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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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カイルはこういうの、興味ないんだね

 探して、勧誘して。けれど、イストファ達の誘いに首を縦に振る人はとうとう現れなかった。


「……ダメだ、誰も頷いてくれない……」

「ぬう、これは予想外だぞ」

「いや、断りの理由を聞くに、当然の結果って気もしてきたけど……」


 イストファはそう呟きながら壁にもたれかかり、断りの理由を思い出し並べあげる。

 まず、イストファの問題。

 装備が貧弱。攻撃力も防御力も足りなさそう。

 力が無さそう。あまり前衛として頼りに思えない。


 そして、カイルの問題。

 貧弱そう。

 魔力が低い。

 なんか無駄に偉そう。

 装備が良すぎて、なんか見下されそう。

 性格悪そう。


「……だったかな?」

「おい、なんか俺の性格に関して三つ同じのが無かったか?」

「微妙に違うよ」

「そうか……そうか?」


 首を傾げるカイルをそのままに、イストファは「うーん」と唸る。

 結局のところ、このままでは仲間になってくれるヒーラーが居ないということだけは確かなようだ。


「いっそ、ヒーラーじゃない人を探す?」

「いや、妥協は一番よくねえ。最低でも納得まではもっていかないとな」


 溜息をつくと、カイルは杖で床をコツンと叩く。

 この際トランスポーターでも問題はない。

 荷物をトランスポーターに任せる事でより長時間潜れるし、イストファの荷物を減らし動きを良くできる。

 しかし、トランスポーターはヒーラー同様引く手数多だ。

 少しでも狩れるパーティに入って稼ぎを増やしたいと思うはずだ。

 今のイストファとカイルの仲間になってくれるとは思えない。


「……仕方ねえな。今日のところは俺達二人で狩りに行こう。ひとまず、俺達の実力アップを目指そう」

「そうだね」


 その意見にはイストファも賛成だった。

 ダンジョンに潜ってモンスターを倒せば能力も上がるし、お金に換えられる物も手に入る。

 それによって装備も整えれば、他の人達の見る目も変わるかもしれない。

 言ってみれば……これは「冒険者」として他の冒険者に認められる最低ラインを超える為の試練であるようにイストファには思えたのだ。


「そうと決まれば狩りに行かないとね!」

「ああ。早速行くか!」


 イストファとカイルは拳を合わせると、連れ立って冒険者ギルドを出る。

 大通りを通り、ダンジョンまでの道を進む。

 その道中ではやはり路地裏からの目が見つめていたが……今のイストファには、然程気にならなかった。

 そうしてダンジョン近くの路地に辿り着けば、今日も冒険者用の品を扱う露天商達が元気よく声を張り上げている。


「さあさあ、傷薬に毒消し、痛み止め! いざという時にこの一品が命を救うよ!」

「王都で仕入れた名武器がズラリ! 今買わなきゃいつ買うんだい!?」

「干し豆あるよ! 味も栄養もバッチリだ!」


 色々な呼び声が聞こえてくるが、カイルは脇見すらせずスタスタと歩いていく。

 少しお金に余裕が出来たイストファはちょっとだけ気になるのだが、カイルはそうではないらしい。


「カイルはこういうの、興味ないんだね」

「ん? そりゃな。緊急ならともかく、ちゃんとした店で買った方がいいに決まってる」

「え、でも」

「でも、じゃねえよ。いいか、この際だから教えてやる」


 そう言うと、カイルはイストファの腕を引いて手近な武器露店へと近づいていく。


「お、いらっしゃい坊や! どうだい、杖も剣もいいのがあるよ!」

「たとえば、この杖だ」


 カイルが一本の木製の杖を指差すと、店主が嬉しそうに語り始める。


「お、いいものに目を付けたね! そいつは王都でも有名な杖職人ヴァンレリスの手掛けた逸品さ」

「偽物だな。ヴァンレリスの偏屈ジジイが木杖なんか作るもんか。あのジジイはドワーフに弟子入りしてまで金属杖の作成に拘った底無しのアホで、並ぶ者の居ない大天才だ。木杖を作り始めたんなら、いよいよボケを疑うぞ」

「なっ……」

「そもそも、この杖は造りが甘い。削りも適当だし、なんだこの彫刻は。ドラゴンのつもりか? ガーゴイルかと思ったぞ。何より仕上げに使ってるのが」

「あ、あっち行けぇ!」


 棒を振り回し始めた店主から逃げ出すと、カイルは「な?」と肩をすくめる。


「店舗ってのは信頼の証だ。必ずしもそうだと限らねえのが難しい所だが、出来る限り信用のある店で買うのが一番いい」

「あ、あはは……」


 睨んでいる先程の店主をそのままに、カイルは周囲の露店を見回して。

 そのカイルの視線に晒された店主達が一斉に視線を背けてしまう。


「今視線を逸らしたのは心と商品にやましいところがあると」

「カ、カイル! 行こう! 日が暮れちゃうよ!」


 無駄に敵を増やしそうだと判断したイストファは、カイルを連れて走る。

 正直に言って商売の邪魔だし、あのままでは店主達に襲われそうだ。

 そのままダンジョンの前まで走ると、イストファはぜえぜえと息を切らしているカイルの手を離す。


「イ、イストファ。ここまで急ぐ必要は……ぜえ、無かったんじゃないか?」

「何言ってるのさ……あのままだと新しい敵が出来てたよ?」


 まったくもう、と言いながらイストファは息を整える。

 とにかく探索だ。ほとぼりが冷めるくらいまで探索をしようと……そんな事を考えたイストファは、入り口付近に灰色のカッチリとした服を着ている神官らしき誰かがいるのを発見する。


「ねえ、カイル。あれって……」


 まだ息を整えているカイルの肩を叩いたイストファは……その後姿からでも分かる耳に気付く。

 特徴的な長く……そして、浅黒い耳。


「エル、フ……?」


 同じエルフであるステラとは似て非なる、けれど確かにエルフの特徴を持つ者の姿が、そこにあった。

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