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夢幻界物語  作者: はぎの
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第七話

窓から差し込む光でムクが朝になった事に気付くと、手術室から包帯にまかれている了と汗まみれのミヅクが現れた。ミヅクに結果を尋ねるムク。


「どうでしたか!?」


「了も葉月もう大丈夫治療は無事成功した」


 ミヅクはそう答え手術疲れで倒れる様に椅子に腰を下ろした。それを聞いてムクは安堵する。


「よかった。大丈夫?了」


「もごもご」


 了は包帯でミイラ状態になっており口を、もごもごとさせた。意味は平気である。ムクは了の顔の包帯部分だけ取ってあげて喋れるようにした。

 手術を終えたミヅクは汗を流しながら椅子に座りゆったりしている。そんな彼女に恐る恐る尋ねるムク。


「あの……」


「ああ、そうだったな」


 ハッとするミヅク。治療の事で頭がいっぱいだったのだ。彼女は汗を袖で拭きながら話す。


「えっと葉月のことだな。彼女が封魔の一人であることはしっているかな?」


「いいえ、霊力を駆使し戦っていたのと魔物への恨みで封魔の者だと考えましたが、やはりそうでしたか」


 了はそれを聞き納得した。そして一番聞きたいことをミヅクに尋ねた。


「彼女はなぜ魔物を強く恨んでいるんですか、やはり封魔にいたことと関係が?」


「ああ…… 葉月は家族を魔物に殺されて封魔に入ったんだ」


 それを聞いた二人は驚いた。ミヅクは話を続ける。


「私もその時の事は詳しく知らないが昔、葉月が家に帰ると家族が皆殺しになっていた」


 葉月の過去がミヅクの口から語られる。


「犯人を村人総出で探したがわからなかった。村人はもしや魔物の仕業と考え封魔に調査を依頼した。すると犯人は魔物だとわかり、退治された」


「そんな……」


 葉月の家族が妖怪に殺されたことに、ムクは驚きと悲しみで動揺した。


 「独り生き残った葉月は家族が妖怪に殺されたと知ると、魔物を退治する封魔に入りたいと封魔の者に願い出た。あ、話長くなるけどいいかな」


 このミヅクの言葉に、二人はお構いなくと頷いた。


「何故、封魔に入りたいのか聞くと妖怪のせいで自分みたいに家族を殺されて、辛い思いをする人を減らしたいからと言ったらしい。その後、封魔に入った葉月は凄かった。」


 過去を思い出し遠い目をしながら語るミヅク。


「霊力を得る厳しい訓練や戦いを何度も乗り越えた。ある日、私は彼女に会って、戦って恐怖はないのかと尋ねたことがある。すると彼女は私にこう言った」


 ミヅクは悲し気な顔を浮かべながら、過去の葉月の言葉を口に出す。


 「『怖いですけど、魔物を倒し魔物が居ない世界を作るのが今の私の幸せですから。もしそうなれば殺された家族や戦いの中で死んだ友人が報われると思います』てね」


 その言葉に了とムクは何も言えなくなった。

 外から話の内容とは正反対の誰かの元気な声が聞こえた。ミヅクの話は続く。


「だが、そうはならなかった。『大災害』が起きて人間と魔物が和解。それに伴って封魔は解散になった。多くの者は解散になることを喜んだ。戦う事が無くなるからな。しかし葉月は魔物と和解することを嫌がった。まだ妖怪が残っている、戦わなくてはならないとね」


 ムクは葉月の過去を聞いて悲しくなり顔ふせてしまう。顔をふせたのは自分が妖怪だからだ。そしてミヅクの話を黙って聞き続ける。


「私達は葉月が問題を起こさない様、説得を試み様とした。そんな私達に対して彼女はこう言ったんだ」


「……なんて言ったんですか?」


 了は尋ねミヅクは答える。


「『家族は妖怪に殺された。共に戦った友人の多くも魔物に殺された。それでも戦ったのは魔物がいない世界にするため。誰も魔物に傷つけられない世界を。なのに和解だなんて、殺された家族や友人は何なんだ。戦った私は何も得ていない』 そんな余りにも悲しいことを口にしたのさ」


 それを聞いて了とムクは、葉月にとって今の魔物と人が仲が良い世界はどう映るのだろうか。と思い悲しくなった。

 ミヅクは腕を組み天井を見上げながら、つぶやく。


 「そう言ったその後、しばらくの間行方を暗ましたが、街で暮らして呉服屋で働いてると知り、何とか生きてるとかわかり安心したが」


「それが葉月が魔物を恨む理由……」


「辛すぎるよ……」


 ミヅクの話を聞いて了とムクは何もかも失った葉月を思い、とても悲しくなった。葉月が魔物に恨みを持つのは当然のことだったのだ。


「しかし何故ムクを襲ったんだ?」


 了の疑問にミヅクは少し考え答える。


「おそらく、知らずのうちに魔物と友達になっていたことに対して、自分自身とムクちゃんに怒りを感じて凶行に至ったんだろう。今回の事は私が葉月にきつく言っておくよ。私も封魔の一員で一時期は葉月の上司でもあったからね」


 ミヅクが封魔だと分かり二人はギョッと驚き、 ムクは恐る恐るミヅクに尋ねる。


「あなたは葉月の様に魔物を恨んでいないんですか?」


「恨んでたよ。私も大切な人が殺され、憎しみで封魔に入った。しかしな、恨み辛みで戦ったり生きたりすることに嫌になって、全部忘れることにした。悲しいことだけどさ……」


 そう言うミヅクの顔は暗い。彼女も葉月動揺、辛い人生を歩んできたのだ。


「その後は戦いとは無縁の医療に携わる事にした。私の霊力や札で大体治せるしな」


 そう言い、笑うミヅク。


「お話しと治療をしてくださり、ありがとうございました」


 二人は感謝の言葉を述べ、懐から金を渡そうとするがミヅクに要らないと言われてしまった。


「今回のは封魔の事件でもあるから金はいいよ」


「そうですか、ありがとうございました」


 彼女たちはそう言い、頭を下げ診療所を後にした。外に出ると朝の人里の喧騒が彼女たちを迎えた。ムクが了に話かける。


「葉月は妖怪のせいで不幸になったんだね……」


「そうだな。葉月は魔物のせいで被害者になり、加害者にもなったんだ……」


―――


 後日、了は人の街にいた。葉月が退院したと聞いて様子を隠れて見に来たのだ。呉服屋の中で彼女は人に囲まれていた。周りの人間が心配そうに尋ねる。


「葉月ちゃん仕事休んでどうしたの?」


「大丈夫です。少し怪我しちゃって、心配をかけてすみません」


 周りに笑顔で返す葉月。その笑顔には戦った時の怒りや殺意は無かった。


「まるで別人だな……」


 了はその笑顔を見て、あれが本来の葉月だとわかり、いつか妖怪とも仲良くしてほしいと願って、街を後にした。


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