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蜃気楼  作者: 夏雪
1/2

平凡




わかってはいた。

それでも僕は



下手な生き方をしてきた。








柔らかな日差し。温かい空気。動き出す生き物たち。世間一般ではとても気持ちの良いと言われるこの「春」という季節が、僕にとってはどうも落ち着かない。周りの揚々とした雰囲気を感じれば感じるほど、僕の気分はなぜか下がる。理由はわからない。中学に入学した頃からだろうか。変化の多いこの季節が僕は少々苦手らしい。大学二回生になった僕は、部活の合宿で海辺の田舎にいる。

「なぁ、心悟」

同期の野村が僕を呼ぶ。

「どした?」

「今年の新入生......大したことないな」

おい。まだ入学もしてない新入生の品定めか。早すぎるぞ野村くんよ。

僕の部活では、スポーツ推薦で入学する子たちが入学前のこの春合宿に参加するのが恒例となっている。ちなみに野村の言う「大したことない」は実力ではない。外見の話だ。最低な奴だ。

とはいえ、時々(ではないが)間抜けな発言をするこいつが僕は嫌いじゃない。そして正直、僕も野村と同感だ。

「まぁ、そうかもな」

あんたも最低。そんな声が聞こえて来そうだが、大学生なんてこんなもんだ。



その日の夜。新入生を連れてコンビニに行く。これも毎年恒例。

デザートと飲み物とを買って宿舎に戻る。が、出たよ。どうしても僕が理解できないアレ。

「誕生日!おめでとー!」

飛び散る生クリーム。漏れるため息。

僕はどうしてもこれが理解出来ない。顔面ケーキ。

何が嫌だというものではないが、自分は絶対にしたいともされたいとも思わない。何が楽しいのかわからない。新入生もいるのに......。

「ごめんな、ちょっとだけ待っててやって」

「大丈夫ですよ」

困った顔をした新入生たちに一応声だけかけておく。申し訳ないと心の底から思う。

その時だ。

「先輩は参加しないんですか?」

新入生の一人が突然口を開く。少し慌てる。

「ああいうの、苦手でさ」

「あぁ、それ、すごいわかります」

「ほんと?参加しなくて空気悪くなるのもほんとは嫌なんだけどね」

「それも同感です。頭固いってよく言われません?」

「しょっちゅう」

そんな他愛もない会話をしばらく続けているうちに、あちらの方も終わったようだ。



そして、ケーキだらけになった空き地を、ケーキをぶつけてぐちゃぐちゃにした張本人たちではなく、なぜか僕が掃除しながら、ふと思う。

そういえば、あの子、なんて名前だったっけ?ちょっと珍しい感じの......。

あり......

「有栖ってさ」

そう有栖。ん?

「どう言ったら良いかわかんないけど、なんか可愛いんだよな」

野村よ。朝の発言から何があった。

しかし、それも同感。それと、手伝ってくれてありがとう。

「それは俺もそう思う」

ただし、女の子としてではなく後輩として、だが。

「真面目で気がきいて、程よく明るくて」

うんうん。

「良い後輩」

少しの間と笑い声。結局似たような考えしかできないみたいだ。


この時はあんな風になるなんて思いもしなかったんだ。

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