14.僕らはみんな生きている
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
十四 僕らはみんな生きている
コフィン・エクスプレスの終盤に差し掛かった頃、新入生達にとって大きなイベント的授業があった。
――無重力の体験である。
グレイスとジーンは操縦課程でもあることから、何度も経験しているが、新入生にとってこれは初めての体験である。
きゃいきゃいはしゃぐ新入生達。
それを冷静に見る授業の補助に借り出された上級生二名。
「あのテンション、何処まで続くかな」
「実験室入るまででしょ」
この授業にプランキッシュ・ゲリラのグレイスとジーンが借り出されていた。
「今日の授業、出席扱いになるとはいえ、取りたかったな」
ぼそっと言うジーン。
「それは私も同じ、後で自習だもんね」
これはグレイス。
「そっちは何の授業?」
「宇宙力学、そっちは?」
「連邦六法概論」
「どっちもきっつい授業が割当たってたわけだ」
「ホント、そうよね。ところで、何人生き残ると思う?」
「三分の一」
「結構楽観視しているのね。私は五分の一ってところかしら」
「そっちは悲観的なんだな、どうだ、賭けるか?」
「のった!」
無重力状態だと三半規管が正常に効かないため、多数の離脱者を出すのである。
それで何人生き残るか、賭けになったのである。
「グレイスとジーン、ちょっと来い」
教官に呼ばれて従う二人。
新入生に対して言う。
「この二人が君たちと一緒に無重力室に入る。具合が悪くなったらすぐ言うように」
――標準時間二分
この設定時間から見ると、教官達は新入生達がそれほど長く無重力下に耐えられないと判断している事になる。
「トップは〜、足の事があるからな、ミヤケ一人で行け」
「グレイスとジーン、足の事があるから、二人でついてくれ」
「了解!」
無重力室に入って行く。
部屋全体が安全のためにクッションを詰めた状態になっている。
部屋の外にある調整室から教官の声が聞こえた。
「準備は良いか」
ミヤケの顔色をみて、サムズアップしてみせた。
「では、はじめる」
体がふわ〜っと浮き上がって来る。重力が徐々に少なくなっている証拠だ。
三人とも、足が地上から離れた。
完全に無重力遊泳をしている状態である。
「うわ。体が浮いてる」
ミヤケは興奮状態である。
「気持ち悪いとか、吐き気とかない?」
「大丈夫です。何か、凄い感動です。――これが宇宙だったらもっと凄いんでしょうね」
怪我した左足を庇いながらも、右足でぴょんぴょん跳ねて泳いでいる。
「ミヤケって――三半規管鈍感?」
「これだけ動ければ、素質はあるってことかな?」
フィギュアスケーターみたいにくるくる回ったりもしている。
「具合は?」
「全然大丈夫、まだまだ行けます」
そこへ放送が入った。
「楽しんでるところ悪いが時間だ」
了解した事を示すサムズアップを二人とも教官に向けて行った。
「グレイスは怪我した左足持ってくれ、俺は体の方を支えるから」
「そこまでしなくても大丈夫ですよ、先輩」
「お前は甘い、一回目は重力の戻りが急に起こったように感じるから、慣れてないと怪我するんだよ、黙って捕まってろ」
「天にも昇った気分が地上に降りてきて急降下で具合悪くする奴が多いから、注意して」
徐々に重力が戻り、床付近に居た三人の足が地面に着いた。
無重力室から出るミヤケ。
感動の輪を周りに振りまきながら待機所に戻る。
待機所でもけろっとしているミヤケ、これは行ける奴かも知れないと思ったとき二回目の準備をするよう指示が来る。
次の学生を入れて、また準備オーケーのサムズアップをする。
今度の生徒は二分持たなかった。
「無重力下で吐くなよ、窒息するぞ」
ジーンが調整室に向かって下向きのサムズアップをした。
重力が戻され、通常の重力下に戻る二人。
待機所で吐き気を懸命に押さえていた。
三人やって、既に二人脱落。
「何人持つのかねぇ」
待機所に居る面々を見ながら、この先の事を考えて溜め息をついた。
この先何人耐えられるのか――
この体験で具合を悪くしたものは皆、こう感じたようである。
『僕らはみんな生きている』と。
さて、待機所に居たミヤケ君は、体験授業の後が全く頂けなかった。
無重力状態が悪かったのか、体験講習がいけなかったのか。
自分の足の怪我の事が、頭からスポーンと抜けていたのである。
健康状態の時と同様に足をついてしまい――
「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
これでまた、医務室超特急となった。
――アカデミーで一番ついてない男——に項目がまたひとつ追加された。
ちなみに今回の賭けは耐久者が五分の一を割ったためグレイスが勝ってコーヒーをおごってもらったようである。
掛け金を乗せると法律に抵触するためおごってもらう事になったとか。




