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都市と貧しい霊能力者

1時間はかかったかもしれない。

 朝起きてすぐに、都市へ向かった。


 貧民街とはあらゆる面で比べようもない程のそこには、悪魔の襲撃に備えた霊能者と兵士、その家族といつかの時代に栄えた権力者(貴族)だけが暮らしている。


 俺は多少の人だかりが出来ている正門を横目に、真っ直ぐ裏門へ向かった。


 コンコンコンッ と三回ノックする。


「カイル、開けてくれ」


 正門と違い、裏門の門番は曜日制になっている。今日は月曜日、門番はカイルだ。


 ガチャッ と鈍い音で戸が開く。


「また来たんですか。」


 この背の高い細身の男こそ我が後輩、カイル。


「すまんな、正門から入るわけには」


 ほどほどにしてくれよ といった顔をするが、口には出さない。カイルは出来る男である。


 さて、わざわざ毎週何のために来ているかと言うと、もっぱら情報集めのために他ならない。朝の酒場は情報通が多い。


「いらっしゃい。あら、また来たのね。」


 毎週来ている訳だから、覚えられている。


 因みに店主には金髪美女という言葉がよく似合う。当人は薔薇が好きだそうだ。トゲのある。


「たまには飲んで行きなさいよ。」


 上目遣いで告げられるが、金が無いので仕方ない。月曜日の朝に都市の酒場に来るような客は、決まって情報の売買をしに来ていることを店主は知っているし、店主も情報を小耳に挟むことで何かしら利益の出せる立場の人間だそうだ。


 俺が辺りを見渡して適当な席に座ると、中年の男が近付いてきた。


「買うか、売るか。どっちだ」


 毎週聞いてくる人は違うのに、どうしてこうも皆ぶっきらぼうなのか。


「金銭が無い、交換で頼む。」


 その一言で男は呆れた、といった顔で立ち去ろうとする。


「個人霊能力者だ。上位の霊と契約している。」


 霊能力者は都市に管理されて当然であり、個人の、しかも契約済みともなると俺くらいだろう。


 さっと振り返り、男は話を続ける。


「失礼だったな。何を出せる?」


「昨日の朝、貧民街で巨体の赤い悪魔を葬った。悪魔についての情報をくれ」


 また男は落胆の顔を見せる。


「出現情報ならまだしも、それでは価値があるまい。」


「俺はハル。契約霊はキャシーだ」


 なるべく小声で、威圧的に。


 男は驚き、少し唸る。


「あんたが本物なら都市に出現する悪魔は貧民街のより小さいことは知っているな?」


 勿論だとも。頷く。


「都市内の悪魔で喋る種類は出たことが無いらしい。」


 貧民街に出て喋る奴がいるとは思っていたが、都市内のは全部喋れないのか。


「十分だ。助かった」


 男の顔は苦虫を頬張ったかの様だ。


「恨むなよ。報告はさせてもらうぞ」


 都市に俺がいたという事をだろうか。上の人間には知れ渡っていそうだが


「構わない」


 正直、キャシーに力を借りればここにいる全員から欲しいだけのことは聞けるだろう。それをしないのは、キャシーに聞かれるとまずいからだ。



 都市と言ってもここは下町だが、ほんの少し工面した金で食料を調達して、帰路に着く。


 と、日も暮れ始めた頃に道端を紫の小さい悪魔が横たわっていた。人間より少し大きい。口元に血が、足元に服が落ちている。


「人間食って呑気して寝てやがる」


 食物連鎖の頂点に立ったつもりなのだろうか。フツフツと怒りが芽生える。


「悪魔対処法に基づき、霊能を行使する。」


 キャシーが少しいつもと違う登場をする。


「こんばんはって時間かな?よく寝たよ〜。」



「今省略した!?省略したよね??そうかそうかー!ついにハルもそこまで来たか〜」


 ムカつく。というか、色々適当が過ぎないだろうか、この上位霊。


 白い霊体をうんうん、といった感じで震わせ笑ったあと、ん?と顔を前に向ける。


「寝てるの?こいつ(この悪魔)。これまた珍しいね。」


 言われてみれば、悪魔の睡眠を見るのは初めてだ。悪魔にも睡眠が必要なのだろうか?


「関係ない。人間を食ってるんだ。やってくれ」


 …言われてみれば過去最高に気になる。この気を逃すのは惜しいかもしれない。


「嫌だね。というか、今殺したくないって思ったでしょ?」


 まさに 筒抜け だ。渋々、頷く。


 キャシーは詠唱とも呼べない強引な魔法を唱えた。


「不敬な、(ひざまず)け。我を誰と心得る。『プレッシャーストレス』」


 怒っているのだろうか。よく分からない感情がキャシーから流れ込んでくる。怖い。



「起きないね。寝てるんじゃなさそうだよ?」


 でしょうね。今ので寝続けてるなら尊敬する。しかし、となると何故この悪魔は横たわっているのだろうという疑問は当然湧き上がる。


「…死なない程度に殴ってみようか?死んだら死んだでしょうがないよ」


 やっぱりこの霊、危険なんだなぁ。しみじみと、当たり前な事を思い出す。


 霊能力者の基本、霊は使い、信じるな。


 俺の中でキャシーの危険度が上がっていくのは気にも留まらないのか、気づいていないのか。すぐに詠唱する。


「風は大荒れ、木花は踊る。(はた)け、(たた)け、『ウィンドブレッド ランダムコンボ』!」


 ノリノリの詠唱とともに、キャシーを空気の弾丸が囲む。数秒後、乱射が始まった。


 ゴッ ドゴッ ガガガッ バシュッ ズボッ




 生かしておくつもりあるのか?まあキャシーに生け捕りを頼むのも難しい事だろう。



 いや、ん?、何か変だぞ?キャシーも異変に気付いた様だ。皮膚から血を吹き出し、右腕が千切れそうなのは魔法によるものだが、なんというか…


「でかくなってないか?」


 少しずつだが確実に。その悪魔はいつも見かけるサイズまで大きくなっていった。

昔は都市にいたんですね。

なんで貧民街に下りたんでしょうね。

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