よし、やってみるか
2人がキノコの相手をしている奥では、未だ残り1体のキノコが氷の拘束を破ろうとガタガタ暴れている。
その光景を観察しながら、カイルは考える。
今までの自分であれば、フリーズコフィンは表面を凍らせる程度が精々だったはずだ。
今もそういう意味では然程変わらないとも言えるが、それなりの時間拘束できている。
ということは……かなり威力が上がっているのではないだろうか?
基本的に魔法は上位のもの程必要魔力が高く、魔力が足りなければ発動できても効果が弱くなる。
故に魔力の足りない状態で上級魔法を放つよりは、魔力の足りている初級魔法を放つ方が効果が期待できるのだが……。
「……よし、やってみるか」
カイルはここで、一つの決意をする。
それは、イストファと2人の時に使っていた攻撃魔法。
初級魔法の中では範囲が広く、されど射程はそれ程でもない火属性初級魔法。
杖を構え、一気に前へとカイルは走る。
「イストファ、ドーマ! そいつらを纏めろ!」
「え!? ま、まとめるって」
「了解、です!」
戸惑うイストファとは逆に、ドーマは相手取っていたキノコを回し蹴りでイストファと対峙していたキノコに弾き飛ばしぶつける。
「オアアアア!?」
「オアアアア!」
転がるキノコが立ち上がるより早く、カイルはイストファの背後まで辿り着き「どけ!」と叫ぶ。
「フレイム!」
ドーマの方へと走っていくイストファと入れ替わるように辿り着いたカイルの杖から炎が噴き出す。
ゴウ、と地面を舐めるように射出された炎はキノコ達を包み、その表面を激しく焼く。
キノコ達が焦げる音が響く中、カイルの再度の詠唱が響く。
「アイスショット!」
杖から放たれたのは、拳ほどの大きさの氷の礫。起き上がろうとしたキノコの一体に悲鳴をあげさせ転ばせるが、カイルはその結果に不満そうにチッと舌打ちをする。
「すまねえ、やっぱり無理だ!」
「充分!」
表面を焦げさせたまま跳んでくるキノコを、イストファは真正面から切りつける。
カイルのフレイムの魔法で焦がされたせいだろうか、先程よりも大分突撃力が落ちていて……防御力も下がっているように感じられた。
イストファの短剣はキノコに真正面から突き刺さり、その身体を大きく切り裂いていく。
そのまま蹴り飛ばし背後から迫っていたもう1体のキノコへと弾き飛ばしたその時、更にその上から大ジャンプを仕掛けてきた最後のキノコにドーマの投げたメイスがめり込み弾き飛ばされる。
「イストファ!」
「うん!」
小盾をその場に投げ捨て、イストファは回転しながら落ちてきたメイスを握る。
「でやああああ!」
跳んでくるキノコをメイスで叩き落とし、短剣を深々と突き刺し切り裂く。
勢いのある突撃も、しっかりと態勢を整え振るう鋼鉄のメイスに敵うはずもない。
なにしろ、キノコ達の身体はゴブリンガードのように鎧を纏っているわけでもない。
跳ねるに適した柔らかい身体は、同じくらいに突き返しに弱いのだ。
そして残されたのは、先程まで凍っていた1体のキノコのみ。
メイスと短剣を構えジリジリとにじり寄るイストファにキノコは臆したような表情を一瞬浮かべ……しかし、すぐにその場でドムドムと勢いよく跳ね始める。
「オアアアアアア!」
「来い!」
ドムンッ、と。一際大きな音をたてて跳ね上がったキノコは、しかし先程と同じようにイストファのメイスに叩き落されて地面に転がり、短剣でのトドメの一撃を突き刺され動かなくなる。
「……ふう」
動かなくなったキノコを見下ろして、イストファは「あっ」と声をあげる。
「ドーマ! カイル! キノコ確保して!」
「分かってる」
「大丈夫です」
イストファが勝つと分かった時点でカイルもドーマも手近なキノコの確保に動いており、2人が触れたキノコは未だその死骸を残していた。
「ふう……よかった。ありがとう」
ホッとした表情のイストファは足元のキノコを見下ろして……思わず首を傾げる。
「キノコの心臓って……何処だろ?」
顔はついていたが、手足が生えているわけでもない。
言うなればキノコの形の頭が跳ねていたようなもので、何処に心臓があるのか全く分からない。
「……とりあえず真ん中裂いてみようかな……?」
苦悶の表情を浮かべるキノコをひっくり返すと、イストファは短剣を突き入れる。
サックリと簡単に裂けたキノコの中からは、クワガタムシのものよりは少し小さめ程度の魔石が見つかった。
「わあ、結構大きいね」
「二階層のモンスターだしな。ゴブリンとどっちが強ぇかは微妙だが」
「力はこっちの方が強かったよ」
そんな事を話しながらイストファは3つの魔石を回収し、ドーマに手渡す。
「じゃあドーマ、お願いできる?」
「ええ、では……合成」
イストファの短剣に3つの魔石を合成すると、短剣は淡く輝き……先程よりも明らかに輝きが美しくなる。
「……これって、進化したのかな?」
ドーマの手の中にある短剣を眺めてイストファが期待したように聞くと、ドーマは静かに首を横に振る。
「いいえ、品質は良くなったみたいですけど。黒鉄は少し黒みを帯びていますから」
「そっかあ……」
「でも、鉄の短剣としてはかなり上質のものになったと思いますよ。よかったですね、イストファ」





