貧民街の霊能力者
初投稿なので、至らぬ点があればご指摘願います。
楽しんでいただければ光栄です
朝、騒音と爆音で目を覚ます。
「またこっちで暴れてんのか」
昨日作った寝室のドアを蹴っ飛ばし俺は外に出た。まだ薄明るい夜明けにも関わらず、その異形は辺りを破壊して回っていた。
「全く迷惑な連中だぜ。都市に入れないからって貧民街で暴れやがって」
部屋着も私服も無いので、着慣れたシワシワの服に寝癖そのままの黒髪が風になびいている。既に目前に迫っている赤く丸々とした図体の“それ”と対峙した。
「ゴ、ゴゴ ゴバエ オバエモ 」
巨大な体を震わせて声を出している。
「話がしたかったならそのデケェ体に生まれた事を恨むんだな」
手を構え、目を凝らし、相手と自分に思いを集中させる。
「悪魔対処法その一に基づき、人間を殺傷したこの赤き悪魔に霊能を行使する!」
悪魔対処法その一 人間を傷つけた悪魔を殺すために、国王が定めた最も最初の法律だ。
霧のような白い虚構が、俺の体から溢れ出る。
「おはよーハル。今日も元気にやってるかい?僕はもう眠くてしょうがないよ」
このだるそうな声の幽霊こそ、俺の契約霊である。
「しっかりしてくれ。敵の前だ」
宙を一回転して、キャシーは前を向き直った。
「おっ、珍しいねえ、ちゃんと喋ってるよ?この悪魔。殺しちゃっていいの?」
もちろん契約霊は悪魔対処法を知っている。
「分かりきったことを言うな。法律は法律だ。」
キャシーは呆れたように溜め息を吐く。
「かったいなぁハルは。もう貧民街の住人なんだから、法律なんてほっといて趣味に没頭すれば良いのに。」
そうはいいつつ、キャシーは詠唱を始めた。
「悪しき者よ、その身を僕が撃ち滅ぼす!!『ナイトメア』!」
魔法。一部の存在にのみ許された、理を超える力
因みに正しい詠唱は「悪しき者よ、その身を我が闇が滅ぼすであろう。『ナイトメアプレス』」である。
謎の黒いモヤは相手を包み込み、やがて無に収束した。
「ほんと堅い!カッチカチだね。詠唱なんて適当で良いのさ。そもそも正しい詠唱なんて無いんだしね」
実際悪魔は殺した訳だし文句はないが、真面目にやってほしいところである。
「で、悪魔の研究はどこまでいったの?」
すぐプライベートに入ってくる霊は、俺が見てきた中でキャシーだけだ。
「まぁそこそこだ」
「そこそこってどこだい?」
「そこそこはそこそこだ。」
「つれないなぁ」
いつものやりとりだ。飽きないやつだ
「霊よ、契約に従い我に戻り給え」
形式通りの詠唱で、キャシーを戻す。
今の俺には殆ど見えないが、超上位の幽霊にあたるこいつにとって、さぞ窮屈な体だろうと思う。
「詠唱しなくてもちゃんと戻るって言ってるのに」
珍しく戻ってから話しかけてきたので、少し驚いた。
「いつも悪いとは思ってるよ」
「悪いと思うならお詫びに研究の成果を教えてよ」
抜け目のないというか、ズルいやつである。
「お前が力を失ったら考えてやるよ」
今日は諦めたのだろう、返事はなかった。
都市にはたくさんの霊能者や、それに見合うだけの契約霊がいる。キャシーがこちらに来てくれたのは嬉しかったが、それでも研究内容を喋るわけにはいかない。
人間に霊が味方し、悪魔と敵対する
この対立を崩さないために。
露骨すぎる伏線。
あ、評価を。お時間あればお願いします。