とりあえず、やってみるよ
それからも、イストファ達は罠だらけの階層を進んでいく。
転がる岩、その先の棘の生えた壁、乗ると同時に高速回転する床……これでもかという程に張り巡らされた罠は、イストファ達を確実に疲弊させていく。
しかし、その先……今、イストファ達の前に階段があった。
「おいおい、マジか……まだ守護者にも会ってねえってのに下へ行く階段があるぞ?」
「う、うん。もしかして此処も『守護者が居ない』階層なのかな?」
「そうかもしれねえが……」
この階層まで来ると、冒険者ギルドで情報を手に入れることすら出来ない。
だからこそ、カイルにも自信はない。ないが……現実として今、目の前に階段がある。
自然と全員の視線はクロードへと向いて。
「ふむ」
クロードは鉄球を階段へと放り込む。
カン、カンと音を立てながら鉄球は階段の向こうへと転がっていき……特に何かの罠が発動したような音もしない。
「……何もない、ね」
「少なくとも物理的な罠ではねえってこと、か……?」
「その可能性は高そうですが」
「いや、罠じゃろ」
アッサリと言ってのけるクロードに「えっ」という声が重なる。
「今ので何が分かったの!?」
「何がというか……ふむ。この階段、妙じゃないかの?」
「妙って……んん?」
「何か隙間があるね」
「両側に溝がありますよ。これって……」
「まあ、見とれ」
言うが早いか、クロードは階段の段に踵落としのように蹴りを繰り出し……その瞬間、階段が大きな音と共に動き、つるりとした坂のような形に変形してしまう。
溝から油のような液体まで噴き出すおまけつきだ。
「階段型の罠……性格悪すぎだろ……」
「これ引っかかったらどうなるんだろうね……」
「ロクな事態にはなりそうにないですけど」
思わずゾッとする4人だったが、クロードは楽しそうに笑う。
「まあ、普通に考えれば落ちた先で火が付くとかじゃろうのう。文字通り火葬じゃの」
「何処に笑える要素があんだよ……」
げんなりとした表情を見せるカイルだったが、すぐにこの事態のもたらす事実に気付き表情を曇らせる。
「しかし、こいつは難題だぞ。階段を見つけても本物か分からねえ。たとえ守護者っぽいものがいても、それすら罠の可能性もある」
「さっきの巨人みたいなやつだよね」
「ゴーレムな。ま、そういうことだ」
言いながら、カイルは「どうするべきか」を考える。
退路はない。進むしかないが……この状態を打破できる一手がない。
完全に消耗しきる前にどうにかしたいところではあるのだが……。
「って、おい。クロードは何処行った」
「あっちにいるけど」
階段の周囲の壁を調べていたクロードが手招きしているのを見て、全員が集まり……代表するようにイストファが口を開く。
「どうしたの? まさか、そこに何か……」
「うむ、そのまさかじゃ。こうまであからさまな罠を仕掛けるからには何かあると思うたが……ほれ」
クロードが壁の一部を押すと、そこが音をたててへこんで壁が左右へと開き始める。
「うわあ……」
「ああ、こりゃあ……なるほどなあ」
そこは天井の高い大広間……のような場所。
両脇にズラリと並んだ金属製の……まるで巨人用かと思えるような鎧。
手に剣や槍、弓などを携えるその姿は、文字通りに守護しているかのようで。
その先にあるのは、プレートのかけられた巨大な扉。
「……どうだ、読めるかイストファ?」
「読めない。たぶん、最初の扉と同じ種類の文字だと思うけど」
「あー。『死を捧げよ。さすれば開かれん』と書いてあるのう」
「死を……ねえ?」
つまり、此処でまたライバルと殺しあうか……仲間を殺せ、という意図なのだろう。
そしてどうやら、この階層には幻影人は配置されていない。
ならば、此処の本来の攻略法は……そういうことなのだろう。
「仲間を殺せばドアを開けてやる……ってか」
「絶対やだ」
「ですね」
「勿論です!」
イストファが即座に否定したのを皮切りに、ドーマが、そしてミリィが否定し……カイルが「そりゃそうだな」と締める。
「となると、あのドアを叩き壊して通るしかねえが……出来るか?」
カイルは自分の魔法でどうにかなるか考え……イストファが手元のアルスレイカーに視線を向けているのを見る。
ルーンレイカーは、先程1度解放してしまった。
この階層に来てから敵はゴーレムだけであり魔石も手に入らなかったから、再度の解放で十分な威力を発動できるかは怪しい。
「とりあえず、やってみるよ」
「いや、でもよ」
「僕には……必殺剣があるから」
そう、それであればなんとかなる可能性もあるだろうかとカイルは考える。
そもそも、誰かの死が必須の階層だというのであれば……流石にその情報は冒険者ギルドに提示されていなければおかしい。
でなければ、此処から先の階層に潜っている冒険者たちは残らず人殺しだ。
そうでないのなら……何か別の手段があるのは間違いない。
「頼むぜ、イストファ」
だからこそ、カイルはそう言ってイストファと拳を打ち合わせた。





