2時間
毎日、父親がお菓子を買ってくる。
妹と僕、2人分。
父は無口だ。あまり喋らない。
でも、毎日お菓子を買ってくる。
買ってくるお菓子は様々だ。
ポテトチップス、ビスケット、チョコレート、毎日違う。
新商品が出ると必ずそれを買ってくる。
その時は、一口だけ食べる。
そうして毎回必ず「うん」と言う。
たまに、僕や妹が嫌いな味だったりする。
感想は聞かれない。食べている間も父は無口だ。
でもなぜか、それを二度とは買ってこない。
中学二年から、高校を卒業して大学に通う為に一人暮らしを始めるまで、ずっと続いた。
一人暮らしをするアパートから実家までは、夜行バスでおおよそ13時間、電車でも6時間かかる。飛行機で2時間、でも実家から空港まで車で2時間かかる。
最後の日、その日も父はお菓子を買ってきていた。
僕と妹、2人分。
空港に着くまでの2時間、無言だった。
鞄の中にしまった菓子の袋が、車の振動に合わせて音を立てる。
途中で缶コーヒーを買ってくれた。僕はホットのカフェオレ。父はホットのブラック。
相変わらず無言のまま、エンジンの振動を感じていた。
空港に着いて、車を降りる。
「行ってきます」
あまり滑らかに言葉が出ていかなかった。
父も、少しぎこちなく
「がんばってな」
と言った。
僕は「うん」と答えた。
とても滑らかに口から出た、その短い音は、父のそれとよく似ていた。