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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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オッサンのことは信用してるさ

 次の日。フリート武具店に行ったイストファ達を迎えたのは、店の前で手を振るケイだった。


「あ、イストファ君! それに皆も! おはよう!」

「おはようございます」

「おーう、おはよう」

「はい、おはようございます」

「おはようです」


 それぞれの挨拶に頷き、ケイはイストファ達を店の中へと招き入れる。


「昨日の件、お父さんにも話してみてね。そしたら」

「お、来たかガキども。昨日言ってたっつーやつだがな」

「もう、お父さん! 今は私が説明してるの!」

「うお!? お、おう」


 思わず一歩引いてしまうフリートだったが、すぐに軽く咳払いする。


「まあ、いい。じゃあ説明してやれ。で、イストファ。お前はちょっとこっちに」

「お父さん!」

「あー、分かった分かった!」


 パタパタと手を振るフリートにケイは荒く息を吐きながらも、イストファ達に笑顔を向ける。


「えーと。それで、ね? 早速お父さんが鍛冶師仲間を通して心当たりを探してくれたの」

「うわあ、ありがとうございますフリートさん!」

「やるじゃねえかオッサン」

「おう」


 頷くフリートだったが……「だがな」とその言葉を引き継ぐ。


「正直に言って、結果は芳しくねえ」

「そうなんですか?」

「おう。なんつーかな……んー……」


 珍しく歯切れの悪いフリートに、イストファは首を傾げてしまう。


「えっと……何かあったんですか?」

「あったっていうかな。まあ、なんだ。平たく言うと『危ないんじゃねえか』って話になった」

「危ない?」

「おう。あー、その前に。イストファ、市民になったんだってな。おめでとう」

「はい! ありがとうございます!」

「正直、驚きの成り上がりっぷりだが……そう思うのは俺だけじゃねえって話だ」


 フリートのそんな言葉に、カイルが苦虫を噛み潰したかのような顔で「そういうことか」と唸る。


「そういうことって……あっ」

「え? どういうことですか?」


 理解した表情のドーマとは違い、ミリィは理解できないといった風で……イストファも同様だ。


「分かったの、カイル?」

「おう、これ以上ないほどにな。つまり……募集すれば『来すぎる』ってことだな?」

「そういうこった」


 頷くフリートに、カイルは大きく……深く溜息をつく。


「そうか、そうだな……俺等はちょっと目立ちすぎてる」


 何しろ、5階層ではミノタウロスを倒し……王都でもイストファが『王の友人』になり、色々あって迷宮都市エルトリアでの市民権も手に入れて家までゲットした。

 更に言えば、第8階層をクリアした。

 そんなパーティが今、第9階層を進む為の仲間を求めている。

 それが知れ渡ればどうなるか……?


「ど、どうなるの?」

「ロクでもねえ連中がどっさり来る可能性もある。つーかロクでもねえ連中しか来ない可能性がある」

「え、ええ……?」

「そういうことですね……失敗しました。もっと早めにトラップスミスをスカウトしておくべきでした」


 イストファ達の今の状態を端的に言うのであれば「快進撃を続ける大型新人パーティ」だ。

 そうしたイストファ達を利用したいと考える者も当然出るし、ステラが街を離れたこともマイナス材料として働くだろう。

 つまり……非常に新しい仲間をスカウトしにくい状況なのだ。


「でも、そんな状況だからこそとれる手段もあるんだよ!」


 唸るイストファ達に、ケイはそう言ってグッと拳を握る。


「どんな手段なんですか?」

「うん。それはね……うちの店のお客さんから『これは』っていう人を推薦するの!」

「ま、今のところフリーの奴はいねえがな。それでも普通に募集するよりゃ、アホを弾ける可能性は上がる」


 そう、フリートというクッションを挟み、一般には話を持って行かない。

 これもまた良い人材を手に入れるための手段の1つだ。

 余程店と客の間に信頼関係がなければ、このような手段は提案すらされないだろう。


「どうだ? お前らが俺の目を信じられるっつーなら、そういう方向で進めるが」

「是非お願いします!」

「お、おう」


 即答するイストファにフリートは頷くが、すぐに「いいのか?」とカイル達に視線を向けて。


「ま、オッサンのことは信用してるさ」

「そうですね。フリートさんの目は信用できます」

「えーと、皆が言うならボクも賛成です」

「……そうかい」


 少し照れたように答えると、フリートは深く息を吐く。


「まあ、そう言われちゃやるしかねえが……基本的に腕の良いトラップスミスっつーのは結構年いってる奴が多いんだよなあ」

「だろうな」

「おう。ありゃ戦闘職とは違って完全に技術職だからな。相応に修行をして現場で腕を磨いて、そうやってベテランになる。つまり……」

「僕達よりずっと年上になるってことですよね」

「普通はな。腕が劣ってもいいなら同じ年代の奴は幾らでもいるだろうが……」


 言いながら、フリートはイストファに視線を向ける。


「突然トラップスミスを探すってこたあ、それがなきゃダメな状況ってことだ。そんな時に半端なトラップスミスを紹介してもな……」

「年上だと何か問題なんですか?」

「問題っつーかなあ……」


 言いにくそうにフリートは顎をさすり……イストファ達を見回す。


「……話が合わねえだろう」

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