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World of Simulation 〜折りたたみ傘一本で世界を取り戻す〜  作者: 横浜あおば


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第41話 始まりの朝

「夜中にそんなことがあったのかよ!? 全然気付かなかったぜ……」


 翌朝、ヨシアキは俺たちの話を聞いて大声を上げた。


「あれだけ騒がしかったのに目も覚めなかったとはな」

「だってよぉ、疲れてたんだからしょうがねぇだろ?」


 俺が怖い思いをしていた時も、ヨシアキは夢の中だったってことか。

 呆れて大きなため息を吐く。


「入谷さん。そんな隙だらけだと本当に死んじゃいますよ? HPがゼロになることの意味分かってますか?」


 ミサキがヨシアキに詰め寄る。


「分かってる分かってる。この先は気を付けるから……」


 ヨシアキは頭を掻きながら反省を述べる。


「ヨシアキさん、絶対分かってませんよっ……」

「口だけだろうな」


 ホノカとアカリは小声でそんなやり取りを交わした。


「で、モクスターがこの国の王ってのはどういうことだ?」


 ヨシアキの問いかけに、俺たちは昨晩の出来事を全て説明する。


「……なるほどなぁ。自分で名乗ったってんなら嘘じゃねぇんだよな」

「多分。ここが仮想世界であることも、俺たちが人工知能であることも知っていたみたいだし、間違いないはずだ」


 俺が答えると、レナが口を開く。


「その話、アルジオとルーラには言わない方がいいわ」

「どうしてですか?」


 首を傾げるカナミ。


「だってそうでしょう? ここが仮想世界で、王が軍事用AIだなんて聞いた日には、ショックで立ち直れなくなるわよ」


 確かに、この世界が仮想世界だと知った時は俺ですらそこそこの衝撃を受けたのだ。その上支配者が軍事作戦指揮特化型人工知能とあらば、正気を保ってはいられないだろう。


「そうだな。昨日も俺たちのその話は聞かれてないし、このまま隠し通そう」


 俺が言うと、みんながこくりと首を縦に振った。




 朝食はルーラお手製のサンドイッチだった。

 食パンにハムとレタス、トマトが挟まっただけの至ってシンプルなサンドイッチだが、これがまた美味かった。

 これはカナミといい勝負だな。

 などと我が妹の味と比べつつ、それをささっと食べ終える。


「準備運動を兼ねてちょっと散歩してくるよ。隣の村まで結構距離があるみたいだからな」


 俺はみんなに告げて、宿屋を出る。

 眩しい朝日と清々しい空気。東京のじめっとした暑さとはえらい違いである。


「ん〜っ!」


 俺は大きく伸びをしてから、広場を見回す。

 さすが農村といったところか。朝早くから人出が多い。

 その時、後ろから声を掛けられた。


「よっ、イキリ傘太郎さん」


 どこかで聞いた女性の声。

 いや、馴れ馴れしくこの呼び方をしてくる女性は一人しかいない。

 振り向くと、そこにいたのは深緑色の丈の長いフード付きマントを被った小柄な銀髪少女。


「お前、ルイルイだよな……?」


 現地の人っぽい服装に一瞬目を疑ったが、彼女は悪戯な笑みを浮かべながらくるっとターンした。


「へへっ。似合ってるだろ?」

「でも、何でルイルイがここにいるんだ? お前も歩いてきたのか?」


 問いかけると、ルイルイはフードを深く被り直して返す。


「そこは想像に任せるよ」

「いや、それ以外にないだろ……」


 ここに来るには荒野を歩き、森を抜け、洞窟を通る以外に方法は無いと思われる。ルイルイはなぜこのタイミングで意味深なことを言ったのだろうか。

 怪しんでくれと言わんばかりの行動が逆に怪しいんだよな……。


「そんなことよりさ。アンタ、王と戦うつもりか?」


 突然ルイルイがそんな言葉を口にする。

 どこでその情報を?

 俺が口を開くより早く、ルイルイは言葉を続ける。


「モクスター卿は無敵だ。いくらアンタでも敵う相手じゃない。それでも戦うのか?」


 こいつ、何をどこまで知ってるんだ?

 怪しいというより最早恐怖である。


「……ああ、戦うよ。戦わないと、ワールドリゲインタワーには行けないんだろ?」

「全ての道は王都に通ず。ただそれは、どこへ行くにも王都を通る必要があるってことだ」

「だったら、戦うしかないってことだな。俺は世界を取り戻し、ミサキを現実世界に返さないといけない」


 そう答えると、ルイルイは表情を崩しへへっと笑った。


「それでこそイキリ傘太郎だな」


 今の感じ、ちょっとイラっとする。


「何だよ。馬鹿にしてるのか?」

「バカになんてしてないさ」


 ルイルイは慌ててかぶりを振る。


「アタシは戦闘向きじゃないから、大人しく見守ることにするよ。頑張れよ、ユウト」


 肩をぽんぽんと叩かれる。

 彼女のいきなりの行動に俺は少しドキッとしてしまった。

 そんなこと気にも留めない様子で、ルイルイは小声で囁く。


「あと、アタシがフレンド欄から消えてたら、その時は死んだと思ってくれ」

「何でそんなこと……」


 俺はルイルイに「何でそんなことを言うんだよ?」と声を掛けたかったが、彼女はすでに背を向け、どこかへと歩き始めていた。


「待ってくれよルイルイ!」


 咄嗟に呼びかけると、ルイルイは立ち止まって振り返る。


「どこに行くんだよ? 行くあてはあるのか?」

「……ユウト、ミサキのことよろしく頼むな」


 しかしルイルイは質問に答えることなく、人混みに紛れてしまった。

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