最終話 そしていつも通り
一時、執筆中の手が止まり、紙から離れる。その一連の動作が今までは空想なのだと、ここは現実だと思い出す。
「うーん……。ここからは、どう話を進めようかなあ? きちんとプロット作っておけば良かったなあ」
ボールペンを机の上に置き、独り言を言うのは夫だった。どうやら夫は自室にこもり、娘に聞かせる新しい昔話を考えていたらしい。
そこに妻が扉を開け、部屋に入る。
「あなた、お茶が入ったわよ。」
「うん、ありがとう。」
深々と椅子に腰掛けながら、妻にお礼を言う夫。
妻は夫の側まで歩いて行き、机の上にお茶を置きながら夫に声をかける。
「少し休んだら? あなた」
「そうだね。でも大丈夫だよ、もう少しで書き終わるから」
妻の気遣いに心暖まる夫。しかし、妻は夫の肩に右手をかけるとドスのきいた声で話かける。
「ふーん……? 書き終わるって、何が?」
「え……?」
夫の肩にかけられた右手は鷲掴み状態になり、じわりじわりと夫の肩に妻の指がめり込んでいく。
「ねえ……、肩に爪が食い込んできて痛いんだけど……」
「あなた……また馬鹿な昔話を考えてたんだ……」
妻の顔からは少しずつ笑みは消え、机の上に置かれていた昔話は、妻の左手により回収されていた。
「あの……、それ……」
「娘に変な事を吹き込むなって……」
おどおどする夫。妻はそんな夫の前で昔話を両手で掴むと……。
「何度言ったら解るのよーーーー!!!!」
有らん限りの力で細切れに破り捨てた。
「あーーーー!!!! なんて事をするんだ!! ここからが面白くなる所なのに!!」
大声を出す夫。だが妻はしっかりと夫を叱りつける。
「何が面白くなるよ!! あれだけ娘に変な話を聞かせるなって言ってるでしょ!? どうしていつもそうなの!?」
その妻の言葉を聞いた夫は至極当然とばかりに、こう答えた。
「そこに、昔話があるから」
「馬鹿じゃないの!?」
即答する妻。しかし、夫は今回の話は自分の中ではかなりの自信作だったのか、珍しく妻に言葉を返す。
「いや、違うんだよ。この話に出てくる『猫型機械人形』は本当は三つ編みで、眼鏡っ娘でボクっ子なんだ!」
「何の話をしているのよ!? だいたい、三つ編み、眼鏡のボクっ子って、属性多過ぎてキャラ渋滞起こしてるじゃないよ!!」
「属性は知ってるんだ」
「うるさい!!」
反省の色を見せない夫。
そして、妻は一言。
「あなたが思っているほど、周りは面白いとは思って無いからね………?」
「いやいや、『せわしない子供』も本当はね……」
「黙れー!!」
このあと、ふたりの言い争いはしばらく続いた。
これにて『サイコパスな未来昔話』は、完結となります。
この話を読んでお楽しみ頂けたら、幸いです。
これからも面白い話を書けるように精進いたしますので、
よろしくお願いします。




