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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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おいおいケイ、何てことしやがる

「1万イエン……」

「ま、ほとんど盾代だな。鎧の方は傷ついた場所に別の革をあてて見た目を綺麗に修繕して……ってくらいだな。本格的にやると時間も金もかかるしな」

「本格的っていうと……革を張り直すとかですか?」

「おう。その場合は3日貰うが纏めて2000イエンでしっかり仕上げてやる」


 どうしようか、とイストファは悩む。

 どうせなら革鎧をしっかり直しておきたい。

 しかし、3日もかかったらその間鎧無しということになってしまう。

 かといって代わりの鎧など……と悩むイストファに「ちなみにだが」とフリートは続ける。


「革鎧を本格的に修理するなら、当然代わりの鎧が要るわな」

「そう、ですよね……」

「この際だ。今の鎧を予備にして、もう一式硬革鎧を揃えてみるか?」

「う……」


 そうすると、ますます魔獣の革鎧が遠のく。

 そんな事を考えたイストファが思わず唸ると、フリートはガハハと笑う。


「何考えてるかは分かるぜ。こんなとこでチマチマ金使ってたら、ますます目標の鎧が遠のくわな!」

「……はい」

「ま、1万イエンでピイピイ言ってたんだ。気持ちは分かるぜ。とはいえ、ウチだって商売だ。過度な割引は出来ねえわな」


 言いながらフリートは顎を軽く撫でる。


「あの、応急修理の場合って鎧に何か問題が出たりするんですか?」

「基本的にはねえが耐久力がちょっと落ちるわな。長期的に見ても、あまりいいもんじゃねえ。結局何処かで本格的に張り直しの必要は出るが……まあ、新しい鎧に乗り換える前提なら然程問題になる話でもねえ」


 言われて、イストファは考える。

 初めて買った鎧だ。長く大事にしたいが……通用しない鎧をいつまでも持っていても仕方がない。

 いつかは乗り換えないといけないものではある。

 それに……ゴブリンガード相手ならともかく、ゴブリン相手であれば今の鎧でも何も問題は出ていない。


「……カイルはどう思う?」

「そうだな。確かにゴブリンガードを相手にするんでもなけりゃ応急処置で充分だろう。あの場所に近づかなきゃ問題も出ねえはずだしな」

「ステラさんは?」

「イストファが考える問題かしらね。自分の命を預ける防具の話だもの」


 二人の意見を聞いて、イストファは再度唸る。

 何が正しいのか。何が間違っているのか。

 楽しそうに笑うフリートと目の前の鎧や盾を見比べながら、イストファは考えて……フリートの背後でおたまを振り上げているケイを見て「あっ」と声をあげる。


「ん? いてっ!」


 ケイにスコーンと綺麗な音をたてておたまで叩かれたフリートはそんな声をあげて背後へと振り向く。


「おいおいケイ、何てことしやがる」

「何てことしやがるはお父さんでしょ? イストファ君いじめるのはどうかと思うな」

「いじめてなんかねえよ」

「大体何よ、その鎧。買ったはいいけど売れねえ縁起悪ぃって愚痴言ってたやつじゃない」

「だから安くしてんだよ。正直赤字覚悟の値段だぞ?」

「そういう問題じゃないでしょ? 縁起悪いものを売らないでよ!」

「だからちゃんと説明してるって! ったく、お前そこまでイストファに過保護だったかあ?」


 やれやれ、と言いたげなフリートの言葉にケイは「そ、そんなことないけど」と口ごもる。

 そんなケイの様子にフリートは目を見開き……そのままイストファへと無言で視線を向ける。

 妙な圧のこもった視線にイストファは思わずビクリと一歩下がりそうになってしまう。


「おい、イストファ。お前ケイと何かあったのか」

「え!? な、何かって何ですか!?」

「あれじゃないか? 転びそうになったのを助けたやつ」

「ほう」


 カイルの言葉にフリートは頷くと「ふむ」と呟く。


「言っとくが、ケイはやらんぞ。その時は婿に来てもらうからな」

「お父さん!」

「いてっ!」

「もう、知らない!」


 ズカズカと音をたてて奥へ戻っていってしまうケイを頭をさすりながら見送るとフリートは「やれやれ」と溜息をつく。


「よし、これで煩いのは消えた。さ、どうする」

「あ、冗談だったんですか。ですよね」

「半分はな」


 フリートのニヤリという笑みに固まるイストファを、背後からステラが抱き寄せる。


「あげないわよ?」

「お前のもんでもねえだろ」

「いい加減にしろ。いつまでも話が終わらねえだろが。イストファ、どうすんだ」


 カイルに言われ、イストファは悩む。

 新しい革鎧を買うなら、修理と盾代を含めて2万イエンはかかるだろう。

 払えるが魔獣の革鎧は遠のくし、ゴブリンガードには通じない鎧を二つ抱える事になってしまう。

 普通に考えるなら、その選択肢はない。


「……なら、とりあえず応急処置をして、魔獣の革鎧を買う時に今の革鎧を修理に出します。それならお幾らですか?」

「盾はどうする。買うのか?」

「はい」


 盾は必要だ。使いこなしがどうのと言っていられる時期は過ぎてしまったのだ。


「……ま、正解だな。それなら今答えてやる。盾と応急処置でさっき言った通り1万イエン。魔獣の革鎧は7万イエン。その後、鎧の修理は1000イエンでやってやる」

「みみっちい割引ねえ」

「うるせえエルフだな。2000イエンだって割り引いてやってんだぞ」

「じゃあお願いします、フリートさん」


 1万イエンを置くイストファに、ステラと睨み合っていたフリートは「おう」と頷く。


「それじゃあ、鎧を脱ぎな。すぐにやってやらあ」

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