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店主になる

薄暗い店内には漢方薬の様な、においが充満し壁際の棚一面に瓶詰めされた薬液の様なものが並んでいる


ここはなに屋さんなんだ?

店内をきょろきょろと見回しながら店の主人の声に振り返る「悪いが準備中だ、なんの用だい?」


あれ?何しにここに来たんだっけ??

カウンター越しに話しかける店主の、問いにあたふたとしていると


「あのなぁ坊主、冷やかしなら帰ってくれこっちは忙しいんだ」少し機嫌が悪そうに店主が口にする


あちゃ〜失敗した。何しに来たのか本に聞くの忘れてたわ、今本を開いて本に話しかけてたら怪しい人になっちゃうよ


どうしようか悩んでいると、「早く出てってくれ」店主は店の奥へと踵を返して行く


不意にベルトから本が落ちページがめくれ赤い文字が浮かび上がる

[この本をゴルカに見せる]


「すいません、これをちょっと見てください」

カウンターの上に本を広げて訝しげに覗き込む店主を眺めている


開いたページを眺めながら何やら頷いている店主

「だいぶ時間が掛かったな?まあいい、それじゃあ、後は任せたぞ。」俺の方を見ながら店主が口にする


え?後はって何を言っているの?

「え?どう言う事ですか??」

「ん?なんだ?何も聞いていないのか?」


「俺の代わりにこの店を継いでもらうんだ」

「え?店ですか?どうして??」


「俺は神様からの指示でこの店を守っていたんだ。ずっと代わりの人間をよこしてくれって言ってたんだよ。やっと送られて来たのがお前だな」


「お店なんて無理ですよ分かんないしやった事ないですもん。てか、神様を知ってるんですね!」

「ああ、三十年ほど前に無理やり此処に送られたのさやっと帰る事が出来る。ギルドの方には孫に店を継がせて田舎に引き込むと話しておくから後は任せた」


「ちょっと無理だって!何屋さんなんだよここは」

「いや、別に何屋さんとか無いけど。一応薬屋かな?まぁ一度も営業した事ないから大丈夫だ」

一体なんのための店なんだ


「今まで開けた事ないから大丈夫だ好きな事してたらいいぜ?」

「店番とかは?」


「クローズにしとけば大丈夫だ」


そんな言葉を残していそいそと店主は店を出て行く。まさか帰って来ないとはこの時考えてもいなかった


いくら待っても店主は帰って来ない。まさかこのまま放置なのか?一応本に尋ねてみると

【もう帰って来ません】


どうすんだよ!

とりあえず任された店の中を見て回る。入り口の看板のクローズを確認して扉に鍵をかける



店は八畳ほどの大きさで入り口の正面にカウンターがありその後ろには棚と空の瓶が並んでいる

カウンターの向こうには奥へと続く通路がある


店の奥には作業場があり大きな長テーブルと竃、流し台、秤や空の瓶が並んでいる


店内に戻る。左右の壁には天井まで届く棚があり瓶詰めされた薬品の様なものが並んでいる



時間だけは有り余るほどあるので一つずつ中身を確認していく。


慎重に一瓶ずつ本の前に置き中身の確認をする

【腐っている】【腐っている】【腐っている】

【腐っている】【腐っている】【腐っている】



永遠と腐っているの文字が浮き出てくる

あの親父は一体何をしていたんだ


棚に並んでいた瓶詰めの中身を店の奥にある流しに捨てて、流しに取り付けられた蛇口を捻る綺麗な水が蛇口から出てくる。


水道?本に尋ねると

俺がいた日本と変わりないほどの文明が魔法によってもたらされている。魔石によって水道はもちろんコンロもあるトイレも水洗と住みやすい環境は整っている。


先ずは店内の掃除だな、埃まみれの棚から床まで掃除をする


店内に置いてあった瓶の中身が全て腐っていたのには驚いた本当に商売なんかしてなかったんだな



掃除を始めて何日か経った頃やっと納得するほど綺麗になったそこで再び考える


「さてと、何をしようか?」時間は有り余っている。何もしなくても良いし何をしても良い腹が減ることがないのがこんなにも人の心を自由にするのか


取り敢えず集めた日追い草を使って何か作ってみようと思う。他に何も持っていないからな



本を開き日追い草を使ったレシピを尋ねる。

細かなレシピのツリーが何ページにも渡って浮き出てくる。随分ややこしいな?


ツリーの一番上はポーション(傷薬)から始まっている。日追い草をすり潰して絞るその汁を水に薄めた物がポーションになる


その下にハイポーション

ポーションに煮詰めた日追い草の汁を加える


ツリーを下に読んでいくと少しずつ難易度の高い薬が出来る様だが基本的に日追い草のみを原料としている


ツリーの一番最後には不老不死薬となっていてその手順は恐ろしく複雑で長い年月がかかるようだ


時間もあるし腐る程日追い草もあるから不老不死薬でも作ってみるか


この日から俺は外に出ることなく10年以上も薬作りを続けていく


眠る事なく食事の必要も無くただひたすら研究と実験を本を頼りに繰り返す不老不死薬までのツリーをようやく半分過ぎた頃少しの時間の経過が必要な過程があるので店の外へと出てみる


この街に来て10年以上引きこもりをしていたので何も知らない街を何もする当てなく歩いてみる


何もすることなく店に帰ってくる。よく考えたらお金を持っていない事に気付いた


なにかの使命のようにまた薬作りに戻るまだツリーは半分近く残っているここにたどり着くまでに色々な薬がそこらじゅうの瓶に詰められている


棚分けして瓶に詰めた薬をそれぞれの棚に並べながら薬作りに戻ると


鍵を掛け忘れた扉が開く[チリンチリン]

扉に付けられた鈴が鳴る店を譲り受けてはじめての経験に驚き「何の用ですか?」と、驚きながら入ってきた女性に声をかける



入って来た女性は

「すいません、ここは何屋さんですか?」

戸惑いながら口にする


「すいませんまだオープンしていないんです」

ぶっきらぼうに答えながら早く帰ってくれないかなと考える


「あ、すいませんまだオープンしていないんですね。いつオープンするんですか?」

「いや、決まっていません」


「え?」

「え??」


何言ってんだこの人みたいな目でこちらをみる女性、よくみると金髪に大きな胸を隠しきれない鎧を着込んだ美人さんだ


腰には大きなハンマーがぶら下げてある

そんな女性に見惚れていると


「この棚に並んでいるのはポーションですよね?」そんな事を聞いてくる。なぜ分かったのか?


「よくわかりましたね?」

「いつも使っている物なんで見たら分かりますよ」


「この隣の瓶に入っている薬は?ハ、ハイポーション?!」


「ええ、そうですよ。ちなみにその下の棚の左から強化薬になってます。筋力、魔力、走力、持久力。その下がマジックポーションです、その横はハイマジックポーション。え〜っとその横は」

「ちょっとまって!あなた有名な錬金術師なの?」「え?いや、違うけど」


「どうしてこんなに沢山の種類のポーションを揃えることが出来るのよ?ハイポーションや強化薬なんてその材料を集めるのは至難の技なのよ?」


ん?日追い草は草原に沢山生えていたけどもしかして超貴重な薬草だったのか?


「ハイポーションの材料はCランク以上の魔物の魔石が必要だし強化薬はその種類ごとの材料が違うから普通は一種類を専門的に販売するものなのよ!」


そう言えばツリーの注意書きに違うレシピも載っていた日追い草で作るやり方は一般的ではないのかもしれない。ややこしそうなので言わないでおく「たまたまかな?」


「何がたまたまなのよ!ここにあるポーション私が買うわ!」偉そうに宣言するが


「いや、売り物じゃないから」断る。なんだか、めんどくさい相手だからだ


「はぁ?あなたお店やってるんでしょ?看板出てたじゃない?!幾らなら売ってくれるのよ?」

本当にめんどくさい


「いや、俺は研究者であって商売人じゃ無いんだだから売ることは出来ない」絶対に断るつもりだが


「分かったわ、じゃあ私が研究に付き合ってあげる。ポーションの効果を私が調べてあげるわ?文句ないでしょ??」だめだ帰ってくれそうにない


「わかった何本かずつ持って行ってくれ」

出て行った後鍵をかけて知らん顔しよう


「ありがとう、効果を伝えに来るから鍵は開けておいてよ?扉くらいなら壊せるけど?」

腰に下げたハンマーを叩きながら笑顔で告げてくる


どこのガキ大将だ!

「私の名前はジュリアあなたは?」

「俺はシン」早く薬作りに戻りたい


「ありがとうシン必ず伝えに来るからよろしくね」それから一週間に一度は顔を見せて騒がしく薬の批評をするジュリア


そんなジュリアに少しずつ心を惹かれていく俺

いつのまにか尋ねてくるのが待ち遠しくなっていた



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