それに、運も良かった
光源石に照らされた暗い道は、然程広くはなく……本当に抜け道の類なのだということがよく分かる。
クロードを先頭に進むイストファ達は、ゆっくりと道を進んでいた。
「しかしまあ……此処が悪鬼の試練場の再現だってんなら、こういった隠し通路の情報とかを欲しがる奴も居るんだろうなあ」
「そうだよね。やっぱり売り出されてたりするのかな?」
「どうですかね。ダンジョンではない『本物』は劣化もするでしょうし。遺跡クラスの古さですよ?」
「だが、それでもクリアした者は居ない。最初の光弾の罠を考えても、なんらかの保存か整備の為の魔法が施されてる可能性はあるのう」
確かにその通りだと、その場の誰もが思う。
挑もうとは思わないが、悪鬼の試練場もまた世界に残る大きな謎の1つではあるのだ。
「さて、と……よし、此処を開ければ……っと」
クロードが目の前の扉を開くと、そこはちょっとした広間のような空間があった。
クロードが、カイルを背負ったドーマが、ミリィが、そしてイストファが出ると……背後で扉が勝手に閉まりガチャンと鍵のかかる音がする。
「え!?」
「ワンウェイドア、というやつじゃな。もうこちらからは開けられん」
今通ってきた場所に視線を一瞬だけ向けて、クロードは広間の隅々へと視線を向ける。
広間。そう、此処は広間に見える。ただし……円形の。
何のために用意された場所なのか。
ただ無為にこういう形をしているとは思えない。ならば、これは。
「……闘技場ってか」
「じゃろうのう」
カイルの呟きにクロードも同意し、イストファが「闘技場……?」と疑問符を浮かべる。
「闘い、技を競う場……ってな。ま、簡単に言やあ殺し合いの場所だ」
問題は何と戦うのか、だ。「悪鬼王」の性格を考えれば、ロクでもない目に合いそうだが……とカイルは思う。
そうして、カイル達が来た場所とは逆の壁が開き……そこから4人組の「人間」の姿が現れる。
無論、それは本物ではない。その黒い眼窩は……幻影人の、証。
―争え。勝った方にのみ進む権利が与えられる―
響くのは、勿論本物ではないのだろうが……「悪鬼帝」の声なのだろう。
「オレタチニ殺シ合イヲサセヨウッテノカ!」
「デモ、ヤルシカナイワ!」
「スマナイガ、死ンデモラウ……!」
「イクゾ、皆!」
魔法士らしい幻影人の放った雷撃魔法が飛来し、全員がそれを回避する。
「どうします!? いくらなんでも、この状態でカイルを放り出すのは……!」
「ドーマはそのまま! 僕とクロードでやる!」
「ふむ。まあ、それが無難じゃろうのう!」
ミリィをサポートに置けば、万が一向かってきてもミリィの呪法で時間を稼げる。
そう考えてのイストファの声に、ドーマもミリィも頷き……イストファとクロードは並んで走る。
幻影人のパーティも前衛らしき剣士と重戦士が走ってきていて、迎え撃つ格好となっている。
「それで? どっちを?」
「重戦士を!」
「承知した」
その言葉を合図にクロードの速度が上がり、重戦士の眼前まで迫る。
「ウオオオオオオオ!」
叫びながら戦斧を振り下ろす重戦士のその斧を、クロードは真正面から蹴り上げる。
「グオッ!?」
バランスを崩した重戦士の巨体を駆けあがり、クロードはニヤリと笑う。
「死ぬがよい」
打撃音と共に、輝く回し蹴りが繰り出され……重戦士の巨体が地面へと倒れこむ。
そこに落下するように繰り出されるクロードのトドメの一撃が叩きこまれ……ノイズと共に重戦士の姿が消えていく。
そして、ほぼ同時に……イストファの必殺剣が剣士の身体を深く薙ぎノイズへと変える。
だが同時にイストファを電撃魔法が襲い、その身体を弾き飛ばす。
「う、あっ……!?」
「おおっと、そっち狙いできたか」
魔法士に即座に接近したクロードは輝く手刀で一撃の下に魔法士を葬りノイズに変える。
「ふーむ。今のは本来であればカイルがサポートしていた……というところかの?」
しかしカイルは今はマトモに動けない状態だ。
そして、もう1人のサポート役であるミリィは……。
「う、ぐぐ……」
「ミリィ、そのまま押さえててください……ホーリーレイン!」
「グアアアアア!」
イストファ達が戦っている隙に接近していたトラップスミスに対処していた。
なるほど、この状況では相手の魔法士の攻撃を警告できないのも無理はない。
「おーい、イストファ。平気かのう?」
「う、うん。大丈夫……」
―勝利者は確定した。進むが良い―
「おおっと、此処に留まると2戦目を強要されかねんな」
「え、速く行かないと」
「うむ。おーい、先へ進むぞ!」
走ってくるドーマたちと共に開いた扉の先へ進むと、その背後で再び扉が閉まっていく。
「やっぱり閉まるんだね……」
「それよりイストファ、怪我は? ヒールをかけましょう」
「うん、ありがとうドーマ」
「くそっ、俺の魔力が残ってりゃあ、あんなことには……」
「ま、上手く戦った方じゃよ。それに、運も良かった」
「あ?」
「だって、そうじゃろ?」
そう、クロードはとっくに気付いていた。
扉に記されていた言葉の意味。
全ての理の破棄を許すという、その意味。
「自分たち以外は全て殺して栄光を掴め。皇帝の名においてそれを咎めぬ、と。つまり……タイミングによっては」
他の「本物」の冒険者と殺しあうことになっていたかもしれない。
そのクロードの言葉に……全員が、ゾッと血の気が引くのを感じていた。





