EX:ドーマの街歩き
神官戦士ドーマ。
新進気鋭の剣士イストファがリーダーを務めるパーティ「グラディオ」のメンバーにして、「迷宮武具の神」の啓示を受けた神官としても有名である。
そう、迷宮武具。
イストファの持つ装備がそうであると広まってから、迷宮都市エルトリアでは迷宮武具がブームになっていた。
どの武具店に行っても迷宮武具を取り扱っているし、迷宮鉄などの迷宮金属の回収依頼も冒険者ギルドに出るようになってきた。
傭兵王の魔剣ルーンレイカー。
マグマの中に消えたはずのそれが再び世に現れたという事実は、それほどまでの衝撃があったのだ。
しかもイストファがうっかりポロリと「力を貸してもらっているだけ」などと言い放ったせいで……いや、本人は悪気はないのだ。
心の底からそう思っているし、これは「借りている力」だと鋼のような自制心を持っている。
ならば3階層では海賊王の力が何か眠っているのではないか……などといったような事を考える連中も出てきているという。
ドーマとしては海賊王が伝説通りの人物なら誰かに髪の毛一本でも渡すとは思えないのだが……まあ、それはさておこう。
別にそんなことは、ドーマの知った事ではないからだ。
そして10階層をクリアしたことで、イストファたちには指名依頼が次から次へと舞い込むようになった。
その中には断りにくいものや、明らかな罠などもあったりしたのだが……少なくとも今日はオフの日である。
だからドーマは1人でショッピングに出ていた。
他のメンバーも誘ってみようと思ったのだが、カイルがイストファを何処かに引っ張っていき、ミリィは「今日はゆっくりしたいです」と家で寝ている。
そしてクロードは、朝から何処に行ったのか行方不明である。
「まあ、皆ウィンドウショッピングにあまり興味ないっていうのもありますが……」
店先に飾られている商品や店の奥にある「おすすめ商品」を見て回るのも楽しいものがあるのだが、全員イマイチ理解してくれない。
特にカイルは「こっちに来てもらえばいいんじゃねえの……?」などと言っていたので軽く小突いてある。
なんだかんだ言っても王族思考が抜けていないのだ。
まあ、現役王族なので抜けないのが正しいのだろうけども。
「あ、ドーマさんだ!」
「ドーマさん、今日お休みですかー!?」
「こんにちは。ちょっと買い出しに来てまして」
話しかけてくる女性冒険者たちに、ドーマはにこやかにそう返す。
なんだか最近はグラディオの影響で若手冒険者が急激に増えたらしく、如何にも貴族っぽい冒険者もたまに見かけるようになっている。
「なら良かったらお手伝いさせていただけませんか⁉」
「ありがとうございます。でもごめんなさい。ちょっと色々と回らないといけないので、それに付き合わせるのは心苦しいんです」
そう、そして彼等は大抵グラディオと関わりを持ちたがる。
それ自体はイストファ曰く「いいんじゃないかな。僕だってステラさんに何度も助けられたよ」なのだが……ドーマはそうは思わない。
イストファのような性格をした人間は本当に稀だ。
普通であればステラという強力な庇護者がいればもっと頼ろうと思うし、そのつながりを笠に着るものだ。
まあ、それをしないからイストファはステラに好かれたのだろうが……こうして関わろうとしてくる彼等、あるいは彼女等がどちらかというと……というわけだ。
そして向こうもあまりしつこくしてはいけないと分かっているから、そのまま笑顔で去っていく。
「……はあ」
最近、こういう事が特に増えた。
イストファは一見騙しやすそうではあるが、騙せば「王の友人」を詐術にかけた極悪人だ。
それをやろうというアホは中々いない。
カイルは王族だ。しつこくすれば物理的に首になりかねない。
……となるとミリィかドーマか、という話になる。
クロードは屋根から中々降りないと聞いた時はズルいと思ったものだった。
「ちょっと前まではもうちょっと気軽に街歩きを楽しめたんですけどね」
有名税、というものではあるだろう。
しかしちょっと前までは自分たちに見向きもしなかっただろう連中がにこやかに話しかけてくるのは、少しばかり思うところもある。
そうしてテクテクと街を歩き、かけられる声を適当に流していき……ふらりと食堂に入る。
大通りにある、最近出来たキラキラとした感じの食堂なのだが……なんと最近王都からやってきた、有名な店の支店であるらしい。
大通りに出来たということは、何かのコネか金が動いた気配もあるが……迷宮伯から何もお達しがないので合法的な手段なのだろう。
ともかく、この店はドーマの最近のお気に入りだった。
綺麗に磨かれた店に入れば、洗練された制服のウェイターが出迎えてくれる。
「いつもご利用ありがとうございます、ドーマ様。窓際の席が空いております」
「ありがとうございます。今日のオススメをください」
「かしこまりました」
そうしてテーブルに運ばれてくるのは新鮮な生クリームをたっぷりと使ったイチゴのショートケーキだ。
地元の食材を使用しているので王都のものと味は多少違うらしいのだが……それでも口の中でシュッと溶ける軽いクリームの味は思わず笑顔になってしまう。
なんだか周囲から溜息が聞こえてくるが、今のドーマには気にならない。
「はあ……今度イストファも連れてきてあげたいですね」
きっと気にいるだろう。
そんな事を考えながら、ドーマはショートケーキを幸せそうに口に運んでいた。
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キコリの異世界譚
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