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夢幻界物語  作者: はぎの
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第六話

攻撃を避けれたものの了の心中は穏やかでなかった。


 (鉄を斬ることができるのか!?)


 了は相手がただ者でない事に気づき、自分の死を覚悟した葉月は了がエルカードを持っていることに驚いていた。


「エルカードとは珍しいものを持っているな、だが大したことはない。そのまま死ねッ」


 そう告げ再び攻撃を仕掛ける。刀の速度は先ほどより上がっていた。了はなんとか反撃を試みるが避けるのに手いっぱいだった。手ごわい相手に一度ムクを連れ逃げる事を考えた。しかし葉月は了が逃げる事を覚り、防ごうとする。


「逃がすものかッ」


 叫び、懐から札を取り出し空に投げた。札は勢いよく弾け、辺りを囲う様に辺りに張り付いた。札は霊力を帯び、結界が構築された。それを見て、了は「クソっ!」と悪態をつく。結界の力で妖怪であるムクを連れて逃げる事が出来なくなったからだ。了の態度に葉月は微笑む。


「急ごしらえの結界ゆえにそこの弱小妖怪しか留める事ができんが、お前は見捨てて逃げることはしないだろう」


 葉月の言葉に了は歯噛みする。予想以上に彼女は強かったのだ。

 それと了は焦っていた。葉月の戦い方は封魔の戦い方であり、霊力を帯びた刀相手では人外の力を得る<オーガ><グリフォン><ドラゴン>のカ-ドは弱点になるため、うかつに使えない。


 (隙を作らなければッ!!)


 了のそんな考えとは裏腹に、葉月の攻撃は鋭く避けるのも難しくなっていた。


「死ねッ」


「!?」


 葉月はさらに短刀を取り出して投げた。了は突如の行動にムクに危害が加えられたと勘違いし、一瞬視線をムクに移してしまう。ムクは無事であったが、彼女は隙を作ってしまった。

 その隙を見逃さない葉月。刀は了の腹部を斬った。地面に血が飛び散る。了は痛みに耐え腹部を抑えるもバランスが崩し、倒れてしまう。


「ギャウウウ」


「これで終わりだな」


 葉月は了に向かって刀を叩き付け様とした。絶体絶命の瞬間。


「危ないッ!」


「グウ!?」


 だがその時、ムクが石を拾い葉月に向かって勢いよく投げた。葉月は石を顔に喰らい態勢が崩れて隙を作ってしまった。

 その隙を見逃さない了。すかさずカードを発動。

 <グリフォン>

 了に翼が出現。突風を起こして葉月を吹き飛ばす。しかし葉月はとっさに片翼に一閃を放った。それでも風には耐えられず吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「なんとか、なんとかぶっ飛ばしたぜ……」


 了は人外に変身したことにより、腹部の傷から出血は収まったが疲労は途轍もなかった。ムクは体を動かし頭をつけ了を心配した。


「大丈夫!?」


「なんとかね。ムク、まだ戦いは終わってない。離れているんだ」


「え……」


 了の言葉に彼女は吹き飛ばされた葉月を見る。そして恐怖した。


 口から大量の血を流し、片腕は曲がり折れているのにも関わらず、立っていた。了の攻撃は翼に攻撃を受けたことで、僅かに弱まっていたのだ。

 しかしそれでもただの人ならば立つことは出来ない傷のはずであった。ムクは了の言う通り、近くの木々に身を隠した。

 大怪我を負う葉月は殺気を放ち、刀を構えた。おそらくこれが最後の攻撃だろう。彼女は折れた腕で札を刀に滑らせた。すると刀に電流が走った。


「やばいッ!!」


 それに危機を感じた了だが、痛みによって体が思うように動かない。


「了!!」


 そんな了をムクが助けようとするが、


「動くな!!」


「ッ!!」


 葉月が放った殺気で身動きが取れなかった。刀の電流は強さが増していた。音は激しく光は眩しいと感じる程に。もはや電流は雷になっていた。


「ウオオオオオオ!!」


 葉月は了に向かって地面を斬りつけながら駆けた。さらに雷は威力を増していく。雷鳴が(とどろき)、辺りから音を奪っていく。それを見て了は力を解除し、立ち尽くした。


「……」


「覚悟は決めたなァ!」


 了に刀が向かいつつある時には、雷の光と音が辺りを支配しつつあった。眩しさからムクは了の様子が良く窺えない。雷を纏った刀が了の命を狙える距離に迫る。しかし了は逃げようとしない。


「死ねええええ」


 刀は振り落とされた瞬間、雷の光と音が全てを支配した。


 そしてゆっくりと雷の光と音は収まっていく。ムクは目は眩しさから解放され徐々に辺りが見えるようになった。そして了の無事を確認するが


「あ…… あ……」 


 目に映る光景に絶望した。葉月の目の前には、真っ二つにされた焼死体があった。葉月は勝ち誇り次の獲物であるムクに刀を向けた。血塗られた刀を見てムクは死の覚悟した。その瞬間、


 <オーガ>


 エルカードの音声が鳴り響き、場を支配した。

「何ィ!?」


 葉月は驚いて音がした方に振り向くと、木の陰から鬼の力を得た了が飛び出してきた。危険を感じとっさに防御しようとする葉月。


「遅い!!」


 しかし間に合わず了の拳は葉月の腹をとらえた。拳は葉月の腹部に沈み、体をくの字に曲げた。


「グアオガッ!」


 彼女は殴り飛ばされ、何度も地面に叩きつけられて、ようやく動きを止めた。


「ふう、危なかったぜ……」


 地に倒れた葉月を見て、了はため息を吐き力を解除した。ムクは了が生きていることに驚いた。


「生き、生き、なんで生きているの!?」


「?」


 しかし了には何に驚いているか伝わらなかった。彼女は焼死体を指さし驚きを伝えようとする。


「だってそこに死体が ……無い!?」


 先ほどあった焼死体は何処にも無く消えていた。それを見て頭にたくさんの疑問符が浮かび上がるムク。了はムクが何が言いたいのかに気付いた。


「私は葉月の攻撃を受ける瞬間にこのカードを発動させた」


 その言葉とともにムクに<フェイク>と書かれたエルカードを見せた。


「これは分身を作り出すカードでな、奴の雷の光で辺りが真っ白になったときに入れ替わり、分身に刀を受けさせ、私は木のかげに隠れた。タイミングがずれたらやばかったな」


 了の話を聞いて、彼女はあることに気がついた。


「エルカードを使うと音が鳴るよね、あれはどうしたの?」


「それは雷の音で消えた」


 そう言われるとムクは、攻撃の瞬間は雷の音で何も聞こえなかった事を思い出した。


「まあ、勝てた要因は、奴が最後の最後で油断したのが大きいかな」


 了は倒れた葉月に視線を移し、ムクに尋ねる。


「こいつがなぜムクを襲うほどの憎しみを持っていたのか知りたいから 診療所に連れて行きたいんだがいいかな?」


 そう尋ねる了にムクはコクリと頷いた。


「私も葉月がどうしてここまで恨んでるのか知りたいし、何よりも友達だからね、助けたいよ」


「そうか…… こいつと私の怪我もあるし急ごう」


「葉月は私が背負うよ」


 そう言い地に横たわる葉月に駆け寄った。


―――



 時刻は夜。二人は人の街にある診療所にやってきた。診療所には立て看板に治療承っていますと書かれていた。了は扉を叩き声を上げる。


「夜分遅くにすみません急患なんです。ミヅクさんはいらっしゃいませんか」


 呼ぶと建物の明かりはつけられ、タッタッタッと診療所の中から足音が聞こえてきた。


「はい? どなたですか?」


 扉から現れたのは、白衣を纏った少し筋肉質な赤髪の女性、ミヅクが現れた。


「この人たちを見てほしいんです」


 二人は背負っている葉月を診せる。葉月の顔を見て、驚きの声を上げるミヅク。


「葉月じゃあないか、しかもこの怪我」


「お知り合いですか!実はこんな事があって……」


 今回の事件を簡単に述べた。話を聞いてミズクは俯く。


「なるほどなそんなことが……」


「お知り合いなんですね」


 了の言葉に頷き返すミヅク。それを知りムクは問いかける。


「なら聞きたいことがあります。なぜ葉月はここまで妖怪を恨んでいるんですか!」


 わけが聞きたくやや声を荒げてしまった。ミヅクは少しの沈黙の後、葉月と了の治療が完了したら話すと言い、看護師を呼んで葉月と了を手術室に連れて行かせた。


「では少し待っててくれ」


 ミヅクはそう言い、手術室に入っていった。

 しばらく、待合室で待つことになったムク。待合室に目をやると、棚に塗り薬が置いてあり、了から貰った塗り薬はここの物だとわかった。また医療施設のどくとくな匂いが鼻に漂う。


「…………」


 残されたムクは今日あったことを心の中で整理するため、待つ(あいだ)ずっと座り込み黙ったままだった。 やがて夜が明け朝になり、窓から光が差し込む。

  窓から差し込む光でムクが朝になった事に気付くと、手術室から包帯にまかれている了と汗まみれのミヅクが現れた。ムクはミヅクに結果を尋ねる

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