本当に、頼りになりますね
「いやあ、そうはいかんじゃろ」
「はあ!?」
「この先にも恐らく罠がある……流石に儂でも瞬時に判断は無理じゃ」
「ぐっ……ええい、ファイアストーム!」
カイルの放った炎の嵐が吹き荒れ、前方のスペクターたちを消していく。
「ホーリーレイン!」
続けてドーマの放つ光の雨が後方のスペクターたちに降り注ぎ消し去るが……それでもまだ、足りていない。
イストファとクロードによる攻撃も、ミリィによる呪術も……次から次へと集まるスペクターたちの前では、僅かな抵抗に過ぎない。
「くそっ、キリがねえ……!」
「どうするんです!?」
「どうもこうもねえ……奥の手を使う! 俺をしばらく守れ!」
そのカイルの言葉に、全員がカイルを中心に守る布陣に移行し……カイルは呪文を唱え始める。
呪文。それは魔法においては「欠かしてはならない」プロセスだ。
魔法という超常の現象を発動させるための、空間に描く設計図。
魔力を言葉に乗せ、世界に満たす為の導き。
それ故に、大威力の魔法であればあるほど、呪文の詠唱を欠かしてはならない。
それを理解しているからこそ、カイルはその詠唱を略そうなどとは思わない。
仲間を信頼しているからこそ、一切の焦りなく呪文を唱えていく。
そして。
「完成だ……! 粉々に、砕け散りやがれええええええ! チェインデストラクション!」
カイルの向けた杖の先。1体のファントムプリーストが爆散して消える。
そうして、僅かに動かされた杖の先、ゴーストが爆発霧散。
次、次、その次。その次へと。カイルの向けた杖の先にいるモンスターたちが次々に爆散していく。
「まだまだああああああ!」
ズドドドドドン、と連続して響く爆発音。イストファもドーマもミリィも……クロードのみ感心したような声をあげているが、彼を除く全員が驚きで思わず動きを止めてしまっている。
そうして、敵の姿が全部消えて。大量の魔石がその場に転がり落ちて……カイルも、フラリと倒れイストファに支えられる。
「……へっ、見たか俺の奥の手をよ」
「うん! 凄いよカイル!」
「ええ、本当に凄かったです……貴方、あんな魔法も使えたんですね!」
「いっつもボルト系列の魔法ばっかり使ってるからボク、あれしか範囲魔法使えないのかと!」
「……ミリィは後で覚えてろよてめぇ。見ての通り、滅茶苦茶魔力使うんだよ。今の俺だと使えば一発で魔力切れだ」
本人の言う通りカイルはぐったりとした様子で、一歩も動けそうにはない。
「どうしよう。カイルを休ませてあげたいけど……」
「休める場所があればいいんですが。この階層では難しそうですよね」
「帰還の宝珠で1度帰るのはどうでしょう?」
ミリィの意見に、イストファたちは思わず「うーん」と唸ってしまう。
確かにそれが一番安心ではある。しかし、戻って再度挑戦して同じ事態になっては意味がない。
「誰かが背負って歩けば良いのではないかのう」
「そっか。じゃあ……」
「私が背負いましょう。戦力的にそれが一番良さそうです」
そう言うとドーマはイストファからカイルを受け取り、しっかりと背負う。
「大丈夫、ドーマ? 僕がやるよ?」
「イストファは前衛です。それに今はクロードがいますし、ミリィの呪法も有効であると知れました。私がホーリーレインを撃つより効率的でしょう」
3階層で使ったようなドーマの魔法でイストファの武器に魔力を纏わせる手段も、イストファの短剣がマジックイーターに進化した今では意味がないしやる必要すらない。
戦力的には、この階層ではドーマは支援と回復役に徹するのが一番なのだ。
「そっか。じゃあ……お願いできるかな?」
「ええ。久々にヒーラーらしい仕事に徹することが出来そうですね」
「それは……なんか、ごめんね」
「ふふ、謝る必要なんてありませんよ。さあ、魔石を拾ったら行きましょう」
ドーマが促すと、クロードは頷き先の通路へと視線を向ける。
その隙にミリィとイストファは魔石を拾っていき、腰の袋へと詰めていく。
「それじゃ、確かめてみるかの……どれ、少し待っとれ」
言いながら通路に近づくと、クロードは先程と同じように鉄球を投げる。
転がっていく鉄球はそのまま奥へと転がっていき……クロードはフン、と鼻を鳴らして。
落ちていた魔石を1つ拾い上げ、振りかぶって投げる。
「あっ、何を」
するのですか、と。そう言おうとしたドーマの言葉は、飛び出してきた無数の剣のような刃の前で消え去る。
「魔力を含む物体に反応する罠、じゃの。ゴースト共には反応しない分厄介ではあるかのう?」
「ていうか、これじゃ通れませんよ」
「うむ。この道を通す気はない、ということじゃが……」
言いながらクロードは周辺の壁を叩いて回り、やがて「此処じゃな」と呟く。
そして、そこを押すと……ただの壁にしか見えなかったその場所が、扉のように開いていく。
その先には……真っ暗な道が続いている。
「暗いのう……何か明かりは持っとるか?」
「光源石ならあるよ。今は魔力切れてるけど」
「うむ、良いな。貸してくれ」
イストファから光源石を渡されたクロードが魔力を籠め、光り始めたそれを持って一歩進む。
「……うむ。良いぞ。来るといい」
「本当に、頼りになりますね……」
自分たちでは、こんな扉など発見できなかっただろう。
それを思うと、ドーマもクロードの実力を認めざるを得なかった。
Tips:呪文と詠唱
呪文を詠唱することは魔法を正しく発動する為に必要な手段である。
勿論省略することもできるし、実際カイルも幾つかの魔法では無詠唱で発動している。
しかし今回使用した「チェインデストラクション」を始めとする威力が洒落にならない「大魔法」の類では、詠唱を省略することで不具合が出る可能性がある。
ちゃんと作っていない道具がちゃんと効果を発揮しないように、ちゃんと作っていない魔法もまた、効果を保証などされないのである。





