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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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大丈夫だと、思うけどなあ

「お……動く、動くぞ!」


 ゆっくりと身体を持ち上げたカニの巨獣は……その足を動かし、「前」へと歩き始める。


「はあ⁉ そっちに動くのかよ!」

「え? 何かおかしいの?」

「普通では?」

「そうですよ、カイル」

「カニは普通は横移動なんだよ!」


 叫ぶカイルに、イストファ達は顔を見合わせ……代表するようにイストファが口を開く。


「でも、巨獣だし……」

「そうですよ。普通の生き物と違って当然じゃないですか」

「そもそもカニって横に歩くんですか?」

「くそっ、料理でしかカニを知らねえとこうなるのか……!」


 カイルは頭を抱えるが……やがて足を動かしてゆっくりと振り向き別方向へと移動を始めるカニの巨獣の上で考えるように顎に指をあてる。

 

 思ったよりも安定感がある。まず思ったのはそれだ。

 移動していても、上に乗っている者に振動がほとんどこない。

 別にカニ巨獣自身にそうした意識があるとは微塵も思わないが、騎乗に非常に向いている。

 そして……これは「恐らく」のレベルではあるが、このカニ巨獣の移動には恐らく法則性がある。


「……日の下では活動しないのか?」

「このカニが?」

「ああ。どういう理由かは知らねえが、こいつは本来の生息地から離れて此処まで移動してきてる。で、日の出ている間は岩みてえに動かなくなる。それについては……体力の消耗を防ぐとか、そんな感じか?」


 もしそうだとすればどうしてこんな場所まで移動してきているのかという疑問は残るが……それはさておこう。とにかく、法則性があるのなら答えは1つだ。


「ワーウルフはこのカニ巨獣に乗ってきたと見て間違いねえだろうな」

「でも、そうだとすると……これに乗っていくのって、ワーウルフの仲間のところに行くってことじゃない?」

「可能性はあるな。だが、このままジリ貧よりは大分マシだ」

「そっか……」


 頷くイストファだが、カイルとしては当然心配事が解消したわけではない。

 このカニ巨獣にワーウルフが乗ってきたことまでは間違いない。

 だが、このカニ巨獣に乗るのが正解とは限らない。

 そもそもの話、夜行性の巨獣がいるならば……それがカニ巨獣だけとも限らない。


「カイル! 前!」

「な、なんだありゃ!?」


 カニ巨獣の前方に、巨大な何かがある。いや……居る。

 巨大な薔薇と蔓が複雑に絡み合ったような、そんな何か。


「植物の巨獣……!?」

「こっちを狙ってますよ!」


 カイルは素早く炎の魔法を唱えようとするが……カニ巨獣が突然スピードを上げたことで、バランスを崩しイストファに助けられる。


「大丈夫⁉」

「あ、あっぶねえ……!」

「カニが突然……って!」

「ハサミを⁉」


 驚く全員の前で、カニ巨獣はハサミを振り上げ速度を上げていく。対して進路に塞がっている薔薇巨獣はカニ巨獣へと蔓を高速で伸ばし……しかし、その全てをカニ巨獣のハサミが切り払う。


「うお⁉」

「速い……!」


 次の瞬間には、薔薇巨獣はその巨体をゾン、という凄まじい音を立てて両断されている。

 地面に転がった薔薇巨獣の死骸からは魔石が転がり落ち……カニ巨獣はそれをハサミで拾い上げると口に運びボリボリとかみ砕き咀嚼してしまう。


「……魔石っつーのはダンジョン内だけのもんで、自然には存在しないはずなんだが……」

「適応してるってこと?」

「たぶんだがな。分かってはいたが、単純にガルファングの再現だと思うと痛い目に合うな……」


 巨獣同士で殺しあい喰らいあう。それ自体は本物のガルファングでもあることだろう。

 だが本物のガルファングに魔石は存在しないはずであり、けれども魔石をカニ巨獣は当然のように喰らった。それは、この階層で新たなルールが存在しているという証明に他ならない。


「3人とも、間違ってもこのカニ巨獣の機嫌を損ねるんじゃねえぞ……こいつ、『本物』よりも強ぇ巨獣になってる可能性がある」


 先程薔薇巨獣を葬った動きなどは、その何よりの証明でもある。

 このカニ巨獣は……他の巨獣を葬ることに、慣れている。

 そんなカニ巨獣が今のカイル達をどうにかしようと思えば……結果は火を見るより明らかだ。


「大丈夫だと、思うけどなあ」

「何がだよ」


 だからこそ、イストファのそんな言葉がカイルは理解できなかった。


「たぶんだけど……このカニ巨獣は、他の巨獣よりも穏やかだと思う」

「はあ?」

「ごめんなさい、イストファ。その感覚は私にはちょっと……」

「ボクも分かんないです」

「だってさ」


 言いながらイストファは、カニ巨獣の甲羅を軽く撫でる。


「このカニ巨獣、僕達が乗ってる事に気付いてるのに放置してくれてるし」

「なっ」

「動き始める前、目がこっちを見たから。どうでもいいと思ってるのかもしれないけど」


 それを聞いて、イストファ以外の全員がゾッとする。

 そんな事は気付きもしなかった。動き始めた事に驚き過ぎていたからだ。

 だが、そうなると……多少話が違ってくる。


「そうか。俺達は許容されてるのか。だとすると……共生関係ってことか? だが何だ? ワーウルフ同様と見做されてるとして……連中は何をコレに提供してる?」

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