それがお前の為だ
そして4人は城を出て、王都の街中へと出てきていた。
迷宮都市であるエルトリアと違い都市計画に伴う区画整理がキッチリとされている王都の街中は美しく、売っている品物は恐らく厳選されたのであろうものばかりだ。
「うわ、凄いですねコレ……魔法のかかったナイフですよ」
「ダンジョンのドロップ品じゃねえな。どっかの魔法士が魔法をかけたんじゃねえか?」
「こっちの杖は何でしょうね? なんかキラキラしてますけど」
「あ、書いてあるよ。えーと……キラキラ光る杖だって」
「馬鹿にしてんのか」
イストファ達がいる魔道具店も全国から集めた様々な品が並んでおり、その多くは見た目が美しい品ばかりだった。
しかしまあ、芸術的価値を追及すれば当然性能はおざなりになるわけで……あまり性能の良い品は店先には並んでいない。
「お、見ろよ。あっちの奥にあるドレス。ありゃミリィが着てるやつの上位互換じゃねえか?」
「ほんとだ……結構な魔力を感じますね」
「え、ちょっとカイル? ドーマも……え、まさか」
「おい店主。あのドレスを」
「やめてー!? イストファ、2人を止めてください!」
「え、あ、うん。2人とも、ミリィも嫌がってるしそのくらいで……」
そんな一幕もあったりはしたが……それはともかく。
「んー……久々に王都に来ると、それなりの発見があるな」
「ええ、そうですね」
「結局買ったし……2人ともボクをどうしたいんですか……」
「まあまあ……ほら、着なきゃいいんだし……」
宥めるイストファに、壁に寄りかかっていたミリィは遠い目をしながら呟く。
「……最近ね、趣味がちょっと変わってきてるのを感じるんです……ボクは何処に向かってるんだろう……」
「ていうかだな、マジな話で言うと意味はあるんだぞ」
「……カイルの趣味的な話でですか?」
ちょっとやさぐれているミリィにカイルは「ちげぇよ」と答える。
「呪法ってのはな、魔法とは異なる体系の技なわけだが……その最大の特徴は『境界を侵す』ところにある」
「境界を……?」
疑問符を浮かべるイストファに、カイルは頷いてみせる。
「分かりやすく言うと、呪法っていうのは世界じゃなく他者に干渉する技だ。この際、自己と他者を繋げるところも特徴だが……これはつまり、自分と他人の境界を曖昧にして、支配下に置くことも意味している」
「……ごめん。全然分かりやすくないんだけど」
「まあ、いいから最後まで聞け。自分と他人との境界を曖昧にするっていうのは当然だが普通の事じゃない。何処かで『自分』ってものを曖昧にしなきゃ、呪法はその真の効果を発揮しない……らしい。それで呪法士達がどうするかっていうと……分かるだろ?」
つまり男装したり女装したりする。そうすることで、自分自身の境界を曖昧にしているのだ。
「えっと……そうなの?」
「ボクも初めて聞きました……」
イストファの問いにミリィは首を横に振り、カイルは小さく笑う。
「だろうな。ま、俺は天才だから知ってるわけだが……呪法士の中には意識を曖昧にして夢と現実の間を彷徨う奴もいるらしいが、そんなのはアレだろ?」
「それは、まあ……」
「呪法士である以上、避けられない部分なんだ。お前はすでに呪神に目をつけられてるんだしな」
ドーマが迷宮武具の神ニールシャンテから魔法や信託を授かっているように、ミリィも呪神と呼ばれる神から呪法を授かっている。それは、今更変えようのない部分だ。
「それにどうせ、今後容姿はあまり変わらねえんだ。然程心配することもねえさ」
「……え?」
「ん?」
ミリィの反応に、カイルも声をあげる。その驚いたようなミリィの顔に、カイルは全てを察して「あー……」と呟く。
「そっか、それも知らねえのか。呪法士はな、そうなった時点から見た目がほとんど変わらねえんだよ。常若の祝福とも呼ばれてるが……羨まれたり疎まれたりする原因の1つだな」
不老というわけではないので普通に寿命で死ぬが、それでも一般人にとっては羨ましいものであることに違いはない。一時期、呪いで他者の若さを吸い取っているなどという嫉妬混じりの噂が流れたこともあった。
「ま、そういうこった。そういうわけだから、出来るだけ良いもの着とけ。それがお前の為だ」
「……そうなんですか……」
言いながら、ミリィは自分の服に触れる。もうすっかり着るのも慣れた服だが、まさかそんな意味があるとは思わなかったのだ。
「……なんでボク、呪法士なんでしょうね?」
「俺に聞かれてもなあ……」
聞かれても、分かるはずもない。
あえて言うなら……そういう運命、だったのかもしれない。





