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15.危機管理

※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※

※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※

※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※

十五 危機管理




 二回生第二期入学組に、予定プログラムに無い授業が急遽追加され全員参加の授業が組まれた。

 ――危機管理の授業である。

 本来、三回生のプログラムであるが、二回生にも一度体験させてやろうという事になったらしい。

「それで『親父』の奴、なかなか顔を見せなかったのか」

 ――『親父』と呼ばれるサエキ教官は、教官になる前は特殊作戦部門に居た情報管理のエキスパートである。

「どういう授業だろう?」

「サエキ教官が絡むとなると、相当ヤバそう」

「ちょっと引きつるわね」

「ちょっとで済むのか、ちょっとで。――絶対難問だって!」

 そう言っている間に、サエキが教壇に立った。

「今日の授業は単位には関係ない。危機に直面した際、お前達がどのような対処方法をとるのか、現段階で確認するために、本講義は行われる。チームごとに問題が違うから、他のチームの真似は出来ない。問題はくじで決める。チームの代表者、出てこい」

 この時、プランキッシュ・ゲリラでは、いつもくじ運が良いカイルが代表として壇上に立った。が、立ち位置が悪かったのか、くじを引く順番が一番最後になってしまった。

「げっ。カイルが出た意味ないじゃん」

「他のチームより内容が簡単な事を祈りましょ」

 くじを開き、中身を確認する。

「宇宙空間での機内での対応、その十」

「……という事は少なくともその一から九まで存在する訳だ。……ははは」

 授業の順番はくじ順となり、プランキッシュ・ゲリラは最後になった。

 今回の内容はというと、急に酸素が放出されたくなった場合や、重力が不安定になった場合、急に振動が発生した場合とか、機内活動のものばかりである。

「ま、この講義室で実習兼ねた講義となると、自然に航宙機内のトラブルになる訳だ。おれたちはどんな問題だろ?」

「やってみなきゃ分かんないな」

 与えられた時間は二十分。この時間内に正答出来ない場合、間違った回答を引き出した場合は、これが本当の宇宙空間であれば死亡している事になる。

 クリアしているチームはまゼロ。

「この授業、俺たちにはまだ早いって」

「じゃあ、いまから『親父』に訴えに行く?」

「……遠慮しときます」

「私たちも餌食になるか」

「やるっきゃないからな」

 実習を終えたチームは顔を青くし、ばたばたと出て来て悪酔いでもしたような状態になっている。

 授業の進行ペースは、教官の仕掛けたトラップに引っかかるケースが多く、早いペースで進んでいた。

「最後、――プランキッシュ・ゲリラ!」

 ドスの利いたような声でチーム名が読み上げられた。

「さて、我々もいきますか」

 試験室に入る五人だった。


 操縦席にはグレイスとジーンが、後ろにカイル、フレッド、ウォンが腰掛けた。

「機器点検確認」

 グレイスとジーンが表を見ながら順に確認して行く。

 ランプはオールグリーン。

「機器、オールグリーン、発進します」

 航宙機は無事に発進した。ここまでは正常だった。が……。

 宇宙に出て慣性飛行に移り、オートパイロットに移行した際異常が発生した。

「航行管制プログラムに異常発生」

 グレイスが異常を知らせた。

 他のメンバーはプログラムに目を光らせる。

「グレイス、操縦は任せた」

 そう言ってジーンはプログラム修正のメンバーに加わる。

「管制、こちらプランキッシュ・ゲリラ、航行管制システムにトラブル発生、帰還を要請する」

 そう報告したとき、サエキがマイクを持ってこう答えた。

「こちら管制、現在磁気嵐が発生し管制誘導困難、自力で修復願う」

「プランキッシュ・ゲリラ、了解」

 ――やはりそう来たか。

 グレイスは無線を切り、中のメンバーに伝える。

「帰還困難、自分達で対処だそうよ」 

 プログラム解析にはフレッドとウォンがあたり、補助にジーンがついた。

「何だろ。バグも走っているけど、ワームも存在してる」

「ワームがプログラムを食っていっているんだ。ワームを消さないと」

「おれがワームの方を担当するから、ウォンはバグの対処を頼む。ジーンはプログラム修正を同時に行ってくれ」

 フレッドの言葉に『了解』と返す二人。

「おれ、やる事無い」

 と言ったのはカイル。

「あるでしょ」

 とはグレイスの声。

「彼ら、相当熱くなって対処する筈だから、彼らのおでこに冷えピタ貼るとかカロリー補充とか、貴方の管轄でしょ」

「……そうだな、そうだよな。健康管理が俺の仕事だ!」

 そう言ってばたばたと医療スペースにものを取りに行くカイル。

「全く」

 といって溜め息をついたグレイスだった。

 グレイスもただ操縦席に座っているわけではない。

 修復の進行状況を見ながら、機体のバランスを取っているのである。

 ワームの進行が考えていた以上に早い。特に火器管制がコントロール不能になったら一大事である。

「火器管制を航行プログラムから切り離します」

「おい、それは……」

「このままじゃ自爆コースよ、コントロールから分離するわ。機体のシールド強度も低くなるけど、やむを得ないわ」

 機器のスイッチを切った上で承認コードを入力する。

「ワームの状態は?」

「徐々にペースが落ちて来ている。もう少ししたら完全にワームを消去出来る」

「バグの方は?」

「こっちは修正に入っている、ジーンも居るからバグの方のプログラム修正は早く終わりそうだ。」

「了解」

 状況を確認した。

 左にある補助画面を見る。

 ワームがプログラムの三十二パーセント食い荒らしていた。

 このままでは航行プログラムそのものが瓦解しかねなかった。

 フレッドの力を信じてはいたが、現実的にはコントロールを変える事を考えなければならない状態だった。

「……航行プログラムをサブコントロールに切り替えます」

「おい、それは……」

「このままではデッドラインの三十五パーセントを超えてしまう。通常航行プログラム自体を航行プログラムから切り離す。逆に言うと、航行状態を見ながら対処しなくていいから思い切り超高速で対処出来るでしょ」

「確かにそうだが……分かった。パイロットの判断だ。お前の指示に従う」

「コントロールをサブコントロールに切り替え完了。これでワープ不能、航行スピードも十五パーセントに減少」

 操縦席からメンバーに状況を報告した。

「バグの方の対処は終わった。俺たちはフレッドの補助に入る」

 ウォンの言葉に

「了解」

 と返したグレイスだった。


 この状況を外から見ている同級生は驚きを隠せない。

 プランキッシュ・ゲリラの面々は、正直言って、くじで一番悪いものを引き当てたに等しい。

 そんなトラブル設定だった。

「あいつら、あの状況をひっくり返すところまで来ている。もしかしたらいけるかもよ……」そんな声が聞こえ始めていた。


 プランキッシュ・ゲリラは、今プログラムと格闘中だった。

 操作に当たっている三人は、そろって額に冷えピタを張っていて、見ている側としては吹き出したい状態だったが――

「重力制御プログラム修正完了」

「空調制御プログラム制御完了」

「火器管制プログラム異常確認完了」

「航行プログラム修正終了」

 その言葉を聞いてグレイスが動いた。

「航行プログラム再起動」

 その場で黙って状況を見守るプランキッシュ・ゲリラのチーム員達。

「再起動終了、システムオールグリーン。サブコントロールから通常コントロールへ移行、……移行完了。システム異常なし。航行を継続する。」

 その言葉を聞いてハイタッチを交すフレッド達。

「プランキッシュ・ゲリラから管制、異常修復完了、航行を継続する」

「管制了解、良い旅を、グッドラック! ――プランキッシュ・ゲリラの連中、試験終了だから出て来ていいぞ〜」

 サエキのその言葉を聞いて全員で円陣を組んで『うぉっしゃ〜!』と声をあげるプランキッシュ・ゲリラ。

 実習を見学していた他の生徒達も拍手を送っていた。

 そして試験室から出て来た面々。

 一瞬おいて、拍手が爆笑に代わった。

「え? 何だよ?」

 訳が分からないプランキッシュ・ゲリラ一同。

 そこに助け舟を出したものが居た。ライトニング・ブルーのロバートだった。

 指をおでこに指してぽんぽん叩く。

「あ〜!」

 冷えピタを張った状態のまま試験室から出て来たのである。

 ――これは結構恥ずかしいかもしれない。

 だが、ただ一チーム合格に爽快感があり、やり遂げた自信が加わった。

「やられたよ、完敗だ」

 ロバートが言った。

「まだ始めだぜ、俺たち。これからがあるだろ」

「……そうだな」

 ロバートが感慨深く答えた。

 そう、まだ始まったばかり。今日はたまたま上手く切り抜けていったが次もそうとは限らない。

 プランキッシュ・ゲリラの面々は気持ちを切り替えて講義室の自席に着席した。




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