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金貨1枚で変わる冒険者生活  作者: 天野ハザマ


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私、もう飽きたんだけど

 そして、その頃。騎士団が訓練をする為の練兵場には、赤い鎧の騎士達が死屍累々……勿論生きてはいるが、ボコボコにされて倒れていた。


「で? まだやるの? 私、もう飽きたんだけど」

「ぐ、くう……!」


 それを成した人物……ステラがアクビなどをしているのを見て、ヘンドリクソンは悔しそうに唸る。

 傍らに立つ紅槍騎士団長に視線を向けると、顔を真っ青にするが……嫌とは言えないのだろう、紅槍騎士団長は練兵場に降り訓練用剣を構える。


「……紅槍騎士団長、アーカムだ。お相手仕る」

「あっそ。興味ないからかかってきなさいよ」

「ぐっ……! その傲慢、後悔するぞ!」

「はいはい」


 手の中で訓練用の小剣をプラプラさせているステラは、アーカムを見てすらいない。

 完全にナメられている。それを感じ取ったアーカムは、呼吸を整え……自分に何かの魔法をかけると、一気に間合いを詰める。


「ぜやああああああ! 受けよ、ハルム流の奥義を!」


 王都でも有名なハルム流剣術。アーカムはその達人であり、それ故に紅槍騎士の中でも一の実力を誇ってもいる。

 特にハルム流剣術の特徴は魔法をも併用した実践派剣術であり、極めれば一流の戦士と成り得る。

 その奥義ともなれば当然、モンスター相手でも必殺となる技だ。それをアーカムは温存することなく初手から繰り出して。


「うっさいバーカ」


 不可視の剣閃とも呼ばれるその奥義をアッサリ見極められ、剣先を指で掴まれる。


「なあっ……!? 馬鹿な! ハルム流の奥義だぞ!? 発動すれば見極めること能わず、と言われし……!」

「だからさあ。今から何出すとか宣言すれば分かるに決まってるでしょ」

「く……!」

「ていうか見極められないのは修行が足りないからじゃないの? それに言っとくけどその技、私は開祖のを初手で破ってボコボコにしたわよ? そこから全く進歩がないんだけど」

「はあ!? か、開祖!?」

「その時にも言ったんだけどさあ……」

「ま、待て! 待ってくれ! まさか貴様……いや、貴方は……!」

「小手先の技に頼るんじゃないわよ、このカス。ぶっ殺すわよ?」

「げふあっ!」


 見ていたヘンドリクソンには、何が起こったか全く理解できない。

 気が付けばアーカムの剣が宙を舞い、顔面をヘコませながら縦回転で吹っ飛んでいた。

 

「ぐ、ぐふぉ……け、剣の……女神……」

「うわキモッ……それ弟子に伝えてんの? 人を崇める暇があるなら鍛錬しろって言ったのになあ……」


 死ぬまで治らなかったのねー、などと言っているステラに何も言い返すことなくアーカムは気絶し……ステラは大きな溜息をつく。


「これだから型に嵌った奴は嫌いなのよね。同じ人間量産してどうしようってのよ」


 無論、ステラが言っているのは極論だ。

 剣術に限らず武術とは研鑽された果ての勝利への方程式であり、それを学ぶ事で人は強くなれる。

 言わば後世への道標であり、だからこそ武術には価値がある。

 しかし同時に、ステラからすればコピー品を量産する鋳造技術にしか見えない。

 進化を無くした時点で、それはゴミ同然でしかないのだ。


「それで? もう1回聞くけど……まだやるの?」

「うう……うううううう! 何故だ!」

「何がよ」

 

 叫ぶヘンドリクソンに、ステラは冷めた口調で返す。


「何故お前のような奴がカイラスに味方する! どう考えても俺の方が王に相応しいだろう!」

「うーわ、くだらなっ」

「貴様! くだらないだと!?」

「くだらないわよ。私、そういうの興味ないのよね。そもそも、貴方の弟に味方してるわけでもないし」


 カイルはステラにとってイストファの友人ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない。

 イストファとの繋がりがなければ、気にもしていなかっただろう少年だ。

 しかし、それをどう勘違いしたのか……ヘンドリクソンは「ならば!」と声をあげる。


「ならば、俺につけ! 貴様の望みは何でも叶えてやる!」

「嫌に決まってるじゃない。何言ってんの? 馬鹿なんじゃない?」

「ぐっ」

「ぐっ、じゃないのよ。貴方みたいなアホが尽きないから王都を出たっていうのに。いい? 私はアホに興味はないの。その腐った魂を取り換えてから出直しなさい」


 散々な言い様だが、仕方ないとも言える。

 ステラにとって、ヘンドリクソンはその辺に落ちている小石より価値がない。

 だがそれはヘンドリクソンにとっては当然のように侮辱であり……だからこそ、言ってしまう。


「く、くく……そんな事を言っていいのか?」

「何がよ」

「貴様が弟子をとっている事は調べがついている。あの茶髪の……なんといったかな。あいつに今後」


 言い終わるよりも先に、ヘンドリクソンの立っている場所の近くを光線が通り過ぎる。

 文字通りの大穴が開いたその場所を見てヘンドリクソンは「ひっ」と悲鳴をあげる。

 ステラがヘンドリクソンに向けているのは、指一本。

 詠唱もなく杖もなく、何より僅かな魔力集中の気配すらなかった。だというのに、この威力は。


「……その先、言ってもいいけど。その場合、貴方に『今後』なんてものがあるとは思えないわね」

「ま、待て! 俺の話を」

「あ、やっぱいいわ。今此処で体に教え込んどいてあげる」


 巻き起こる爆発。城下からも見えるほどに吹っ飛んだヘンドリクソンに……イストファとほのぼのとお茶を楽しんでいた王が思わず咽たのは、言うまでもない。

どうでもいい豆知識:

ハルム流は結構新しい流派。ちなみに当主はステラが王都に来ると聞いた時点で泡を吹いて倒れました。

かわいそう。

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