一度目の終わりと二度目の始まり
相生 伸42歳
貧乏な家庭の事情もあり夜間高校を働きながら卒業して今の会社に勤める
食品を取り扱う工場で働く伸は自分の低学歴がコンプレックスで周りの人間とも馴染めずに話す友達さえいない
自分の知らない事で周りの人間が楽しそうに話しているそんな被害妄想に悩まされ毎日を悶々と過ごしていた
そんなある日の仕事の帰り道、赤の横断歩道をスマホを片手に渡る女子高生が。前を見ずにスマホに気を取られ走ってくる車にも気づいていない
不意に伸は女子高生の腕を掴み引き寄せる
驚いた女子高生は腕を払いその反動で伸は体のバランスを崩し女子高生と入れ替わるように道へ
急ブレーキを踏み驚いた顔の運転手、女子高生の恐怖に引き攣った顔、全てがスローに映り伸は車にはねられる
道路に横たわり地面に流れる自分の血にこれはもう助からないと諦める
何故だか悔しさや怖さよりもやっと苦しみから解放される安堵の気持ちが大きく口元に諦めの微笑みを浮かべて瞳を閉じる
女子高生が泣きながら駆け寄ってくる
女の子に縁が無かったな来世は可愛い女の子と
遠ざかる意識の中最後に願う
不意に目を覚ます
ここは?天国なのか?
真っ白な空間に寝転んでいた
全てを諦めて人生を終わらせたはずなのに?
誰かがこちらに近づいてくる足音がする
見上げると頭のすぐ側に真紅のドレスを着た金髪の女の子が立っていた
「白のパンツか」細い脚の奥に小さなパンツが見える
「ちょっと!女の子のパンツ見るなんて変態!」
女の子はドレスの裾を抑えながら後ろに下がる
「すまないな、つい目に入ったんだ此処はどこだ?」
女の子に尋ねる
「此処は神界よ神様が住む場所」
俄かには信じられない事を少女は口にする
「此処が神界なら、君は何してるの?」
「私?神さまよ?」
神様は白パン派なのか
「そうか、それなら何故俺は此処に?」
「貴方の人生が余りにも可哀想だからやり直しのチャンスを与えるために此処に呼んだのよ」
「やり直し?」またあの辛い人生をやり直すのかと思い顔を歪める
「あ、前の人生とは違う人生を送ってもらうのよ?」
前世の酷い人生を振り返りながら
「新しい人生か.....」
また辛い事だらけならゴメンだな
「もちろん今回は我慢した前世の分も取り返すために特別に貴方の希望に沿った人生を送れるように最大限のサポートをするつもりよ」
「たとえば?」
「たとえば?そうね、病気にかからない健康な身体は勿論、前世みたいに早逝しない長寿、後は...どんなのがお望み?」
「そうだな...前世は食べる事に困ったから食べなくても大丈夫な身体、学歴が無くて辛い思いを沢山したからこの世の全ての知識これが俺の最大の望みだな」
「う〜ん、食べなくてもいい身体は簡単なのよね、でもこの世の知識は難しいな」
「どうして?」
「知識は昨日と今日じゃ全く違うものになるのよ常に新しく更新されていくの今全ての知識を手に入れても明日には全く違うことになっててもおかしくないわ」
考えた事も無かった、そうか確かに日に日に変わっていくものもあるな。悩んでいると
「う〜ん、知識を貴方に授けるのは無理だけどアイテムで貴方に知識を与え続けて行く事は出来るかもね」
「どんな風に?」
少女は両手を前に出して小さく呟く
[全ての知識をこの賢者の書に託さん]
少女の手は真紅に光り光が収まると両手の上に一冊の臙脂色をした電話帳くらいの本が現れる
臙脂色をした革の背表紙に黒い模様が緻密に彫り込まれ金色の文字が光っている
少女はその本をこちらに向けて
「はい」
「え?貰ってもいいの?」
「当然でしょ貴方のために作ったものなんだから」
「ありがとう」
早速中を確認してみる
真っ白で何も書いていない、目次すら無い
少しがっかりしながら
「ゴメン何も書いて無いけどこれは何なの?」
少し豪華なノートなのか?
「それは賢者の書よどんな事でもいいわその本に尋ねてみて?」そう言われて何を尋ねるか考える
「此処はどこ?」
【神界、神々が住む場所】
真っ白な紙に字が浮かび上がり質問に答える
「この目の前の女の子は誰?」
【神様、超絶美少女にして人類のアイドル】
ん?何かおかしい?
「世界で一番の美少女は?」
【当然わたし】
わたし?本だろ?
「神様、この本の知識は何を元にしているの?」
「元も何もわたしの考えがそのまま映し出されるのよ?わたしこそがこの世の全てのことを知っているから当然よね」
まあ、ありがたく頂こう
「後は健康で飢えない長寿の身体ね」
「助かるよ」
「誰かの子供として生まれ変わる事も出来るわよ?」
「いや、このままで大丈夫だよ愛着のある身体だから」男前では無いが嫌いでは無い
「あと何かあったら聞くけど」
「そうだな?俺が急に紛れ込んでも騒ぎにならない都会に転生させて欲しい、出来れば身分なんてものが機械で管理されていない時代がいいな」
「分かったわ時代は中世期魔法が溢れ人々がお互いに助け合うそんな時代の異世界に転移して貰うわ」
え?異世界
「その賢者の書は貴方以外は持つ事も開く事も出来ないから気を付けて無くならない様に魔法で貴方に追随する様にしておくわ」
ん魔法?
何か食い違いがある様だ
「あれ?俺は地球に戻るんだよね?」
身体が輝き出す
「え?あれ!言って無かった?貴方は今から異世界に転移するのよ?」急にしどろもどろになり慌て出す
異世界転移なんて一言も聞いていない。でも一言言っておかないと
「ありがとう世話をかけたな」
「頑張って」
神様の微笑みを見つめ俺の意識は遠のいて行く
こうして異世界転移の旅は始まった