10.上級生達の憂鬱
※書籍化の予定でしたが、諸事情により未書籍化となりました※
※文体に齟齬が生じるため、掲載当初のまま再掲載します※
※今見ると文章がつたないですが、ご容赦ください※
十 上級生達の憂鬱
さて、講義を終えた面々、プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーは食堂近くの共有スペースで今回の講義について話していた。
「今回の入学者は『憧れ』組が多かったわね」
「いつまでも『憧れなんですぅ』だと続かないんだけどな」
「早く気持ちの切り替えが出来れば良いんだけど」
「下手すれば、おれらの期より合格者少なくなりそう」
「今日渡して書かせた『僕たちの未来』、あれ手元に戻ったらどんな反応するのかな?」
「そりゃ、俺たちと同じ反応するだろうよ」
去年、グレイス達も同じ体験をし、書かされたのである。
そして今は手元に大切に保存されている。
「そういや、サエキの『親父』、顔出さなかったな」
「バスジャック以来、音沙汰ないのが気になる」
そう言えば、と、それぞれが顔を見合わせる。
「来月の登山救護研修の準備で忙しいんじゃないかな」
「俺たちの地獄は来月か……」
「その時、順位入れ替えさせてもらうつもりだから」
これはライトニング・ブルーのロバートの言葉
「まさか。そんな事はさせませんよ」
「実地で順位入れ替わり! こんな感動的な事はないからな」
「ムリ! 首位譲る気無いもの、ごめんなさいね」
グレイス達が揃ってにっこり笑った。
ライトニング・ブルーの面々は引きつり笑いである。
プランキッシュ・ゲリラの連中が全員揃って笑うと鬼が出るとまで言われているのである。
「まず、現実に戻りましょうか。今回の新入生の管理監督については、二回生第二期入学組がその役目を負う。落第生が多ければ、それも我々の責任になる。励ましの言葉を時折賭けたりしているが、あまり活かされていない」
「さて、どうする?」
「質問するのが恥だと思うのか、なかなか質問が来ないよな」
「それは言えてるな、そっちにも質問なしか」
「俺たち、聞きにくいのかな」
「そんな感じは醸し出してないぞ、カイルを除いて」
「俺が何した?」
「解剖実験好きがばれているのよ、貴方の場合。そんな人には聞きにくいわねぇ」
「今年の一回生は、俺たちに比べて芯が無いような気がする」
「あっ、それは俺も感じてる」
「あっちへふらふら、こっちへふらふらって感じあるもんな」
「ウワサに惑わされているというか……」
「何かそこのところを『アカデミーで一番ついてない男』に救われてるような気がする」
「誰だよ、その『アカデミーで一番ついてない男』って」
ロバートが聞いて来た。
「居ただろ? 入寮日にフレッドと一緒にバスジャックにあって、初日に反省文書かされて、次の日朝骨折して新入生第一号の医務室行き! んでもって車椅子で新入生代表のくじ引いちゃった奴。鈍感なのか胆力なのか、のほほんとしながらもしっかり授業についていっているらしいよ」
「ぶっ! ミヤケのことか! アカデミーで一番ついてない男! そりゃ言えてるわ!」
げらげらと笑い出すライトニング・ブルーのメンバー達。
「他の一回生も同じだと生活しやすいのにね」
今日最後に集めたレポート用紙を見る面々。
「何か気負いすぎている感じするよな、文章見る限り」
「お固いよ。もっとフランクに行かないと、緊張の糸が切れてぷっつりってあるかもな」
「それが心配だろ。半月後の総合テストでぷっつりいったら最悪じゃん」
「とにかく、今回の一回生は気軽に相談を持ちかけることが出来ない、変に固くて、あっちへふらふら、こっちへふらふらタイプってことだ。行く方向間違えると最悪パターン超特急だな、うん」
「助けてあげたくても、こちらからのアプローチは禁止、だもんね。自分で気付くのを待つしかないって言うのも、上級生になってきついってわかったわ。去年の先輩達も歯がゆかったんでしょうね」
「そうだと思うな。アカデミーを出た人間は誰しも通る関門ってやつなんだろうな」
そこへ丁度、三回生が通りかかった。
「お前達、もしかして例の学生講義やって来たのか」
「そして憂鬱になってると」
「俺たちの場合はお前らが居たからそれほど大変じゃ無かったが」
「『憧れなんですぅ』で入学されると、方向転換が大変なんだよな」
「俺たちと同じ思いを味わったか」
「別世界の人間として、割り切るこった!」
先輩達から次々と声を掛けられるプランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバー。
「深く考えるなよ」
そう言い残して三回生は立ち去った。
「達観しているなぁ」
これは誰の言葉だったのか。
「まだまだ、人間出来てないなあ」
プランキッシュ・ゲリラとライトニング・ブルーのメンバーは、三回生の言葉を受け入れ、自分達の心のリフレッシュを行うため、自販機でコーヒーをおのおの買い、ゆっくりと飲み込んだ。




