EX:好きな人の話
この話はおまけ的ストーリーになります。
思い出したように投稿してまいります。
イストファ達の家の隅に積まれた手紙の山。
日々積み重なっていくソレがカイル宛の手紙であることは全員が知っていた。
「ねえ、カイル」
「なんだ?」
「あれ、開けなくていいの?」
「あー、いいんだよ。どうせロクな内容じゃねえ」
「うーん、でも……何か用事があって送ってるんじゃないかな」
本気の目で言っているイストファに言われ、カイルは立ち上がると適当な手紙を1枚選んで戻ってくる。
立派な封筒に入った手紙には封蝋がされており、明らかに何処かの貴族からのものと分かる造りになっていた。
「こいつはビルマ伯爵家のものだ。内容は……っと」
封蝋を破り手紙を一読したカイルはすぐに嫌そうな顔になり、イストファの方へ手紙を放る。
「お茶会の誘いだってよ。くっだらねえ」
「カイルと仲良くしたい……ってことでいいのかな」
「違ぇよ。娘と婚約させてえんだよ。長々と娘自慢が書いてあるだろが」
「あ、これってそういう意味なんだ」
「おう。ったく、俺を担ぎ上げようとしやがって。そうはいかねえぞ」
「ま、仕方ありませんね。王都の一件と合わせ、カイルの評価はうなぎ登りだって話じゃないですか」
我関せずといった様子でお茶を飲んでいたドーマを睨むと、カイルは大きく溜息をつく。
「そりゃ見返してやろうとは思ってたがよ」
「じゃあ、いいじゃないですか」
「気持ち悪ぃんだよ。ゴミを見る目が媚びを売る目になりやがって。こんなに気分悪いもんだとは思わなかったぜ」
そう、カイルは大魔法士になって全員見返してやるのが目標ではあった。
しかし、実際に見返してみると「これは違うな」という気持ちになってしまったのだ。
それは恐らくだが……そこに価値がないと気付いてしまったからかもしれなかった。
「婚約だってそうだ。自分の伴侶くらい自分で選ぶから放っておけってんだ」
「王族の台詞とは思えませんね……」
「あはは……」
呆れた様子のドーマと苦笑するイストファであったが、そこでふとミリィが首を傾げる。
「自分で選ぶって。カイルはどんな人を選ぶつもりなんですか?」
「あ?」
「だって、そういう事を言うって事はカイルの中に何か許せるラインがあるってことでは?」
「あ、なるほど。確かにカイルは『婚約者が要らない』とは言ってませんね」
「え、そういうことなの?」
明らかにイストファだけが分かっていない風だが、確かにカイルの発言の意味を考えればそうなる。
明確に好みのタイプが存在していて、そういうのに満たない奴は嫌いだ、と。そう言っているに等しい。
「なら、カイルはどういう人が好みなんですか?」
「食いつくなお前……」
「だって気になるじゃないですか」
「いや、まあ。そうだなあ……」
好みのタイプとか聞かれても困る。そう思うカイルだったが……確かに好ましいと考えるラインというものはある。
「そうだなあ。まず一緒に居て楽しい事は必須だな」
「ふむふむ」
「俺にない所を補ってくれるなら、更に良い」
「まあ、そうでしょうね」
「性格は……素直だといい。疲れないからな」
「ふ、む……?」
「何より裏がないのは大事だな。ああ、ここぞって時に根性もあると」
「待った。待ってくださいカイル」
「なんだよ、ようやくノッてきたってのに」
ドーマは頭痛をこらえるような表情をすると、カイルを真正面から見据える。
「それ、総合するとイストファになるんですけど。分かってます?」
「はあ?」
「素直で裏表がなくて根性があってカイルにないところを補って、何よりカイルとウマが合う。たぶん知り合いに聞いたら10人中10人がイストファって答えると思うんですが」
「あ、ボクも途中からそうだなーって思ってました」
「いや、待て。それは絶対に違うだろ」
「違いませんよ。そうか、カイルって大人びてるようで基本は悪ガキですもんね……あと、イストファみたいな令嬢は絶対いないと思いますよ」
「誰が悪ガキだ!」
立ち上がるカイルに「そういうとこですよ」と言われてカイルは悔しそうに唸るが、カイルは思いついたように「ならお前はどうなんだよ」とドーマに投げかける。
「私ですか?」
「そうだよお前だよ。人にそれだけ言うってことは何かあるんだろうな!」
「私は理想高くないですから。好きになった人が好みです」
「ずっりいい……お前、いつからその答え用意してやがった」
「この会話を振ろうと決めた時からですが、何か?」
完全に言い負かされたカイルはミリィに視線を向け、ミリィはビクッと震える。
「ミリィ。お前はどうなんだ?」
「え? ボクですか。そうですね、ボクは……」
言いかけて、ミリィはすぐに遠くを見るような目になる。
「ボクは……ボクが男だって分かってくれる人が好みです……」
「お、おう」
「なんかすみません……」
流石にそれ以上何も言えなくて、カイルもドーマも視線を逸らして。
そのままなんとなく、流れで解散になってしまう。
イストファも自分の部屋に戻って。そこで、ふと気付く。
「そういえば僕、何も聞かれなかったような……」
聞かれても困ったが、聞かれないなら聞かれないでなんだか寂しい。
そんな不思議な気分に陥って、イストファは思わず首を傾げてしまうのだった。
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キコリの異世界譚
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