いや、どうしたっていうかよ
「えっと、それじゃあ分けないとね」
カウンターの上の11万イエンを受け取ると、イストファは仲間達へと振り返る。
まずギルドで手に入ったのが、1万7000イエン。
今の売り上げと合わせると、12万7000イエン。
これを3人で分けると4万2000イエンと、あまりが1000イエン。
これを更に分けると……と考え始めた辺りで、カイルが「あー」と声をあげる。
「おいイストファ。俺の分は今回はいいぜ?」
「えっ、でも」
「今のところ金には困ってねえし、お前の鎧をどうにかしなきゃいけねえだろ」
「えっと、イストファ。私は、その……」
「大丈夫だよ、ドーマ。気を遣わせてごめんね?」
視線を逸らすドーマにそう言うと、イストファはカイルに向き直る。
「やっぱりダメだよカイル。こういうのはしっかりしないと」
「そうかあ?」
「そうだよ」
イストファが頷くと、カイルは呆れたような表情で「分かった」と答える。
「ま、それじゃあ受け取っておくけどよ。俺とドーマが4万2000ずつ、イストファが4万3000でいいだろ」
「はい、私もそれでいいと思います」
「うーん……じゃあ、それで」
自分が少し多めに受け取ってしまうのはイストファとしてはモヤッとしてしまうのだが、これ以上拒否する理由もない。
フリートに両替をしてもらい二人にお金を渡すと、イストファは自分の財布の中を確認する。
8万1090イエン。それが今のイストファの全財産だ。
「あの、フリートさん」
「おう」
「あの鎧が、欲しいです」
言いながらイストファが7万イエンを取り出すと、フリートはニヤリと笑う。
「おう、そうか。ま、その鎧もダメになっちまったしな」
「あー……やっぱりもう、直せませんか……」
「いや、直せっつーなら直すけどよ。造り直したほうが安くつくぞ」
引き取ってやるから諦めろ、と言うフリートにイストファが頷くと、フリートは笑いながらイストファに1000イエン銀貨を握らせる。
「そんじゃ、早速……っと」
手慣れた動きでイストファの革鎧を外してカウンターの奥へと放り投げると、紙に包まれた魔獣革の革鎧をフリートは取り出す。
「おいおいオッサン、それずっと其処に置いてたのかよ」
「なんか予感がしてな。ま、当たったわけだが。さ、着てみろ。サイズ調整は済んでる」
魔獣の革鎧の一式。今まで着ていた革鎧とは全く違うそれに触れると、ゾクリとするような感覚をイストファは味わう。
これは強い。そんなドキドキを感じながら、イストファは革鎧を纏っていく。
脚、腕、身体、肩。一式を纏うと、自然と力が湧き上がってくるような錯覚すら覚え始める。
「……なんか、凄いです」
「だろ? 下手なダンジョン防具にだって負けやしねえ」
「似合ってますよ、イストファ」
「だな」
ドーマとカイルに褒められたイストファは照れて頭を掻き、フリートへと頭を下げる。
「ありがとうございます、フリートさん」
「礼を言われる事はしてねえよ。貰った金の分のモノを渡しただけだ」
言いながら、フリートはイストファの短剣へと視線を向ける。
「それより、その短剣だ。たいして育ってねえようにも見えるが……大丈夫なのか?」
「うっ……」
「大丈夫ですよ、イストファ。私にちゃんと策があります」
「策?」
「はい、私を信じてください」
何処となく自信を感じさせる表情で微笑むドーマに、イストファは思わず「うん」と頷いてしまう。
何かあるのだろう。そう考えさせる微笑みだった。
「ま、いいけどよ。他に買うもんはあるか?」
「ねえな」
「おう、そうかい。これから行くのか?」
これから行く。その言葉の意味を考えるように三人は顔を見合せ……同時に頷く。
「はい、これからゴブリンガードを倒しに行こうと思います」
「ん、頑張れよ」
「ありがとうございます。行ってきます!」
深々と礼をして、イストファは店を出る。
日は高く、ダンジョンに潜る時間も、まだ充分にある。
イストファを追って店を出てくる二人にイストファは笑顔を向け「頑張ろうね!」と声をかけるが……カイルとドーマは少しだけ微妙な顔になる。
「……どうしたの?」
「いや、どうしたっていうかよ」
「先にご飯……行きませんか?」
「あっ」
そういえば何も食べていなかった。
後で行こうと言っていたのを思い出して、イストファは思わず「ごめん」と謝ってしまう。
「謝る事でもねえけどよ。どっか適当な店に入るか」
「私、この街あんまり詳しくありませんけど」
「俺が多少知ってる。鉄魚食堂とかいう店の定食が安くて美味いらしい」
「じゃあ、其処にしようか」
イストファも賛同すると、カイルが「行くぞ」と先導して歩き始める。
職人通りを進み、色々な店の並ぶ商店通りへ。
生活用品から武具店……フリート武具店以外の武具店だが、とにかく色々な店が並ぶ通りには食堂も幾つかある。
微妙にお昼時をズレた今は人も少ないが……鉄魚食堂はまだ人が多いようだった。
「人気店なんだね」
「だな、俺達も行くか」
「そうですね」
頷き合い、店に入ろうとした……その瞬間、イストファは背後から優しく抱き寄せられる。
「あら、奇遇ねイストファ。戻ってきてたの?」
「ス、ステラさん!?」
「ええ、そうよ。これからご飯? 私もご一緒しようかしら」





