なんだオイ。俺の前に立つんじゃねえ
フィラード王国中でも特に景気の良い迷宮都市エルトリア。
その景気の秘密は、迷宮都市の名前の通り「ダンジョン」に存在する。
生活を豊かにする魔力の結晶体である魔石の産出、そして様々な貴重な宝物の発見。
現代において最も優秀な鉱山とも呼ばれるダンジョンの存在は、冒険者という荒事専門家の地位向上を促した。
「金でいう事を聞く荒くれもの」から「富をもたらす勇気ある鉱夫」へとイメージが変化した冒険者は英雄譚を夢見る者や一攫千金を狙う者達にとって憧れの職となったのだ。
……しかし同時に食い詰め者や「冒険者」という言い訳が欲しいだけのごろつきも増えた為、冒険者資格を認定する冒険者ギルドの誕生も避けられない流れであった。
仮登録である木の腕輪を返却し正式登録である青銅の腕輪を受け取って、ようやく一人前。
そこから先は本人次第ではあるのだが、大体はその1つか2つ先まで進んで引退する事が多い。
その理由は才能の限界だとか生活に必要な金を稼ぐにはそれで充分とか、理由は色々あるのだが……いわゆる「入り口」である青銅級冒険者には、夢見る若者や子供も多く存在する。
彼等は自分の明るい未来を疑っておらず、高く羽ばたけると信じている。
それ故に多少の無茶を許容出来たりもするし、実際にそうして頭角を現す者も居る。
……それ以上に「初心者狩り」や「初心者喰い」と呼ばれる経験の浅い冒険者をターゲットにするクズのような冒険者も存在するのだが……。
「ま、そんなわけで。今此処に集まってる連中はほとんどが青銅ランクってわけね」
「なるほど……」
「フン、説明されるまでもねえ」
そんな夢見る頃の青銅冒険者達に注目されているのは、今新たな仲間のパーティ登録を済ませたばかりの三人。
一人目は、剣士のイストファ。硬革鎧のセットと金属製の小盾、小剣を装備した如何にも初心者といった風体の少年。ついでにいえば、魔力がゼロという「真っすぐ育つのが稀有」と言われてしまう体質の持ち主だ。
二人目は、その新メンバーである魔法士、カイル。
体力もないし口も悪い、魔力も低いので魔法のダメージも低いが、装備の質は高い正体不明の少年だ。
そして三人目は、注目されている原因である金級冒険者、ライトエルフの魔法剣士ステラ。
このエルトリアでも極めて珍しい「金の腕輪」を保持する実力者であり、イストファの自称師匠でもある。
「で、どうするの? 私のおすすめ聞く?」
「えっと」
「要らん」
イストファが何かを答える前に、カイルが即座に否定する。
「あら、いいの?」
「ああ。聞けば強い奴を見つけられる。それは間違いねえ」
「え? だったら」
「イストファ。そいつの添え物になるつもりか?」
カイルの言葉に、イストファはぐっと言葉に詰まる。
思い出すのは、武具店のフリートの言葉だ。
鎧に頼る奴は、鎧の強さまでしか強くなれねえ。フリートはそう言っていた。
武器でも同じだとも言っていたが……きっと仲間でも同じだろうとイストファは思う。
強い仲間に頼れば、その仲間以上には強くなれない。カイルの言う通り「添え物」になってしまうだろう。
それは、イストファの目指す場所では、ない。
「……だよね。僕達自身で同じくらいの強さの仲間を見つけないと」
「それもだが、性格も重要だな。アホを仲間に入れても仕方がねえ」
何様だ、と言われそうなセリフを堂々と言い放つカイルだが、正論ではある。
仲間同士の不和で解散したり全滅したりしたパーティなど、数えるのが面倒になる程に存在する。
しかし正論だろうと「何様だ」と思われるのは当然であり、すでにカイルから距離をとっている冒険者も居たりする。
そんな様子をステラは黙ってみていたが「ま、頑張ってね」と笑う。
「無理せず戻ってくるのよ。生きてこそってものだからね」
「はい!」
元気いっぱいに答えるイストファに手を振って、ステラは冒険者ギルドから出ていく。
ダンジョンに行くのだろうか。そんな事を考えながらステラを見送るイストファの肩を、カイルがぐいと引っ張る。
「おいイストファ。今はこっちが重要だろ」
「あ、うん」
カイル曰く、冒険者パーティの基本は前衛、後衛、サポーターの組み合わせ。
つまり前衛をイストファ、後衛をカイルが務めている以上……欲しいのはサポーターということになる。
その中で、確かカイルのお勧めは……回復役のヒーラーか、雑用担当のトランスポーターだったはずだ。
「どの人がそうなんだろう?」
「トランスポーターはともかく、ヒーラーは見分けが簡単だぞ。神に仕える神官が多いからな」
言いながらカイルは周囲を見回し……その眼前に、立派なハーフプレートを纏い剣を腰に帯びた剣士の少年が立つ。
腕につけているのは銅の腕輪……つまり、イストファとカイルより1つ上の銅級冒険者ということになる。
「なんだオイ。俺の前に立つんじゃねえ」
「……お前、あのエルフの人とどういう関係だ」
「ああ?」
何言ってんだこいつ、と言わんばかりの目で少年を見るカイル。
それを馬鹿にされていると感じたのだろうか。
まあ実際馬鹿にされているのだが、ともかく少年はカイルを真正面から睨みつける。
「金級冒険者に寄生とか……恥ずかしくないのか!?」





