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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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271/332

俺達が探すべきだったのは

新連載始めました。

よろしくお願いいたします

 そうやってイストファが人知れず苦労している頃。カイルもまた、頭を悩ませていた。

 彼の居る机の上に積まれているのは、様々な本。どれもガルファングについてのものばかりだ。

 ステラの言っていたヒントはそのままで考えるなら「刺激しないように通り抜ける」だ。

 だが、よくよく考えてみればそんなものは試しているのだ。それでも追ってくるから困っている。

 とはいえ、適当な事を言ったとも思えず……そのヒントをカイルは本に求めていた。


「あー……どれもこれも似たような事しか書いてねえ……」


 読んでいた本を閉じると、カイルは目元を軽く揉む。

 巨獣大陸ガルファングについての本は、数だけは多くある。

 しかし研究がほとんど進んでいないせいか、突っ込んだ内容はほとんど存在しない。

 大体が「と思われる」とか「と予想するが」ばかりで、実例は過去の同一のものばかりだ。


「無駄足だったか……? だがなあ……」


 此処にないなら、きっと世界の何処にも詳しい知識はないだろう。

 溜息をつきながら伸びをして……カイルは、別の本に手を伸ばす。

 タイトルの「ガルファング考」を目にして、すぐに嫌そうな顔になる。


「これも今までのパターンでいうと妄想本だよな……だが読む前に切り捨てるのもなあ」


 言いながら本を捲り、最初の一文に「うっ」と声をあげる。


「世界に残されたロマンの1つ、ガルファングに私が魅せられてより……えーと? 生物学の観点から巨獣達の生態を考察し……くそっ、期待させる書き方じゃねえか……!」


 読み進め、やがてその顔が失望に染まり……本を閉じてカイルは机に上半身を投げ出す。


「だああああ……何が巨獣は気が優しいだ。仮に本物がそうだったとしても何の役にもたたねえじゃねえか!」

「ど、どうしたの?」

「……イストファか」


 身体を起こすことすらせずにカイルは声だけで判断し、「どうもこうもねえよ」と返す。


「本が役に立たねえって話だよ。結局巨獣の生態は過去に確認された事例だけで皆考えてるんだ。新しい情報なんざ何一つとしてねえ」

「そっか。まあ、明らかに危険そうだものね」

「ああ。巨獣共は勿論、気候も人間が住めるような環境とは思えねえ。研究が進まないのも仕方ねえとはいえるか……」


 諦めムードになりつつあったカイルの横に座ったイストファは手近な本を捲り、内容が理解できなくてすぐに閉じる。


「そういえばさ、カイル」

「なんだよ」

「僕、ちょっと思ったんだけど……」

「おう」

「巨獣って……モンスターなのかな?」


 言われてカイルは数瞬の間黙り込み……やがて「ん?」と声をあげ起き上がる。


「おい、今なんて言った」

「え? いや。巨獣ってモンスターなのかなって」

「……! ちょっと待て!」


 カイルは慌てたように立ち上がると本棚に向かい、そこから一冊の本を抜き出す。


「モンスターの生態についての考察……モンスターと獣との差異……それは、他の生き物への敵意の有無……暴力性……!」

「何か分かったの!?」

「ああ、やるじゃねえかイストファ。それだよ! 俺達が調べるべきだったのはガルファングの生き物の生態じゃねえ……あの階層をどう抜けるかだけだったんだ!」

「え、あ、うん。それはそうだけど」

「あの階層がガルファングの再現だとして、本来の巨獣共がモンスターじゃなくて獣だっていうのなら……こんな調べものには、何の意味もねえってこった」

「ええ!?」


 そう、そうだ。思えばヒントは最初から出ていたのだ。

 追憶の幻影都市の幻影人。あれらは自然界には存在しないモンスターだ。

 あくまで過去の再現であり、その結果としてモンスターとなった代物。

 つまり、あの巨獣達も本来はどうであれ……ダンジョンにいるのはモンスターなのだ。

 そう考えると、ステラの言っていた事の意味もさらに明確になってくる。

 そう、「生態」など最初から何の意味もなかったのだ。


「俺達が探すべきだったのは、海洋研究者ウルスの記録。それと……生き残った連中の残した記録だ」

「え、えっと……ごめん。どういうこと?」

「幻影人で分かっただろ? 再現系のモンスターは元の生き物と似た行動をする。つまり……ガルファングから生きて逃げ出した連中がとった手段を再現すれば、あの階層を抜けられる可能性は限りなく高まる……ってことだ。偉大なる先輩方のお墨付きの方法なんだからな」


 どうやっても小さな生き物で大きな生き物に勝つのは難しい。

 となると、やるべき事は「勝つ方法」ではなく「逃げる方法」を探すこと。

 その実績を……確かな過去を見つけることだ。

 それさえ出来れば……階層を抜ける手段を見つけることも難しくないだろう。


「手掛かりは2つ! 『生き物としての根本的なところは同じ』、それと『明らかに刺してきそうな虫を見たら警戒する』だ! つまり……武装を所持してないか失くした状態で、連中に『気付かれなかった』か『逃げ出せた』エピソードだ!」

「ど、どうやって探せばいいの⁉」

「難しいこたあ無え! この本の中からそれっぽいのを抜き出せイストファ! 失敗談も含めて探すんだ!」

「うん!」

「ったく、分かりにくいヒント出しやがって! 俺が大天才じゃなかったら勘違いしてんぞ⁉」


 こうして、2人の資料探索は始まり、イストファ達は次から次へと本に目を通していく。


(いや……待てよ。わざわざあのタイミングであんなヒントを出した理由……)


 その最中、カイルはふと手を止めてステラのセリフを思い返す。

 あの時あのまま突撃していたら失敗していたに違いないだろう内容の助言。

 わざわざそんなものを「あのタイミング」で出した理由は。


(……王都で俺達がガルファングについて調べるのを見越して、か? そんでもって、俺達が……いや、俺が気付くかどうかを試してた?)


 イストファにそれに気づけというのは無茶だろうとカイルは思う。

 良くも悪くも純粋で素直で、「裏」というものを読む能力が少しばかり欠けている。

 特にステラからの助言となれば、真正面から受け止めるのが目に見えている。

 それでも、そんな回りくどい助言をしてカイルを試したということは。


「あ、あんにゃろう……『お前がイストファの代わりに頭使え』って意味か?」

「え? 突然どうしたのカイル?」

「なんでもねえよ! くそっ、言われるまでもなく乗ってやらあ……だがイストファの隣にお前の席が残ってると思うなよ……⁉」

「え、あるよ? 席」

「椅子の話じゃねえんだよ! いいから資料探せ!」


そうして異常なほどのやる気を見せたカイルと、それにあてられたイストファだったが……そんな彼らを探しに来たドーマやミリィが2人を見つけた時、黙々と本を読み続けるイストファと体力切れで寝かされたカイルを見つけるまで続いていたのだった。

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