王都へ
神様にお礼を告げ、意識が遠のき再び意識が戻る硬い地面に横たわっているようだ
目を開けると真っ青な空といくつかの白い雲、草むらに寝転んでいる
体を起こし辺りを見渡してみる
辺り一面何もない草原が続いていた
あれ?都会に送ってくれる約束じゃなかったかな?
急に知らない人が現れたら問題になるか勝手に納得しながら、自分の身体を確認する。
傷ひとつなく、どこも痛い所もない。あの事故が無かったことになっているようだ。
あっ、そうか、生まれ変わって新しい人生って言ってたから、新しい身体なのかも
鏡が無いので分からないが手の甲を見ると少し若返っているみたいだ
服装は着ていた作業服では無くなっていた。
素材は分からないが、質素な白い布で作られた上下に革のベルトをつけベルトには本を挟む革が付いてある。
神様に貰ったあの赤い本が挟んである。
「さてと、生まれ変わったのは良いが、どこに行こうか?」見渡す限りの草原にそう呟く
いつまでも座って居ても仕方ないので立ち上がり
「道がわからないな」街道も無く草原が続いている
前世で何度も経験した、無知故の怖さからその場を動くことが出来ない。その時、神様に願った新しい人生の希望を思い出す。そうか、本で調べれば良いんだ
赤い豪華な革の本を手に取り本を開く
何も書いていないページに向かい「街はどっちに行けば良いのか?」呟いてみる。知らない人が見たらおかしな人だと思うだろう
何も書いていないページに、文字と絵が浮かび上がる。いくつかの街と距離、街の特徴が書かれていた。
その中の一つに目標を決める[ベリーベルド]
この国の王都であり最大の街。人口は約30万人
様々な種族が住み俺一人が紛れ込んでも問題にはならないだろう
街までは歩いて二日掛かる少し距離はあるが何もすることも無いので気にはならない。
本の示す方向に歩き出す、足元には見覚えの無い草がびっしりと群生している。
「この草は何という草?」気になる事が分かる喜びに意味のない事さえ尋ねていく。
【日追い草、薬草として使われる。様々なポーションの材料として使われる】
「薬草か、いざという時の為に回収したいけど荷物を運ぶ手段がないからな」
【腰に付いているポーチは収納量無限の魔法のポーチ】俺の呟きに本が応えるように文字を浮かび上がらせる
「魔法のポーチ?」ベルトに下がる小汚い革のポーチを広げてみる。何故か内側が分からない?
魔法の効果なのだろう
周りに群生しているレンゲに似た草花を丁寧に摘み取りポーチの中にしまっていく。工場で単純作業には慣れているので延々と摘み取る
どれくらいの時間ぎ過ぎたのか辺りは薄暗くなり始める。疲れる事もお腹が減る事もないので時間の把握が難しい
そろそろ街に向けて歩き出すか
群生していた日追い草を摘み取り尽くし本の示す方向を頼りに歩き出す
本は薄っすらと光り一本の矢印が進行方向を示している。指示に従いながら進むと不意に矢印が大きく動き進路を変更する
【魔物!音を抑えて歩け】
矢印の下に赤く光る文字が浮かび上がる
浮かび上がる文字を読み、少し緊張しながら辺りを伺い歩みを進める。先ほどまでの進路の先に象のような生き物のシルエットが浮かび上がっている。
少し腰を落としながら音に気をつけて出来るだけ足早にその場を立ち去る
辺りは完全に暗くなり月の明かりだけを頼りに歩いている。
その後も何度か進路変更を繰り返す、そこそこの数の魔物が存在しているみたいだ。
次第に夜が明け、少しづつ明るくなってくる。随分歩いたのだが疲れは感じられない
本に尋ねてみる「なぜ俺は疲れを感じないんだ?」
【転生により貴方の身体をハイヒューマンへと進化させたの】
「ハイヒューマン?」
【人間の進化系。超常者、仙人なんて呼ばれているの貴方の望んだ長寿と飢えない身体の条件にぴったりでしょ?】
仙人って霞を食べて生きるあれか
「ありがとう、助かるよ」食べ物の心配が無いのは最悪寝転んでいても暮らしていける。職を失う恐怖から解放されるという事だ
【どういたしまして】
本に示されている距離の半分を過ぎた頃
【魔物注意!しゃがんで何があっても動かない】
赤く点滅した文字が現れる
すぐに腰を下ろしその場にしゃがむ
すると100メートルほど先に、大きな狼のような魔物が現れ辺りを伺っている
匂いでバレるんじゃ無いのかと心臓が飛び出さんばかりに緊張する
狼の魔物はこちらにゆっくりと向かってくる、不意に何かに気付いたように走り出す。
絶対絶命の危機に腰を抜かし、逃げる事も出来ずに座り込む俺の僅かに横を駆け抜けて、狼は俺の後ろを走りながら逃げていく鹿の様な生き物を追いかけていく。
大きく安堵のため息を吐く。腰が抜けて動く事が出来ない。情けないかもしれないが底辺ながら平凡に生きてきた人間にはきつい
少し気持ちが落ち着くまでその場でしゃがみ込みまたゆっくりと歩き出す
この本のお陰で何度も危機を回避出来ている神様に感謝する
幾度と無く進路変更を繰り返しやがて整備された道へとたどり着く
【この道をまっすぐに行くと目的地】
俺は本を閉じベルトに収めようとすると
俺の手を離れ本が開く
【街に入りゴルカの店を訪ねる事】
街に入った後の指示をして本は勝手に閉じる
道なりに歩きやがて城壁に囲まれた大きな城と街が見えてくる
城門の前には、長い列が出来ていてその列の最後尾に並ぶ。周りで話しているのを聞いているとなぜか言葉は分かるようだ。どう見ても日本人には見えないのだが?
少しの間周りの話に耳を傾けて、ついに俺の番がやって来た。
若く厳つい鎧を着込んだ兵士が
「ベリーベルドへようこそ。この街の住人か?観光か?」
少し考えて「この街で店を営んでいるゴルカに会いに来た」そう告げると
「こりゃ珍しいなあんな偏屈親父に客が来るとはな。一応、手配書の確認をさせてもらう」
少しの確認が終わり、ゴルカの店の場所を教えてもらい城門を後にする。
王都と言われるだけあり整備された街並みは石畳が敷かれた道を馬車が走る
石造りの建物がひしめき合うように立ち並び沢山の人で溢れかえっていた
教えられた店に歩きながら向かう。田舎から上京してきた人間のように辺りをキョロキョロしながら
古ぼけた店の看板にゴルカの店と書いてある
教えてもらった店のようだ
店の扉を開き中へと入る。
店の中は薄暗く漢方薬のような匂いが充満している
「悪いが準備中だよ何のようだい?」
そう尋ねられて気づく何の為に来たのか分からない