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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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ステラっつー傘の巨大さ

「とりあえず俺は……そうだな、焼き魚の定食だ」

「私は、肉野菜炒めの定食で」

「ボクは……んー……ハム野菜サンドのセットで」

「じゃあ僕は……今日のオススメで」

「はい、了解。皆未成年だから飲み物は果実ジュースでいいね?」


 言いながら料金を受け取って去っていく給仕を見送って、ドーマは小さく唸る。


「……そりゃあ見た目通りではあるでしょうけど、アレは私達の年齢情報まで共有してますよね?」

「ま、基本情報は冒険者ギルドに幾らでも照会できるからな。当然、市民みてえな身許の確かな奴に限るがな」

「でもアレって偽名でも登録できるよね……?」


 言いながらイストファはチラリとミリィを見る。

 そう、ミリィの名前は偽名だ。偽名だが……それで冒険者ギルドに登録できてしまっている。


「そもそも名前なんざ、市民以上の奴の以外はたいした問題じゃねえんだよ」

「そうなの?」

「ああ。そもそもヒューマンにエルフ、獣人にドワーフ……人間種族は空の星かって程いるのに、そんなもんをどっかで一元管理できるとでも思うのか?」

「難しいでしょうね……今いる人類を紙に記録するだけで何十年かかるか。増減を繰り返すそれを永遠にともなれば……」

「無理ですよ、そんなの」

「そういうこった。冒険者としての身分だって、紙に記した程度のもん……それも支部ごとの管理だ。余程の事がなきゃ共有なんざしねえ」


 そう、言ってみれば「誰でも登録できる」冒険者ギルドの登録情報など、偽名で当たり前程度のものでしかない。

 その何よりの証拠がミリィであり……そしてカイルだ。

 ちなみにミリィはその偽名であるはずの「ミリィ」の名前で市民登録されているし、カイルも「王族カイラス・フィラード」と「冒険者であり迷宮都市エルトリアの市民カイル」の2つの身分が登録されていたりするのだが……それはさておき。


「もっと言えば、市民登録だって街ごとのものだ。このエルトリアは迷宮伯直下の迷宮都市だから無くなるなんてこたぁねえが、小さな街程度だと何らかの事情で街が消えたら一気に身分無しだ」

「もっとそういうの、どうにかならないのかな」

「方法はあるぞ」

「え?」

「国にとって重要な人物は、国の名簿に記録される。たとえばそう、『王の友人』とか……な」


 言いながらカイルはイストファを見る。

 イストファがカイルの父である王の友人と認定されたことは、カイルも知っている。

 それはイストファが想像している以上に大きなことであり、イストファの名前は国管理の名簿にすでに記載されているはずだ。

 恐らくだが……遠からず、国発行の身分証がイストファの下に届くはずだ。

 迷宮伯がイストファに市民権と家を与えたのはその手続きをスムーズにする狙いもあるだろうとカイルは見ていた。

 迷宮伯なんてものに任命されるのは、国に尽くした忠義の者達だ。たかが恩賞だの唾つけだので「そういうこと」をやる程、彼等は単純ではない。

 まあ、その辺はステラが気付いていないはずもない。当然脅しただろうが……そのステラがイストファの庇護から外れている以上、それが何処まで効き目のある魔除けになっているかは不明だ。


「……はあー……」

「ど、どうしたのカイル」

「いや。ステラっつー傘の巨大さを改めて思い知ってるところだ」


 居なくなってみると分かるが、ステラという存在はとんでもない抑止力だった。

 それが離れた以上、今がチャンスと寄ってくる輩は増えてくるだろう。

 ステラがイストファを王都に連れて行ったのは、文字通りにその辺りを学ばせるために違いなかった。


「とにかく、俺等が話題の新人パーティなんぞと街で共有されてる以上はそれを聞きつける奴等も当然現れる」

「そう、だね?」

「分かってねえな……俺等を利用しようとする連中が出てくるって言ってんだよ」

「利用……でも僕達、悪い事なんて絶対しないよね」

「ああ、そういう理解になるのか」


 相も変わらず根が善人であるが故に「利用」を「犯罪的利用」にしか思いつかないらしいとカイルは頭痛をこらえる。

 それがイストファの良いところであるのは百も承知だが、もっと人の悪意とは多種多様だ。


「えーとですね、つまりカイルは『私達の友人なり仲間なりを名乗って自分の名を楽に上げよう』とか『有名度を何か利用してやろう』とか、そういうのを警戒してるんですよ」

「う、そうなのか。難しいね」

「仲間探しにも影響が当然出るでしょうね……」


 困ったように言うドーマに、ミリィも頷く。


「よっぽどの悪人であれば分かると思いますけど……」

「え、そうなの?」

「はい。ボクも呪法士として成長してますから。大量殺人鬼とかなら呪いじみたものが染みついてますから一発で分かるんじゃないかと」

「そういうのはちょっと……」

「そうですよ。それにその手のは神殿で祝福を受ければ剥がれちゃうかもでしょう?」

「まあ、そういうのはともかくだ」


 ズレはじめた話を引き戻すと、カイルは机を指で軽く叩く。


「飯が来たみたいだから食うぞ」

「お話終わった? お待ちどう!」


 そうして置かれたのは、山のように盛られた各種の定食。


「……ええっと?」

「うちからの初回サービス。これからもご贔屓にね!」

「だからって魚3尾はねえだろ……」

「肉の量がかなりあるんですけど……」

「サンドイッチが塔みたいに……」

「僕の、ハンバーグが凄い分厚い……」


 流石に食べきれずに包んでもらったイストファ達ではあったが……ともかく、そうして夜は更けていくのだった。

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