11.関係改善
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
十一 関係改善
学生による学生のための講義が功を奏したのか、分からない問題があれば聞きにくる生徒が大幅に増えた。
今日は、授業にあった法務に関しての質問のようだ。
仲間内で討論し、結局分からなかったため集団で聞きに来たようだ。
これに二回生の一般教養部門の法務についての小問題も質問に追加された。
この状況に対応したのは、二回生法務課程トップのグレイスだった。
なんせ今回は人数が多い。
対応も一回生と二回生とで別れてくるのである。
二回生からすれば、一回生の問題、しかもコフィン・エクスプレスで習う内容はほぼ常識になってしまったため、答えられるのであるのだが。
――一回生への対応
「先輩、ここの問題についてお聞きしたいのですが……」
とくれば、
「法学の問題三について疑問のある学生は注目!」
といってホワイトボードを利用し解説を進めて行くのだが……
――二回生プランキッシュ・ゲリラチーム員の場合……恐る恐る聞き出す。
「グレイス、この五番の問題なのだが……二十八条抵触か、二十八条補足一抵触か?」
――スパーン!
これは見事に『ハリセン』が飛んで来る。新しい兵器登場だ。
グレイスはチームメイトには容赦がない。
「これの何処が不明だ?」
と、腹の底から響く声を出し、チームメイトの引きつり笑いを誘う。
「この問題の場合、質問内容のキーワードを見つける! この場合『航法上の』がキーワード。とすれば自ずと答えが出て来ると思うけど……」
「二十八条補足一抵触」
「正解」
「しっかし、おまえその『ハリセン』いつ用意したよ、痛てーのなんのって、一瞬火花散ったぜ」
「一瞬タダで花火が見れたんだ、良かったじゃない」
「良くない!」
この対応を間近で見た一回生は呆然。
「一回生はまだお試し期間中だから、あそこまで強烈な事はしないよ」
そう一回生に触れてまわったのは、同じく呆然としたライトニング・ブルーの面々だった。
その後、この『ハリセン』はプランキッシュ・ゲリラの主要道具となって行く。
一回生の医療教科、蘇生術の授業では、カイルがライトニング・ブルーのケンと一緒に借り出された。
後輩の授業に講師として借り出されるのは光栄だが、自分の授業がつぶれる事は納得がいかない。
カイルはグレイスに『ハリセン』を借りに来ていた。
「まさか。一回生に使う気じゃないでしょうね〜」
「本気で使うかよ、脅しだ脅し」
「脅しで勉強教えられても覚えるかな〜」
「お前、俺たちに使っているじゃないか」
「貴方達にやるのは脅しじゃなく本気だもの。なんでこんな問題で引っかかるかな〜と。愛情込めた一発です!」
「強烈な愛情だぜ、全く」
カイルもハリセンをお見舞いされた一人である。
「講師として引っ張られるなら、その間の授業は出席扱いになるんでしょ?」
「確かにそうだが、俺は授業の方に出たいんだよ」
「何の授業」
「分子生物学」
「あらま、残念」
「今日の分、自学だぜ。ライトニング・ブルーのケンも一緒に取る予定だったから二人で自学になるな」
「やりがいあるじゃない」
「そう思うか?」
「医務課程学年首席と次席、どっちが物覚えがいいか確かめられるでしょ」
「面白がってんじゃねーよ」
「私は他人だもの、面白がってみる権利があるのよね」
「お前やっぱり法務課程学生だぜ、口が強いのなんの……」
「『ハリセン』お見舞いされたい? カイル君」
この言葉を聞いて、カイルがフーッと溜め息をついたとき——
「じゃあ、これに名前書いて」
「?」
差し出されたのは『ハリセン貸し出し一覧』だった。
「おまえ、これレンタルする気か?」
「そうよ、一応チーム内だけにするつもりだけど。貴方が第一号!」
一覧表を見て溜め息をつき、名前を記入するカイルだった。
さて。コフィン・エクスプレスの医療授業を覗いてみると……
ハリセンを縦に立て、その上に腕を組んで顎を乗せているカイルが居た。
恐る恐る一回生が近づいて来る。
「あの、僕たちのグループの手順の確認をお願いしたいのですが……」
「そうびくつくことはねーよ。一回生には使う気ないから」
といいつつ、ハリセンを持って呼ばれたグループに向かうカイル。
『何でオービット先輩よんでくるのよ〜』と言った声も聞かれたが無視してそのグループに行く。
「まずは気道確保……足りてねーよ、もっとぐいっと確保する!」
とか
「心肺蘇生になってない。心臓に力が届いてないぞ」
とか話し、ハリセンは飛ぶ事無く、ポインター代わりに利用された。
「腕を真っすぐのばし、体重をかけるようにグイッと押す。」
「押す位置の確認、右に寄り過ぎだ」
――結構良い講師をしているようである。
さて、授業が終わって自習時間になったとき、カイルはライトニング・ブルーのケンと一緒に黙々と分子生物学の自習をしていた。
講義に出ていた生徒の話を聞く限り、それほど教科書のページは進んでいなかったようだ。という事は、それだけ濃い内容の授業をしていたという訳で……。
ノートを借り、内容を写しながら無言で学習する二人。
カイルの頭の中には『医務課程学年首席と次席、どっちが物覚えがいいか確かめられるでしょ』というグレイスの言葉がまわっていた。
負けてなるものか!
対抗心を燃やし、がつがつと勉強を行うカイルだった。




