16.僕らの時間
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
十六 僕らの時間
コフィン・エクスプレス中の学生は学校の敷地内から出る事は出来ないが、上級生は申告して許可が下りれば、学校外の一般区画に外出出来る。
グレイスは土曜の今日、外出を満喫していた。
一般区画内にあるショッピングモールでの買い物である。
グレイスは毎月一つ、無事にクリア出来たご褒美として、安物ではあるがアクセサリーを買い集める事にしていた。
今興味があるのはパワーストーン。
石の力に興味があるわけではないが、ブレスレットやピアス、ネックレスに指輪、イヤリング等様々な種類があって面白いのである。
今日は小さな翡翠のピアスを購入した。
いつもつけているのは小さなダイヤモンドがついたピアス。無色透明で複雑なカットをしていないので目立ちにくく、平日の授業でつけていても注意されるレベルではない。
今日は外出だからと、ダブルネックレスに割とぴっちりしたブラウスにジーンズといった格好である。このため、ハイスクールの生徒によく間違われるのである。
「ねぇ彼女、さっきから見てるけど、ずーっと一人じゃん、俺らと遊ばない?」
グレイスからすれば、莫迦が寄って来たという心境である。
「興味ないわ」
「そう言わずにさぁ〜」
「だから何度言わせるの。興味ない!」
軟派に引っかかる程莫迦じゃない。
「行こうってば〜」
しつこさに呆れ、グレイスは伝家の宝刀? を出した。
「連邦法第九条、二十七条、三十六条は? 即答出来ない人に興味ないの」
これには、軟派男は引きつりながら後ずさり逃げて行った。
「お見事」
パンパンと拍手をしたのは、同じチームメイトのジーン。
「あれ? ジーンも外出中だったわけ? 何で助けてくれないのよ」
「面白そうだから見てた。ちゃんと撃退したじゃないか」
「そっちは? 逆ナンされてない?」
「それはないな。この付近に居る女の子達は俺に興味が無いらしいから」
「じゃあ、寂しいもの同士で一緒に廻る?」
ということで、一緒にショッピングモールを廻る事になった二人だった。
お互い知らなかった事を知るきっかけにもなり……
ジーンもパワーストーンに興味を持ったようだ。
「ジーンの場合、まず出会いが無いのよね。出会いが欲しい人向けの石は……貴方の場合、男性だから『トルマリン』ってところかしら」
「チェーンでもかって首にぶら下げておこうかな」
「げっ、そこまで恋愛運に拘る訳?」
「だって、ほんっっっとに出会いが無いんだ、俺の場合」
「専攻が火器管制じゃムリも無いと思うけど」
「身近なお前、相手してくれる?」
「それ、本気で言っているなら、寮に戻ったらハリセンお見舞いするけど」
物騒な会話をしている二人だったが、端から見れば恋人同士に見えるらしい。
「あの人かっこいい、背高いし」
「一緒の女性も良いよね。かっこいい女性って感じで」
周りの会話を聞いていた二人は一緒にゲッソリしてしまった。
「店、出ようか……」
「そうだな……ちょっと待った! このペンダントトップ買って来る」
「結局石頼みか」
と呟いたが、買い終わるのを待つグレイスだった。
「ねぇ、ジーンの場合、仕事運の石でもよかったんじゃないの」
「仕事は自力で行くさ。俺に無いのは女運」
「自分は女だと思っていない女がすぐ横に居る訳だし」
この言葉を聞いて、グレイスはローヒールの自分の靴で思いっきりジーンの足を踏み付けてやった。
「いてー! やっぱ、お前女じゃない。鬼だ、鬼」
「一生理想の女性像を語っていれば?」
「情け容赦ないよなお前」
「手抜きして相手してほしい?」
「いや、今のままで良いです」
――ジーンの負けだった。
「これからどうしようか?」
「お前昼飯は?」
「食べた」
「俺も食った」
「じゃあ、本屋にでも行ってみる?」
「時間つぶしにはいいな、バスも暫く無いし」
大型書店がこのモールにはある。二人は本屋に向かった。
「俺、雑誌コーナーに居るわ」
「私は専門書の方に居るから」
二人はここで一旦別れた。
ジーンはバイクの雑誌を物色中。
アカデミーを卒業したらバイクを買って颯爽と走りたいのである。
グレイスはというと、法学の専門書、特に航宙法を専門に扱った本を物色中であった。
法律は人によって解釈が異なる場合がある。
このため、判例を元にして記載された本が手元に欲しいと思っていた。
ぱらぱらとめくっては次の本に移り……。
結局気に合う本が無くて立ち去ろうとした時、スポーツコーナーが目に入った。
ジュニアハイスクール時代は、テニスをしていたグレイス。
雑誌をぱらぱらとめくっていくと、懐かしい面々がハイスクール大会の記事の中に居た。
思わずその雑誌を抱きしめる。
――明日は久しぶりにテニスでもしようか
雑誌を手に、購入コーナーにいくグレイスだった。
すると、そこにはすでにジーンが並んでいた。
「おう! 買う本決まったのか?」
「まあね」
テニスの雑誌をみて驚いているジーン。
「アカデミー入学前は、やっていたのよ」
そう言って会計を済ませるグレイスだった。
アカデミー行きのバスというより、特別行政府へ向かうバスは本数が少ない。
土日は外出者が居るため本数が増やされるが、それでも一時間に一本あれば良い方である。
「バス時刻までまだ一時間近くある、どうする?」
「こうなったらお茶でもして時間潰すしか無いんじゃない?」
近くの喫茶店に入り、時間をつぶす事にした二人だった。
店の中に入ると、さほど込んではおらず、静かに談話する人が目立った。
二人はちょうど空いていた窓際の席に座り、各々が買った本を、コーヒーを飲みながら読んでいた。
そこへちょうど、一人の人間がやって来た。
――ライトニング・ブルーのロバートだった。
「何? もしかして二人して付き合っちゃってんの?」
「それ本気で言ってるのか?」
「本気だったら貴方にも『ハリセン』お見舞いするけど」
「じょ、冗談だってば」
ロバートは半分引きつっている
「バス待ちだろ? 一緒に混ぜてもらっても良いか?」
「構わないわよ」
ロバートは空いているいすに腰掛け、同じくコーヒーを注文した。
「へぇ、グレイスがテニス? やってたの?」
グレイスが読んでいる雑誌を目にし、ロバートが問いかけて来た。
「昔ね、やってたのよ。その時の仲間が記事になってたから思わず買っちゃった」
「ちょっと、この雑誌、テニスじゃ一流中の一流じゃん。これに仲間が載ってるっていったら、相当真面目にテニスしていたんじゃないの?」
「まあね。ロバートは何かスポーツしていたの?」
「俺? 俺は陸上やっていたな。短距離走」
「ジーン、おまえは?」
「オレ? 特別に何かしていた訳じゃないな。人員足りなければ、どっかの助っ人に入ったり。そうだな、ベースボールとバスケとバレー、サッカーには借り出されていたな」
「それってある意味、オールマイティじゃない」
「知らんかった」
そこにまた一人現れた。
ライトニング・ブルーのケンだった。
「何してるんですか、たむろっちゃって」
「偶然。バス時間までの暇つぶしだよ。お前も入るか?」
「そうですね、混ぜてもらいます」
二人から一気に四人のグループになった
「何か目立ってないか?」
目立つ事に慣れていないライトニング・ブルーの二人が言った。
「無視! これに限る」
「ってことはやっぱり目立ってるんだ」
「そりゃそうだ、このメンバーで目立たない筈は無い」
四人とも人種も違えば身だしなみも皆違う。
グレイスは唯一の女性で、凛々しさ漫然。
ジーンはブルーのタートルネックにジーンズ。
ロバートはグレーのシャツにチノパン、コート姿。
ケンは白のシャツにネクタイ、スラックスにジャケットを羽織っている。
てんでバラバラな格好なのである。
それが四人集まってる。
目立たない訳が無い。
「いつも我関せずでやっているわよ」
「グレイス慣れてる?」
「そりゃそうよ、一人の時もあれば、メンバー総出でつるんで外出する事もあるもの。うちのチームには元モデルまでいるのよ。目立たない訳無いでしょ」
そうだった。
このプランキッシュ・ゲリラにはフレッド・ノイシュタインという元モデルが居たのだ。
「ね? だから視線は無視するに限るのよ」
慣れた手つきで雑誌をめくり優雅にコーヒーを飲む二人。
視線がどうしても気になってカチコチになって居る二人。
「ちょっと、カチコチが目立つんだけど」
「そう言われてもどうにもならないんだよ」
「じゃあ、私たちと話してた方が楽?」
「そりゃ、楽だ」
「んじゃ、話してましょうか」
「さっきロバートには聞いたんだけど、ケンは何かスポーツしていたの?」
「俺は水泳」
「じゃ、クロール?」
「いや、背泳ぎで」
「ちょっと意外」
「でもこいつ、見た目よりガタイは良いぜ」
「へぇ〜」
そんな会話をして、バスが来る時刻まで時間つぶししていた四人だった。




