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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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おいおい、こうなってんのかよ

 脅すような男の声に、イストファ達は思わず顔を見合わせる。

 それは恐怖だとかそういう感情からではなく……戸惑いからだ。


「そんな事言われても……」

「何もせずに帰るなんて選択肢はねえよな」

「ですよね」


 当然だ。頑張ってゴブリンガードを倒して、二階層へと降りてきたのだ。

 何もせずに引き返すという選択肢があるはずもない。


「心配してくださったのは感謝します。でも、僕達は此処で諦めるっていうわけにもいかないです」

「死ぬかもしれねえぜ? 言っとくが、強さは段違いだぞ」

「……だとしても、それを越えなきゃ一流の冒険者になんてなれませんから」


 一流の冒険者。そんなイストファの言葉に男は呆気にとられたような顔になった後……その顔をくしゃりと笑顔の形に歪める。


「一流、一流ねえ。ハハ、面白いじゃねえか! やってみろよ!」

「はい!」

「よおし、いい返事だ!」


 バシバシと肩を叩いてくる男の力は強くイストファはよろけてしまうが、その身体をドーマが後ろから支える。


「基本的に此処で溜まってる連中ぁ、俺含め先に進むのを諦めてんのが多いからな」

「それは……いいのか? いつまでもやってけるわけでもねえだろうに」

「言ったろ? 儲かるってよ。稼ぐつもりで此処にいりゃ、それなりに儲かるように出来てんだ」

「はあ?」


 男の答えにカイルは「意味が分かんねえ」と返すが、男は気分を害した様子もない。


「すぐに分かるさ。此処が暴食の樹海なんて呼ばれてる理由も……な」

「フン」


 カイルはつまらなそうに鼻を鳴らす。実際、向上心を無くしているようにも思える男が……あるいは、男の同類であろう小屋に居る冒険者達も気に入らなかったのかもしれない。

 男はそんなカイルを眩しそうに見ていたが、登録の宝珠を指差してみせる。


「ま、とにかく。此処を出るなら宝珠に触れとけ。帰還の宝珠で逃げ帰る事になっても戻ってくるのが楽だからな」

「ああ、そうさせてもらう。行くぞ二人とも」

「そうですね」


 登録の宝珠に触れる二人と男を交互に見た後、イストファは男へと頭を下げる。


「あの、えっと。色々教えてくれてありがとうございます」

「……ん、おう」


 照れたように頬を掻いた男は「あー……」と何かを思い出すように声をあげる。


「一応教えといてやるけどよ。カブトムシには気を付けな。連中は単なる前座だ。出てきたなら、とにかく動け。止まると……死ぬぜ、アッサリとな」

「カブトムシ……」

「武器、見せてみろ」


 イストファが短剣を抜き見せると、男は「鉄製だな……」と呟く。


「打ち合おうとは考えるんじゃねえぞ。やるつもりなら最低でも黒鉄か、赤鋼だ」

「……硬い敵ってことですか。ゴブリンガードみたいな」

「硬いな。だがもっと硬ぇ。この階層の敵は、基本的に黒鉄の武器じゃねえとマトモに打ち合えねえぞ」


 金属の硬さは下から青銅、赤鉄、鉄、黒鉄、赤鋼、鋼、黒鋼……といった順に上がっていく。

 青銅や赤鉄は農具くらいにしか使われないのでさておくとしても、黒鉄は比較的高級な部類の金属だ。

 中々買えるものではないし、武具を進化させるにはどれ程の魔石を使えばいいのかも分からない。


「……どうする? 二人とも」

「武器ならあるだろ」

「また私の武器ですか……仕方ないですね」


 言いながら差し出してくるドーマからイストファは受け取ると、じっとメイスを見下ろす。


「武器、か……」

「黒鉄じゃねえと対抗できないかもってのは問題だな。だがまあ……まずはやってみようぜ。それからだ」


 対抗できる武器はあるんだしな、と言うカイルにイストファも頷く。


「よし、行こう」

「ああ。だがな、イストファ」

「何?」

「お前も登録の宝珠に触れ」

「あっ……」


 すっかり忘れていた事を思い出し顔を赤くしながらイストファは宝珠に触れて、僅かに光った登録の宝珠からそっと手を離す。


「……これでいいのかな?」

「ああ、それでいい……ったく、若いってのはいいね」


 気を付けろよ、と言う男にイストファは一礼し、奥の扉へと手をかける。

 ガチャリと。音をたてて開いた扉の向こうに広がるのは、鬱蒼と広がる森。

 恐らくは昼時と思われる明るさだが、イストファの視線を引いたのは森でもなければ明るさでもない。


「あれって……」

「おいおい、こうなってんのかよ」

「うわあ……」


 三者三様の感想を漏らす後ろで、扉がバタンと閉められる。

 いつまでも開けているなということなのだろうか、カイルは「感じ悪ィな……」と呟くが、すぐにその視線は森へと戻る。

 そう、第二階層「暴食の樹海」。その樹海を構成する木の一本には、赤いリンゴの実が鈴なりに生っていたのだ。


「あれって……リンゴ、だよね?」

「そうですね。でも街で売っているものより立派に見えますが」

「見える、どころか文句なしの高級品だなありゃ。暴食ってのは果物が美味いって意味なのか?」


 そんな事を呟くカイルに、イストファは思わず振り返る。


「あれ、カイルの事だからまた情報買ってるんだと思ったけど」

「だったら良かったんだがな。まだこの階層の情報は仕入れてねえ……イストファ、そのリンゴもげるか?」

「やってみるね」


 イストファでも手を伸ばせる位置にあるリンゴはあっさりと獲れ、イストファの手の中に納まる。


「……美味しそうだな」

「ですね。ちょっと食べてみてもいいのでは?」

「やめとけ、どんな代物かも分からねえ。とりあえず後で情報買うから捨てとけ、イストファ」

「うん」


 ちょっと残念な気持ちになりながらも、イストファはリンゴを捨てる。

 コロコロと転がっていくリンゴは木にぶつかり、止まって。それを見てドーマが「あーあ……」と呟く。


「とにかく、奥に進んでみようか」

「ああ。とはいえ無茶しねえ範囲だ。軽く戦ったらすぐに戻るぞ」

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