仲良くしようよ……
帰還の宝珠でまたカイルが転送酔いをしたりと、ちょっとしたゴタゴタをこなしつつ、イストファ達三人は冒険者ギルドへとやってきていた。
今回の成果はゴブリン、ゴブリンマジシャン、ゴブリンファイター、ゴブリンスカウトの魔石が1つずつ。
グラスウルフの爪と光源石。そしてゴブリンヒーローの剣だ。
このうちグラスウルフの爪は早々に買取拒否されてしまい、光源石はそのまま持っている事を決めている。
まず魔石は全部で7000イエン。そこまではいい。
ギルドの職員をザワつかせているのは……ゴブリンヒーローの剣だった。
「これは……ゴブリンヒーローソード? いや、鉄製だから劣化版でしょうが……頑丈の能力付きですか。これを何処で?」
「一階層のゴブリンヒーローからです」
イストファがそう答えると、職員達のざわめきは大きくなる。
「その、失礼ですがソレがゴブリンヒーローだというのは、どうやって判定を?」
「私です。一階のゴブリンヒーローに関する未確認情報を買っていますから」
「それは……なるほど」
進み出たドーマの顔を覚えていたのか職員は頷き、もう一度ゴブリンヒーローソードを確かめ始める。
「……そうですね。確かに『頑丈の劣化ゴブリンヒーローソード』であるようです。こんなものが出るのであれば、確かに一階層でしょう。貴重な目撃情報として、この情報を1万イエンにて買い取りさせていただきます」
「え、いいんですか!?」
驚くイストファに、職員は頷く。
「はい。ゴブリンヒーローの一階層出現に関しては、先程のドーマさんのお話の通り未確認情報でした。しかし此処に確かな物証がある以上、今後は確定情報として扱われます。冒険者ギルドの取り扱う情報の補完へのご協力、有難うございます」
「はい、分かりました」
そう言われれば、イストファとしても反対意見があるわけではない。
「此方の剣に関してはどうされますか? 今のところトレード希望はありませんが、劣化版とはいえゴブリンヒーローソード……しかも頑丈の能力付きです。かなりの好条件が期待できますが」
「えっと、そんなに凄いんでしょうか」
「凄ぇぞ。頑丈の能力ってのはその名の通り硬度の上昇だ。たぶん鋼鉄の剣くらいの硬度はあるだろ。でもって、たぶんゴブリンヒーローが使った特殊能力もあるはずだ」
「アレかあ……」
自分の腕を叩き斬った一撃の事をイストファは思い出す。
なるほど、あの技が使えるなら凄い剣だろうが……。
「ちなみにカイル」
「お前にゃ無理だ。魔力ねえだろ?」
「……うん」
即座に何を言おうとしているか察して答えるカイルにイストファは力なく頷く。
魔力が無ければ、こんなところでもハンデになる。
魔力が無いおかげでステラと出会えたとはいえ、かなりガックリきてしまうのは仕方のない事だった。
「じゃあ、カイル使う? コレ使えばカイルも」
「やめろよ、斬る前に俺が殴られるか斬られるかして死ぬ」
「ドーマは」
「一応建前として、神官は刃物を持たないんですよ」
「つーか、あのオッサンの店で売りゃいいだろ」
「……そだね」
カイルの言葉に頷くと、イストファは職員に一礼してゴブリンヒーローソードを布に包む。
刃物を抜身で持ち歩いていると衛兵に怒られる可能性があるので、別れ際にモリスンがくれたものだ。
「それでは、1万7000イエンです。どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
カウンターに置かれたのは1万イエン金貨が1枚と5000イエン銀貨が1枚、そして1000イエン銀貨が2枚。
これをどう分けたらいいかとイストファは考えて……イストファは困ったようにカイルとドーマを見る。
「……どう分けたら公平になるかな?」
「とりあえず武器屋のオッサンに剣売ってから考えればいいだろ」
「そうですね」
「そっか」
そうすれば、丁度分けられる金額になるかもしれない。
あまり計算が得意ではないだけに、イストファはそれを聞いてホッとする。
「なら早速行こうか」
「おう」
「そうですね」
頷き合って歩き出したイストファ達だが……気付くと、その周囲を他の冒険者達に囲まれていた。
興味津々といった様子のその瞳に敵意は微塵もなく、それだけにイストファ達は困惑してしまう。
……そして、正面でニッと笑った冒険者がイストファの肩を強い力でバンと叩く。
「よう、イストファ! 聞いてたぜ!? ゴブリンヒーロー倒すたァ、やるじゃねえか!」
「ど、どうも。でも僕一人の力じゃないです。カイルと、ドーマと……あと此処には居ないですけど」
「んなこたぁいいんだよ! 立派になったなあ、イストファ! ランクアップも近いんじゃねえのか! なあ!」
カウンターで微笑んでいる職員に冒険者の男が声をかけると、職員も頷く。
「そうですね。今すぐというわけにはいきませんが、第2階層に進んだ時には銅級へのランクアップも充分にあり得ます」
「銅級……」
冒険者として一人前とみなされるのが銅級だ。
自分がそんなに早く到達できるかもしれないというのが信じられなくて、嬉しくて。イストファは思わず拳を握る。
「……頑張ろうね、カイル、ドーマ」
「おう。つーか……いや、まあいいか」
「ん、何?」
「ドーマをパーティに正式に入れる気なんだなって思ってよ」
カイルに言われてイストファは「あっ」と声をあげる。
「そっか。ドーマには聞いてなかったよね。どうかな、僕達と」
「勿論です。よろしくお願いしますね、イストファ」
「おいドーマ、俺は」
「カイルですか? カイルは……別にどうでも」
「テメエ……」
「仲良くしようよ……」
呆れたようなイストファの言葉に、その場に居た冒険者達が笑い声をあげる。
それはとても平和な光景で。
イストファも、カイルも、ドーマも。三人とも笑っている。
それはダンジョンの奥を目指すパーティの、新たな仲間を迎え入れる儀式なのかもしれなかった。





