ま、そうじゃろうのう
そして、次の日。万全の体調でダンジョン付近にやってきたイストファ達は、不思議な光景を見た。
それはちょっとした違和感。
しかし、その違和感をミリィの言葉が確信へと変える。
「あそこに飾ってある絵に描かれてる剣……なんかイストファのアレに似てません?」
「あー……」
「なるほど……」
「え? なんで?」
そう、其処に描いてあったのはルーンレイカーに似た大剣を携えた男の絵。
恐らくは傭兵王をイメージしたと思われるその絵は、あちこちの店に飾られているようだった。
そして並んでいる武具も、大剣や短剣が多いように見えた。
「ま、そうじゃろうのう」
「どういうこと?」
イストファの疑問にクロードは「つまりじゃな」と前置きする。
「何処かの誰かの活躍で、傭兵王の物語が流行し始めた……ということじゃの」
「……王都の影響だな、間違いなく」
あの場に……黒杖合わせの場に居た者の中でも耳聡い者であれば、イストファがダンジョンにしか潜っていない事はすぐに知っただろう。
追憶の幻影都市のことだって、金さえ積めばある程度の情報は手に入る。
その動きによって、更に別の誰かがその話を知り……そうして連鎖が広がっていく。
そうして生まれるのは、本人すら与り知らぬ妄想……もとい物語だ。
「つまり、なんですか。ルーンレイカーの存在が広く知られた結果、傭兵王の物語の価値が見直された……と?」
「傭兵王は元々孤児から王に成り上がった男だ。その剣を持つ奴がかなりのスピードで迷宮都市の市民にまで成り上がって王にも名を知られた。それが意味するのは……」
傭兵王の後継者。
誰かが呟いたその言葉に、イストファが慌てたようにブンブンと手を振る。
「ぼ、僕はそんなのじゃないよ⁉」
「技と剣を受け継いだとこまでは事実だろ」
「それは……そうかもだけど」
そう、つまりこれは……イストファが起こしたブームであるとも言える。
「現代に蘇った傭兵王伝説! かの傭兵王が魔剣を手に入れる前に使っていたとされる剣を再現した逸品だ!」
「かの傭兵王の後継者とされる人物も使ってる短剣! 取り回しも良くて副武器に最適だ!」
ワイワイと騒がしい露天商たちだが……そんな彼等の売り文句に足を止めて見ている冒険者もいるあたり、さほど的外れな商売でもないのだろう。
「……しばらく6階層は騒がしくなりそうだな」
それなりに深い階層であるだけに、新規の流入者はさほど多くはないだろう。
しかし奮起して進んだ冒険者だけではなく、既存の6階層に居る冒険者たちへの依頼も多くなるだろう。
……もっとも、あの階層に再びノーツが現れるとは、イストファたちには思えなかったのだが。
「けど、別に『傭兵王の後継者』とやらが誰であるかまで知っているわけではなさそうですね」
「情報の断片が出回ってるんだろうよ」
ま、いいことだとカイルは呟く。下手に顔が広まっても余計な騒ぎにしかなりはしない。
今の隙に9階層まで飛んでしまうのが、かしこい選択肢であるのは間違いなかった。
そして、9階層まで移動したイストファたちは……再び、目の前の金属扉を見上げる。
「なるほど、悪鬼の試練場。これは確かにトラップスミスが必要じゃのう」
「そういうこった。お前、ちゃんと出来るんだろうな」
「さて? 未だ踏破を許さぬ凶悪な罠が山のようにあると聞くが……ふむ」
クロードは巨大な扉に近づくとジロジロと眺めまわし……やがて、納得したように頷く。
「下がっとれ」
身体に魔力の輝きを纏ったクロードが、巨大なドアを蹴り開け……その瞬間に、開いた扉の向こうから人の頭よりも巨大な光弾が放たれ迫る。
「クロード!」
「せぃあっ!」
破裂音と共に、クロードの輝き纏う拳が光弾を打ち砕く。
それは文字通りの消滅であり……クロードはそのまま扉の奥へ進むと何かに触れ、手招きをする。
「ほれ、問題ないぞ。こっちに来るがええ」
「え、ええ……?」
「何ですか今の……」
「見たまんまだ。拳に纏った魔力で魔力弾……と思わしきものを砕いたんだ」
理屈としてはカイルにも十分に理解できる。
魔法を魔法で迎撃するのと何も変わらない。
しかし、目の前で「それ」をされると驚いてしまう。
「これ、何……?」
「うむ。いわゆる光弾の罠じゃな。あの無駄にデカくて重い扉は、開けるエネルギーを利用する為のものだった……ということじゃの」
「罠の解除って、こういうのじゃねえだろ……」
「といってものう。こりゃ最初に1人を確実にぶち殺す為の罠じゃろ? 正面から破るしかあるまい」
これが最初の試練だとでも言いたいのか……実に悪辣な仕掛けであるのは間違いない。
「……やっぱり初見で撤退して正解だな」
4人だけの状況ではイストファが扉を開けることになっただろうが……相変わらず魔法に対する抵抗力がゼロのまま、対抗手段がアルスレイカーのみのイストファでは、どうなったか分からない。
「ま、心配は要らんよ。儂が居るからの」
「うん、頼りにしてるよクロード」
「クク、期待には応えたいのう?」
Tips:人気の英雄、冒険者と同じタイプの武器は流行る。どの時代、どの業界でも変わらない1つの真理。であるが故に剣は流れの商人にとって「外れない」商材であり続けている。





