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World of Simulation 〜折りたたみ傘一本で世界を取り戻す〜  作者: 横浜あおば


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42/53

第42話 収穫クエスト

第42話〜第45話には多少の百合要素が含まれます。ご了承ください。

 アカリさんはあの日を境に変わってしまった。

 昔はよく笑う無邪気な性格だったのに。

 もしもあの出来事が無かったら、今でもアカリさんは昔のままだったのかな?


「おい、ホノカ。ホノカ!」


 霧島きりしまホノカは、夙川しゅくがわアカリの声にビクッと体を震わせる。


「はいっ、何でしょうかっ?」

「全く、クエスト中なんだからボーッとしていたら危ないぞ? ヨシアキではあるまいし」

「ごっ、ごめんなさいっ……!」


 ウェルカミリア村で過ごすこと一週間。

 ホノカは村での生活にすっかりと慣れ、アルジオやルーラ、沢山の村人とも仲良くなっていた。


 今はアカリと一緒に山菜採りに向かう最中だ。

 いわゆる収穫クエストではあるが、決して油断は出来ない。

 この世界はゲームとして作られたのではなく、軍事用人工知能の実験のために作られた人工文明。ゲームバランスなんてほとんど考えられていないのだ。


「ここから山に入ればいいんだな?」

「そうですねっ」


 アカリの言葉に、こくりと頷くホノカ。

 茂みを掻き分け山の斜面を登る。


「突然モンスターが出てきたりしないですよねっ……?」


 ホノカが怯えた様子で呟くと、アカリは周囲を警戒しながら返す。


「まともな武器を持っているのはホノカなんだ。お前にしっかりしてもらわないと困る」

「もっ、もちろんアカリさんを置いて逃げるような真似はしませんからっ」


 アカリは山菜採り用の鎌しか持っていない。

 それに対して、ホノカの左腰には洞窟の中で手に入れた聖剣カーテナが納められている。

 いざという時に立ち向かわなければいけないのはホノカなのである。


「グルルルル……」


 その時、どこかから動物の唸り声が聞こえてきた。

 かなり近い。


「ホノカ、しゃがめ」


 アカリに肩を押され、茂みの中に身を隠す。

 葉っぱの隙間から眺めていると、クマのようなモンスターがのっそのっそと歩いてきた。

 まさか、匂いでバレてたりしませんよね……?

 心臓の鼓動が早まり、手に汗が滲む。


「大丈夫だ。これならやり過ごせる」


 アカリが囁く。

 クマは周囲を見回した後、右側へと歩き出した。

 良かった、戦闘にならなくて。

 ホノカはホッと息を吐き、気を緩める。

 だが、それがまずかった。


「はっ、はくしゅんっ!」


 ホノカは思わずくしゃみをしてしまった。

 クマがこちらの存在に気が付き、のっそのっそと近づいてくる。

 前足の鉤爪がきらりと光り、横薙ぎに振るわれる。


「ひっ! や、やめてくれ……!」


 アカリは真っ青な顔をして頭を抱えている。

 きっとあの出来事を思い出してしまったのだろう。


「アカリさん、立ってくださいっ」


 ホノカはアカリの腕を掴んで立ち上がり、茂みから飛び出す。

 クマはこちらを睨みつけ、グルルと唸っている。


「こうなったのは私のせいっ。私がやらないと、ですよねっ……!」


 ホノカは聖剣カーテナを引き抜き、両手で構える。

 クマとホノカが正面で対峙する。


「ホノカ、大丈夫か……?」

「任せてくださいっ」


 声を震わせるアカリに、ホノカは大きく頷いてみせる。

 この一週間、ホノカは宿屋の前の広場で毎朝剣を振り、技を極めていた。

 剣戟スキルもいくつか身につけ、レベルも三十を超えた。

 私は強くなった、だから大丈夫……。

 すーっと息を整え、剣を振り上げる。


「三連撃剣技、フラッシュリープっ!」


 聖剣カーテナが神々しく光り輝き、キュイーンと音を発する。

 それを聞いたホノカはクマに向かって跳躍し、思い切り剣を振り下ろす。

 剣はクマの胴体を縦に斬り裂くと、続けざまに斜め上、さらに真下へと斬り裂いた。


 三連撃剣技フラッシュリープはホノカが訓練で習得した剣戟スキルの一つで、鏡N字型の斬撃を一瞬で叩き込める強力な技だ。


「グルルル……」


 バタンとクマが倒れ、光の粒子をばら撒きながら消滅する。


【霧島ホノカのレベルが35に上昇しました】

【最大HPが52500に上昇しました】


「アカリさん、もう平気ですよっ」


 ホノカはそう声を掛けつつ、アカリの背中をさする。


「すまない。またあの記憶がフラッシュバックしてしまった……」

「謝ることじゃないですよっ。トラウマは誰にだってありますからっ」


 こんな薄っぺらい言葉でアカリの心が落ち着くなんて思っていない。

 アカリが負った心の傷は、想像するよりもきっと遥かに深いのだ。

 だけど、他にどんな言葉を掛ければいいのか、ホノカには分からなかった。

 どうしたら、アカリさんの力になってあげられるんでしょう?


「私はもう問題ない。ホノカ、心配かけて悪かった」

「じゃあ、行きましょうかっ」


 ホノカとアカリは再び斜面を登る。

 最初はかなりきつい急な勾配だったが、ここまで来ると多少は緩やかになっていた。山頂まであと少し。


「確か山菜は泉の近くに自生しているんだよな?」


 アカリの問いかけに、ホノカは首を縦に振る。


「この山のてっぺんには綺麗な泉があって、その周りに山菜が生えていると、ルーラさんから聞きましたっ」

「ということは、そろそろ泉が見えてくる頃だな」

「ですねっ」


 まもなく、木々の向こうに日光が燦々と差し込んでいる場所が見えた。

 歩いている地面も平らになる。


「あそこか」

「やっと着きましたっ」


 アカリとホノカはその場所まで小走りで向かう。

 するとそこには。


「おおっ」

「うわぁっ……」


 水底の小石まで鮮明に見えるほどの透き通った泉と、その周りに若緑色の植物が広がっていた。


「すごいっ、すごいですよアカリさんっ!」


 まるで絵画のような美しい光景に、興奮を抑えきれないホノカ。


「ああ、すごいな……」


 アカリは目に焼き付けるように、静かにその光景を眺めている。


「こんなに綺麗な場所だと、山菜採るのちょっと躊躇しちゃいますねっ」

「そうだな。必要最低限の量だけ頂くとしよう」


 アカリはルーラから借りた鎌をストレージから取り出し、早速山菜採りを始めた。

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