておいた方が良いわよ」

 そうか、がっくり。

 士官学校生からすれば、アカデミーの生徒は場合によっては適齢期? なのである。

 何故か、グレイスに注目が集まっているようである。

「本性知らないって、怖いな」

 カイルがぼそっと言ったのをグレイスは聞き逃さなかった。

「何か言った? カイル君?」

「いや。何でも無い」

「そう、ならいいわ」

 物騒な会話をしていたのに、周りからはどうも花のある話しをしていたように見えたらしい。

 勇気のある士官学校生がグレイスに声をかけて来た。

 他のチームメイトは廻れ右をして面白がって話を聞く体制のようだ。

「あの……」

「何でしょう?」

 にっこり。

 チームメイトにとっては恐怖の微笑みである。

 が、彼は知らない。

「僕たちとティベートしてみませんか?」

 連邦大生よりはまともな内容だった。

「どんなティベートかしら」

「男女交際についてです」

「あくまでも一般論で良いのかしら、それとも下心あり?」

「それは……」

「下心ありそうね、ならご免だわ。」

「せめて、お話だけでも……」

「ご自分の学校の学生にトライしてみては如何でしょう。私の場合は恋愛に興味はなく、また、もし仮に恋愛をしたとして、その先に進もうとしても連邦法の淫行条例に引っかかりますので、ご免被ります。では」

 グレイスが言葉を切った。

 相手の頭の中で、法律用語がぐるぐる回る。

 淫行条例って――

 相手が驚いたように一歩引いた

「……貴女は十八歳に達していない?」

「ええ、そうです。それが何か?」

「いえ、いいです、失礼しました、では」

 と引きつりながら去って行く。

 チームメイトはというと……。

 爆笑寸前だった。

「お前、淫行条例って……」

「これ、効き目あるわよ。どうしてか、私十八歳以上に見えるらしいから、いつも条例持ち出して追い払っているの」

「確かに効き目抜群だったな」

「でしょ。相手を見てからものを言えって言うの。私は今、恋愛よりも授業が大事なのよ! そこのところが分からない男、多いのよね」

「でも、普通の女子であれば興味ある分野じゃないのか?」

「私は普通じゃないってことでしょ。アカデミーに居る女子は、少なくとも恋愛に現を抜かしている場合じゃないと思うけど。士官学校の女子生徒達はフレッドに興味を持ったようね。対応楽しみに聞かせてもらうわ」

「おい!」

 と言っている間に、士官学校の女子生徒達にフレッドが取り囲まれてしまった。

「あの、誰かとおつきあい、されていらっしゃるのですか?」

「どんな女性に興味をお持ちですか?」

 その問いに、フレッドはとんでもない回答をした。

「私は元修道僧、私の心は神の御心と同じ方向を向いております。恋愛の事でしたら誠に恐縮ではございますが、他の方をどうぞ」

『ぶふっ』という音が聞こえた。

 誰かが笑いを止められなかったらしい。

 士官学校の女子が後ろ髪を引かれるように離れて行った後、プランキッシュ・ゲリラの面々は隣に居たライトニング・ブルーのメンバーも巻き込んで大爆笑していた。

「お前、元修道僧だったのは知ってたが……、そうか、心は神の御心と同じものか!」

「昨年の連絡先にあげられた女性の数、あれは一体なんだったのかしら?」

 士官学校の女子生徒達はまだフレッドに未練があるらしい。

 こちらをちらちら見ている。

 その中でも中心的な女子生徒が、痛い程鋭い視線をグレイスに送っていた。

「視線がささるなぁ」

「誰の視線?」

「さっきの男子生徒の連中と、女子生徒達の視線よ」

「何で、女子生徒達のがあるんだ?」

「このメンバーの中で女子は私一人でしょ、モテる男の側に女子一人。だから目の敵にされているの。わかる?」

「女っておっかねーな」

「でしょ、そこを理解して恋愛の花を咲かせる事を祈っているわ、ジーン君」

 実は理由はそれだけではなかった。

 グレイスはバレエや日本舞踊をやっていた事もあり姿勢が正しく楚々としたところがあり、フレッドは言わずと知れた元モデルで姿勢がよく目立つのである。

「改めて思うわ、俺たちって目立つ奴と仕事と勉強していたんだ」

「そうだねぇ、君らと居ると、地味な僕らも目立ちゃってるし」

 これはロバートの言葉。

「地味? そうは見えないけど」

 実際、ライトニング・ブルーのメンバーは標準よりもルックスはかなり上だが、プランキッシュ・ゲリラほどではないと言う事だ。その自覚がないらしい。

「それは、君がプランキッシュ・ゲリラという超目立つチームに居るから。いっつも視線受けているでしょ。僕らにはそれが無いんだよ。だから君らと居ると視線が痛くって」

「そうか? 普通だと思っていたけど」

「そこからして違うんだよ」

「まず、授業を受けようよ」 

 丁度教官が入って来たところだった。


「宇宙海賊は、宇宙艦隊、宇宙航空局の悩みであるが〜」

 と授業が始まった。

 今回初めて士官学校の授業を受けるグレイスにしてみれば「メリハリの無い授業だなぁ〜」という事になる。

 ぺらーっと今回の授業のレジュメを見ていたとき、教官の罵声が飛んだ。

「そこのアカデミーの学生、真面目に聞いているのか!」

 丁度マイクが廻って来たので言った。

「聞いています、そこで質問です。まったく前置きが長くて時間がもったいない。結論として、航宙法第十五条適用か、二十四条補足三適用か、七条補足四および九条抵触扱いかはっきり教えて頂きたい。こちらも授業参観で遊びに来ている訳ではないので、さっさと答えて頂きたい」

 これには教官どころか士官学校生、アカデミー生の一部が唖然とした。

 プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーはそろってけろっとしていた。授業内容はともかく、ペースが遅いとメンバー全員が感じていたからだ。

「教官に対してその態度は何だ!」

 先ほどグレイスを敵視していた女子生徒にしてみれば面白いところである。

 とことん教官にやられてしまえという思いが存在する。

 だが、相手が悪かった。

 連邦大学の教授を追い込んで胃潰瘍で入院させたグレイスである。

「態度の問題ではなく、授業の問題でしょう。もう一度言います。航宙法第十五条適用か、二十四条補足三適用か、七条補足四および九条抵触扱いか、このどれですか? 違うのであれば、その項目と適用理由を伺いたい」

 完全に授業の主導権はグレイスのものとなっていた。

 チームメイト達は、こうやって連邦大学の教授を胃潰瘍で入院させたのかと納得している。

「生意気な、俺を怒らせる気か?」

「まさか。一生徒として聞いてます。私が考えられるのは、先ほどあげた三項目。もし違うのであれば理由をお聞かせ願えませんか? 教官? この授業のペースは士官学校のペースでしょうけどアカデミー生として言わせてもらえば遅すぎます。もう少しさっさと進んで頂きたいものです。時間がもったいないもので」

「生意気だと言っている」

「生意気ついでに言わせてもらえば、連邦大学よりもペースが遅いですよ」

 そこで教官は、はたと気がついた。

 連邦大学の教授を胃潰瘍で入院させた生徒がアカデミーに居る事を。

「おまえ、まさか連邦大学の教授を胃潰瘍で入院させた生徒か?」

「自覚はありませんが、周りからそう言われていますね」

 ここで、教官は、自分が地雷を踏んだ事に気がついた。

「さて、航宙法第十五条適用か、二十四条補足三適用か、七条補足四および九条抵触扱いのどれです? 何度言わせる気ですか? では、私から言います。二十四条補足三適用、これで間違いありませんね! どうなんですか!」

 教官は冷や汗たらたらである。

「それが正解だ」

「設問からここまで約五分。さっさと答えを言ってくれれば次の問題に取りかかっている頃ですよ。全く、士官学校とアカデミーとでは時間感覚が違うらしい。」

 フーッと息を吐いた。

「何故、二十四条補足三適用か、その解釈まで私がした方が良いのでしょうか? 教官?」

「いや、説明は私がやる」

 それを聞いて、グレイスはポイッとマイクを置いた。

 プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーはそろって笑いを堪えている。

 ――これにやられたんじゃ、連邦大学の教授の胃にも穴が空くな

 そう思った面々だった。

 授業ペースが遅いとじろりと睨むと、すくみ上がる教官。

 これではどちらが教える立場なのか分からない。

 苦笑するチームメイト達だった。


 こうなると、先ほどからグレイスを睨んでいた生徒も授業について行くのに大変で、睨む暇がない。

 アカデミーの連中は余裕しゃくしゃくである。

 問題の解説を聞きつつ、次の問題に取りかかっている。

 机の下をメモが飛び交う。

『問い三は第六条抵触か――』

 このメモに赤で丸をして送り主に返す。

 そんな事をして授業時間は過ぎて行く。

 教官は二度と、グレイスに問題を当てる事はしなかった。


 お昼は一旦、高速モノレールを使ってアカデミーに戻る。

 食堂で食事をしているとき、サエキ教官がやって来た。

「お前、士官学校でも何かやらかしたようだな」

 グレイスに向かって行った言葉に、返答はこうだった。

「授業があまりにもちんたらで、教官に喝入れただけですけど?」

 教官が笑い、こう言い残して去って行った。

「相手にするのも良いが、程々にしとけよ」

 グレイスは他の法務課生から『歩く六法全書』とまで言われている。

 それだけ、法律に関しての知識が深く、法務試験を受けたとしても、一発合格で法曹界に仲間入り出来るとまで言われている。

 それに気づかなかった士官学校の教官も教官だ。

 午後の授業はどうなる事やら。

 楽しみにしているプランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーだった。


 さて、午後は、また高速モノレールで士官学校に向かう。

 講堂についてみると――

 午前中グレイスが座っていた箇所にどばーっと砂糖水が零されていたのである。

「これって子供のやる事じゃない?」

「いや全く、幼稚で古典的手法とはまいるな」

「砂糖なんて普段学校で使うか? よく砂糖水なんて準備出来たよな……」

「女って恐ぇ〜」

 午前中に聞いた台詞をまた聞いた。

 グレイス達からすれば、この陰湿な嫌がらせは誰がやったか一目瞭然である。

 士官学校生がくすくすと笑う。

 それに同調する筈の無いグレイスは冷ややかに相手を見た。

「おい、どうするよ」

「私に考えがあるわ。泣き寝入りするつもりもないし。ちゃんとお灸を据える場所に据えなきゃね」


 講堂の後ろに腕組みしながら立っているグレイス。

 その横には、フレッドとジーンも居た。

「私だけで良いのに」

「被害がお前のところだけじゃなく、俺らのところまで来ていたの。だから着席不可」

 よく見ると、確かにフレッドとジーンの席まで砂糖水が広がっていた。

「対応は私に任せてくれる?」

「勿論」

 教官が来るまで正面を見据たまま腕組みをするグレイスだった。

 そこへ教官がやって来た。

「何故着席しない?」 

「誰かが嫌がらせをしてくれたようで、着席不可です」

 教官が席を覗きに来る。水び出しである事を認めた。

「誰がこんな事をした」

 そう言った教官に

「自分達でやったんじゃないですか? 授業遅いって文句も言っていた事だし」

 と言った女学生が居た。

 教官はグレイス達を見る。

「そんな余裕はありませんでしたよ。何なら、高速モノレールの防犯カメラで確かめたらどうです? 教官が来る直前に講義室に入った事が分かりますよ」

 防犯カメラについては頭に無かったらしい。

 いたずらを仕掛けた生徒が慌てて言った。

「授業に就けないものは、講堂から出て行ってもらった方が良いと思います」

 その言葉に、アカデミーの学生、特にライトニング・ブルーが反応した。

「授業を士官学校でやると聴いたから我々は来ましたが、その授業の場所が用意されていないとなると、我々は授業を受けられません。上段に立っている彼らだけでなく、我々も授業参加は不可と判断します」

 そう言ってアカデミーの学生がレポート用紙と筆記具を持って全員起立したのである。

 いろいろな困難をお互い助け合い乗り越えて来たアカデミー生達だ。鋼鉄の団結力が有る。

 これに慌てたのが、教官と士官学校生である。

 授業エスケープの理由が、士官学校側の対応の悪さと知れると、これからの授業にも影響する。

「まずは、起立している諸君は座って」

 それでも起立したままの学生達。

「ここを汚した生徒はすぐに掃除するように」

 掃除する訳が無い、自分が馬鹿をしたと言いふらすようなものである。

「掃除するものも居ないようですね。では、我々は授業出来ない状況と見なし、授業を拒否します。三大難関校と言われる士官学校でこのような悪戯の対象に合うとは思いもしませんでしたよ。退出します、よろしいか」

 そう言って、教官の返答を聞かず、講堂からずかずかとアカデミー生が出て行った。

 グレイスの嫌味に教官は何も言えず、白くなっていた。

 嫌がらせをした生徒はここまで話が大きくなるとは知らずに、青くなって佇んでいる。

「一体、これをやったのは誰だ〜!」

 と大音響で士官学校生に言う言葉がアカデミーの生徒に聞こえて来たが、無視して高速モノレールに向かう。

 そして士官学校へ行った筈の生徒が高速モノレールで戻って来た事に対し驚くアカデミーの教官達。

 その教官に一言。

「授業が受けられない程の嫌がらせに遭いましたので、アカデミー学生の総意として授業を拒否してきました」

 と伝える。

 これは、アカデミーと士官学校が共同授業始まって以来の珍事である。

 すぐにもアカデミーと士官学校側で協議がされたとか。


 続きの授業は、結局アカデミー単独で行う事になった。

 いつものペース授業が進んで行き、授業が受けやすいようである。

 士官学校はというと……

 まずは犯人探しとなり、男子生徒の供述から、例の女子生徒達が浮上した。

 責任を取る形で女子達に掃除をさせ、その間アカデミーに謝罪の連絡を入れる。

 が、対応をしたのがサエキ教官だったため、士官学校には容赦がない。

「今回の授業は我々で行いますので結構」

 と言って相手の会話を断ち切ったのだとか。




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